8 測定、分析、および改善
8.1 計画
旧規格の4.1.3,4.10,4.13,4.14,4.17,4.20での要求事項が含まれ、しかも新規要求事項が追加されている。特に、サービス業を意識し、業務プロセス自体の測定・モニタリングが重要である。
製品・サービスの適合性を確保し改善を達成するために、検査、試験、計測、モニタリング活動を計画し、明確化し、実践しなければならないだけでなく、プロセスそのものも製品と同じようにモニタリング活動の対象となることに留意すべきである。すなわち、適合性に影響を与えると見なされるいかなるプロセスも検証の対象となる。さらに、サービスの領域に入る正確な情報提供(たとえば、間違いのない伝票作垂)なども適合性が求められ、改善されなければならない。
重要なプロセスに対して検査・試験工程並びにモニタリング方法(たとえば、x-R管理図の利用)を定めることになるが、旧規格の4.10章に対応している手順の一部(または、検査作業指示書など)として記載されている合否判定基準や業務の管理基準をいかに改善していくかをも含むので、留意しなければならない。
さらに、統計的手法を含む適用可能な手法の必要性とその利用を定め、計画に含めることが求められている。旧規格では、一つのエレメントとして独立させていたが、新規格ではこの項の要求事項の一文のみとなった。しかしながら、決して軽視されたのではなく、むしろ強化されたと言える。なぜならば、統計的手法を含む手法の適用範囲が改善活動や業務プロセスにまで拡大されているからである。とはいえ、幸いなことに「必要性」という文言によって、適用するしないの判断は企業側にゆだねられている。もしも小規模で単純な作業やサービス提供の企業の場合高度な手法を用いることが不必要であるならば、「適用する手法はない」とすることも可能である。ただし、品質目標の達成を測定・分析するために、QC七つ道具ぐらいは最低限使用することがあるから、統計的手法を全く無視することは困難となる。
新規格への対応
旧規格に基づいてすでに取得している企業ならば、製品の検査・試験の手順と内部監査の計画は作成しているから、顧客満足度の測定、並びに重要な業務プロセス(たとえば、購買部門の業務など)の管理対象・方法とその管理基準を定め、モニターリングの手段を定めることが追加的に必要となる。
製品の場合、測定・モニタリングの主要な要素には、受入検査、工程内検査、最終検査、出荷検査などが該当する。一方、業務やサービス業のモニタリングには、伝票作成時間、医療機関や銀行などの待ち時間、新規製品開発期間、顧客アンケート結果などサイクル・タイムの概念を応用した指標に用いて、その基準を定め、結果を分析し、改善計画を策定することが求められる。
次項の顧客満足度測定は必須となったので、何らかの調査方法、頻度、分析手法などを定め、経営者へのフィードバックをいかに行うかを明確にすることが必要である。
8.2.1 顧客満足
品質マネージメント・システムの成果測定の一つとして顧客満足(DISでは「もしくは不満足」も認められていたが、FDISでは削除されるようだ)に関する情報をモニターすることが必須となった。当然ながら、顧客満足情報をいかに取得し、どのように利用するかを定めることも求められる。これは、94年版において直接的に表現された要求事項ではないが、間接的には要求されていた。「経営者の見直し」および「是正処置」において、顧客苦情は経営者に知らされ、いかなる是正処置を講じるかを定める必要があった。しかし、最近の日本における食品や自動車業界の事故を見るにつけ感じるのは、これが実際には行われていないことがうかがえる。
さらに、94年版規格では明確な文言としては存在しなかったが、要求事項が最終的に求めていたのは顧客満足の達成であった。したがって、2000年版ISO9001は、この顧客満足を前面に押し出し、強調するために明確な規格文言として取り入れたとも言える。その論拠を規格の冒頭に見ることができる。すなわち、
「もはや品質保証という言葉を含まない規格タイトルとし、品質マネージメント・システムの要求事項が、品質保証を顧客満足と同義的に扱っている事実を反映している」
顧客満足の定義では、「サービスもしくは製品がニーズと期待を満たした度合いに対する顧客の見解」であるから、品質保証の骨格となる品質(サービスやモノの質)だけでなく、納期や情報提供など「顧客のニーズと期待」に対する顧客満足も含まれることは当然である。なお、DISでの定義である「顧客とのやりとり(トランザクション)」はFDISでは変更され、製品に関連するモノに限定されるようだ。
新規格への対応
顧客満足情報としてもっとも一般的に採用されているのは、アンケートや顧客満足度調査の結果である。ただし、規格は、このようなアンケートや調査を行えなどということは一切求めていない。しかし、情報技術が発達している現在、情報収集と分析に困難を伴うとは思えない。たとえば、自社のホームページにアンケート調査のページを設け、顧客に入力を依頼する程度のことはいたって簡単であり、コストは限りなく低い。アンケートを電話で行うことをいたって簡単である。
もっとも簡単に顧客満足情報を提供できる立場にあるのが顧客と直接接触する営業担当者である。したがって、顧客訪問報告書に顧客満足情報を記入し、それを定期的に収集・分析すればよい。ただし、その報告書に記載されている内容に客観性があるかどうかが疑わしいこともある。担当者の主観に基づいて作成される報告書が顧客の真の見解を伝達しているとは思えないことがあるからだ。もし上司による定期的訪問により再確認がなされているのが現状であるなら、上記したような情報技術の利用も有効である。
消費者団体や第三者機関による調査結果も重要な顧客満足情報である。たとえば、一般雑誌社が実施した電気製品に関する性能調査やJAFFによる衝突実験による乗用車の安全性に関する比較調査結果などがある。この場合、調査実施者は、第三者的立場にあることが肝要である。業界団体がスポンサーになり、業界に不利な結果は選択的に排除されことがあるからだ。
FDISでは、顧客の苦情を顧客満足情報としないと変更されたようだが、これらはアンケートや調査結果と共に情報分析には欠かせない重要な情報であることには変りはない。