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8.4 データ分析

 現行規格の統計的手法の要求事項が内容変更されたという一面もあるが、やはりプロセス・モデルを提唱する2000年版ISO9001の面目躍如たる要求事項の一つであるととらえるのが正しい。品質マネージメント・システムが顧客満足充足のために適切にかつ有効に機能しているか、また改善することができる領域がないかという積極的な行動を求めている。不適合品の管理のように「事後修正型」の考えではなく、分析データには、顧客満足や製品やサービスの適合性のみならず、プロセスとそのトレンドが対象となり、これはプロセス指向マネージメントそのものである。プロセス指向マネージメントでは、関与した人々の間違いを問題にするのではなく、プロセスそのものに焦点を当てて統計的手法をしながら現存のプロセス改善を継続的に行うことを目指している。この観点から現行規格に比べ格段の進歩が見られる。

 しかしながら、この要求事項を満たすことは統計的手法などに関心のなかった、あるいは必要としなかった企業にとっては難題となるかもしれない。この解釈では誤解を招く可能性があるので一言付け加えると、「統計的手法」という言葉は規格の文言には一切表現されていないことである。しかし、現行規格にはあった「統計的手法」が新規格では削除され簡略化されたという解釈は間違いである。データ分析という文言そのものにそれを示唆していると考えた方がよい。ただし、どの程度高度な手法を用いるかには言及していないので、企業にとって必要にして十分な手法を用いることでよい。パレート図のような単純なものから、実験計画法に基づくデータ集積など高度な手法の採用まで範囲は広い。統計的手法の使用の重要性を文献からの引用をしよう。

「統計的測定を正しく行うことは、企業内の新しい反応や返答のきっかけとなる、成功間違いのない方法である。そしてこの哲学が、コスト改善と顧客満足へ導くのである」(シックスシグマ・ブレークスルー戦略)

 新規格が求めているデータ分析の対象は、1)顧客満足(不満足はFDISで削除されたので、顧客苦情だけでは規格を満たさない),2)製品やサービスの要求事項への適合性、3)プロセス、製品の特性およびその変動傾向(トレンド)、そして4)下請け企業の実績である。少なくともこれらに関するデータが集められ分析が行われたことを示す客観的な証拠が残されることを品質マニュアルに定めることが必要となる。

 顧客満足に関しては8.2.1項で要求事項となっているので、何らかのデータは存在するはずであるからその分析をどのように行うかを定めることになる。連続的に行われた顧客満足調査、あるいは同等のデータを用いて分析すれば顧客の潜在的なニーズや期待を明白にすることもできるはずだ。これができれば、7.2.3項「顧客とのコミュニケーション」の要求事項に応えられる。言い方を変えれば、顧客のフィードバックとして「顧客満足の分析を通じて顧客のニーズ並びに期待を明らかにする」と品質マニュアルに記載すれば良いことになる。

 製品やサービスの適合性や製品の特性については、いろいろなデータが企業内に存在しているのが実態である。たとえば、製品の工程内検査結果、ホテルなどのアンケート結果、ベンチマーキングの結果、第三者機関や自治体による業界調査結果などである。これらは社内に存在しているが、必要部署が自部門の分析や製品開発の資料と使用し、全社的な目的に用いられていないことがある。この場合には、それらの部門の結果が集約できるように微調整を行う必要があろう。

 前項で述べたように、業務処理上の不適合(納期遅れや書類の誤作成など)は、このデータ分析の対象として取り扱う。これに類する不適合を「是正処置要求書」に記入することに定めている企業もあるが、新規格では単なるデータとして取り扱えばよいので、いたずらに社内書類を増やすことは必要ない。しかし、各部門が正確な情報を確実に収集し報告する仕組みは必ず策定することが肝要である。

 製造業に於いてはプロセスの能力や有効性を測るためにはサイクルタイムや直行率の概念を用いることが効果的であることはすでに述べた。サービス業でも同様で、顧客との電話対応タイム、アクセスの容易性などサイクルタイムの利用によって習慣的に行われている非効率なサービス提供を改善できることが多い。また、規格でも文言となっている「トレンド」の解析がプロセスの欠陥や改善点の発見に役立つことがある。単純な事例は、過去の製造工場や研究所の電力消費量を時間軸で記録し、翌年の消費量をプロットしてゆくだけでも異常を発見できることもある。小規模製造業ならば、制作機械別の良品率を連続して記録することでも多くの情報を得ることができる。

 いずれにしろ、これらの分析結果を次項の「継続的改善の計画」作成に役立ていることができるようにデータ収集と分析を行うことが重要である。

新規格への対応

 新規の要求事項であり、品質マニュアルにデータの収集と分析の基本的な手順を記載することになる。ここで留意したいことは、どのようなデータを収集し、どのような手法で分析するなど具体的なことを記載しないことである。なぜなら、収集対象のデータは、時間と共に変更され、分析手法も単純なモノから複雑な統計的手法に移行してゆくことが大いにあり得ることだからだ。品質マニュアルでの文言が漠然であったとしてもデータ収集と分析を行っている客観的証拠が残されていれば要求事項を満たしていることになる。

 もっとも重要なことは、規格が求めている四つの対象データを収集氏、分析した結果を継続的改善の計画策定に用いるという連続したプロセスが保たれるような整合性を確保することである。

(つづく。なお、いったん掲載した文面も修正・追加されていますからご注意ください。



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