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新規格への対応

 新規格の7.1項「製品の具現化プロセスの計画」で明らかになったすべてのプロセスに対して一つないしは複数のパラメーターを策定する。たとえば、購買部門の発注書作成グループならば、発注書の誤記件数などである。できれば、これの過去2年間の数値を用いてX-R管理図を作成する。当然、この管理図には「ばらつき」を表すシグマを計算している。過去の結果がなければ、新たに作ることになる。新規格への対応のためにどの程度業務プロセスを細分化することが問題になる場合があろう。部門別程度からはじめ、データの作成になれてくれば徐々に拡大していくことをアドバイスしたい。

 このパラメーターを策定する場合、自部門の「顧客」は誰かを明らかにしないと単なるデータ取りの行為になることに注意する必要がある。上記の発注書の場合なら、納入業者や下請け企業だけでなく、請求書を受け送金する会計部門も顧客となる。なぜならば、発注書の誤記による請求金額の間違いを訂正するために発生する会計部門の「品質ロス」が製品の価格に見えない影響を与えることがあるからだ。このような観点で、企業のすべてのプロセスを管理できる状況を作ることがコストの低減につながり、最終的には顧客満足に貢献することを認識することが肝要である。

 規格文言では何らの言及はなされていないが、統計的手法の適用が暗示されている。プロセスの測定とモニタリングには統計的手法が用いられることは一般であるから理解は容易であろう。X-R管理図は、その一例にすぎない。

8.2.4 製品の測定及びモニタリング 

 94年版4.10 検査・試験の要求事項と類似しているが、製品が良品として出荷されることを意図として新規格の要求事項はより拡大している。新規格は、「製品の特性を測定し、モニタリングする」ことを求めている。一方、現行の規格は単に「要求事項を満たしている」ことを実証するための検査・試験活動だけである。したがって極端な場合、中間検査などを行わず出荷検査だけを行い欠陥品がないことを確かめれば出荷することができる。しかし、新規格では、たとえば製品の特性がどの程度のばらつきをしているか、あるいは要求事項を満たしてはいるが精度はどの程度なのかなどを調べるためにサンプリングし、その測定結果を管理する必要がある。さらに、製品の具現化プロセスの適切な段階(複数)でこのような測定・モニタリングを行うことになる。すなわち、業務の測定・モニタリングで要求されていることを製品特性に焦点を当てた要求事項である。

 「検査」(94年版)と「測定」(2000年版)との違いであるが、検査はあくまで欠陥品がないかを調べる行為だけである。他方測定は、基準との比較によって確認するために形状、数量あるいは生産能力を採取する行為であり、検査よりも「上位の行為」を指している。さらに、モニタリングとは、厳密に観察するために定期的に、もしくは定常的に検査あるいはサンプリングすることを言う(以上、2000年版の定義による)。 このような違いがあることに留意する必要がある。

 次に、製品の特性に対する適合性を証明する客観的な証拠を記録する文書を作成することが求められている。条項5.5.7にしたがって品質記録として定義することも明確となった。また、出荷許可を与える「権限者」を定めることは言うまでもない。また、法規制の適用を受ける製品や第三者機関が発行する合格証明書や型式認定書も要求事項の一つであることがISO9004より理解できる。これらも顧客要求事項の一つと考えられるからである。

 現行規格で苦情も多く混乱を招いている「最終検査」の概念は残ってはいるが、その内容は軽減された。単に「製品の払い出しおよびサービスの引渡しは、規定されたすべての活動が満足すべき状態で完了するまで行われないこと。」となり、通常通り「現品表」管理を行っていれば問題はない。改めて、工程内の検査結果を再確認するなどと言うばかげたことは必要ない。むしろ、最終検査に至るまでの工程内のプロセスを厳密に管理する必要性を強調している。

 最後の要求事項は、「Waiver」であり、製品あるいはサービスの測定・モニタリングが完了していない段階で顧客に出荷する必要が生じた場合には、顧客による承認を得ることが条件となっている。日本での慣行は別にして、これは国際的には当然の事柄である。  

 一方、サービス業の場合には、この要求事項を除外できることが多いに考えられる。たとえば、ハンバーガー店やレストランで製品(飲食物)をいちいち検査するなどは不要であり、プロセスの妥当性確認と要員の資格認定を組み合わせれば検証を省略できる。

 検証活動には「製品の具現化プロセスの適切な段階(複数)で実施されること」となっているから、7.1項の「製品の具現化プロセスの計画」、8.1項「計画」、並びに7.4.3項「購買製品の検証」で定められた検査・試験との整合性に注意する必要がある。 

新規格への対応 

 製造業で現在認証を取得している企業は、すでにサンプリングを含む何らかの製品の検証活動を明確にし、実施しているはずである。ただ、その結果を用いて工程を管理していないなら何らかの方法、たとえばX-R管理図を採用すればよい。それもすでに実施されているならば追加もしくは修正も必要としない。むしろ現行の手順を踏襲することが至らぬ混乱を回避できる。検査記録は一般的に品質記録として管理されているから何らの変更は必要なかろう。

 サービス業に於いて顕著であるが、サービスの質に影響を与える特性を顧客によって明らかにされないことがあり、企業が独自にそれを定める必要が出てくることもある。サービスの特性を定め、その後それに対する適合性を証明するための方法を策定し、文書化することが求められる。もちろん、上記したようにプロセスの妥当性確認と資格認定要員との組み合わせによって「適用せず」と逃げることもできるが、戦略的にサービスの質向上を狙うならば、新たなチャレンジを試みることに大きな意義があると指摘しておきたい。少なくとも日本のサービスの質は、先進国の中でも最低の水準であるという認識を持つべきである。価格競争力を失ったホテルのサービスがその好例である。仕事は別にして観光のために日本の大都市を訪れようなどと考えるヨーロッパ人などいない事はそれを証明している。日本の銀行で多くの人が送金や入金に長く待たされてことに不満を持つ人は外国人だけだろうか。サービスの質は、サイクルタイムと顧客満足の二つの要素で決まる。よって、チャレンジすべきことは、顧客満足の最大化を目標としたサービス提供である。したがって、顧客満足の測定を連続的に行うことは、この要求事項を間接的に満たすと考えることができる。その結果を前項のプロセスの測定・モニタリングに反映し、サイクルタイムの削減などに役立てることになる。



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