ISO9001ミニ解説

2000年版ISO9001は、1994年版と大きく異なり規格文が前後に連結していたり、あるいはある要求事項が別の要求事項と相互にリンクされている。規格を理解するときにこれらの「つながり」を軽視すると本当の意味を誤解することにもなりかねない。それを避けるには、規格全体の「流れ」をまず知ることが望まれる。ミニ解説は、規格の文言に囚われずに全体を見渡せることを目的におのおのの要求事項の要点だけをまとめている。本格的な規格の解釈を始める前や社員への教育の資料になればと考えた。

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             品質マネージメント・システムー要求事項

4 品質マネージメント・システム

4.1 全般的に求められる事柄

品質マネージメント・システムでは基本的な分野に焦点を合わせ、システムに対する最終的な責任が誰にあるかを考える必要がある。さらに、どのような経営資源が求められているかをよく見定めて、主要な業務のプロセスとその成果をいかにして測定するのかを明らかにし、望ましい結果が得られるように措置を講じることである。

「この条項は品質マネージメントの8つの原則を基盤にした品質マネージメント・システムの全貌と基本的な概念を記述している非常に重要な要求事項である。プロセス志向で業務をコントロールし、企業を一つのシステムとして運営し、継続的改善を通じて業務プロセスの変革を行えば企業業績を向上させることができることは多くの企業で証明されている。ただし、このような品質マネージメント・システムの効能を信じてどの程度深く実行するかは企業の選択に任されている。国際規格では、どの程度、すなわち「How 」は一切ふれていない。自社の規模、製品の種類、顧客の特性、社員の能力、企業の成熟度などによって決めることになる。」(新規格の新しい本の未発表原稿より)

4.2 文書化

4.2.1 一般

品質方針、品質マニュアル、および品質目標を文書化することが求まられる。特に注意しなければならない点は。業務の手順、計画の作成、作業の運営である。これらの点でクオリティを管理するために何をするのかを記述する必要がある。また、品質記録を残すことも必要となる。これには手順を守って作業が行われたことを証明する文書はどれかを決めることになる。例えば、マネージメントレビューの議事録、顧客の苦情とその処置、内部監査結果などである。

文書化に関して、形式だとか文書の多さは何らの要求はなされていない。企業の規模、企業活動の種類、業務の複雑さによって一つ一つ違ってくる。 

4.2.2 品質マニュアル

品質マニュアルでは、品質マネージメント・システムは何をどう処理するのかを記述することになる。すべてのクオリティに関する手順を明確にするか、あるいは何を参照すればよいかを決める。そこで、品質マネージメント・システムと業務の手順とがどう関わっているか、期待した結果を達成するために何を行うか、誰に責任があるかを文書にすることになる。 

4.2.3 文書の管理

文書を適切に管理するとは、品質マネージメント・システムに関連するすべての文書が明瞭になっていること、レビューされていること、承認を受けていること、発行・配布されていることを意味する。そのためには、旧版で無効になっている文書が使われないこと、参照文書として決まられているならば厳格に保管されることに留意する必要がある。また、品質マネージメント・システムで用いられている外部文書は何かもシステムの中で明らかにされ、これらの文書にアクセスする時の管理方法も求められる。 

4.2.4 品質記録の管理

品質マネージメント・システムが正しく運営されていることを証明する文書は、明瞭ですぐに取り出せる必要がある。また、いま有効である文書とすでに無効になっている文書の両方をきちんと決める方策をもつことも必要である。

 

経営者の責任

5 経営者の責任

5.1 経営者のコミットメント

クオリティ向上活動を効果的に実践するには、企業のトップマネージメントが深く関与し、堅い決意の表明(コミットメント)がなされなくては成功しない。したがって、品質マネージメント・システムの構築を監督する責任をトップマネージメントに与えることから新規格は始まる。さらに、すべての利害関係者とのコミュニケーション、品質マネージメント・システムの運営に欠かせない経営資源の提供、品質マネージメント・システムが計画通り確実に運営されていることをレビューする責任も求められている。

5.2 顧客重視

トップマネージメントは、顧客が求めている製品並びにサービス面でのクオリティを明確にし、品質マネージメント・システムがこれらの要求を満たすことができるように機能させる。品質マネージメント・システムの目指す目標は、顧客の満足を向上させることでなければならない。

「最終的に正式になった規格では顧客の要求内容(Customer requirements)であるが、規格が決まる寸前までは【顧客のニーズと期待】であった。これを考慮に入れると、単に顧客が求める製品やサービスの内容を決定することとその実現だけでは顧客満足の向上は困難だという認識が必要になる。なぜならば顧客のニーズや期待は常に変化し、しかもその変化のスピードが速くなっているのが現状であるからだ。ならば、何らかの工作が必要になろう。規格は、その仕組みを【7.2.1項 製品に関連する要求事項の明確化】とともに【8.2.1項 顧客満足】で提示している。さらに、顧客のニーズと期待を把握する手段として【7.2.3項 顧客とのコミュニケーション】に含まれる「顧客が明示していない要求事項」や「製品の苦情」も考慮に入れることが必要になる。これで分かるように顧客志向のマネージメントが実行できるような仕組みが規格にはめ込まれているとも言える。」(新規格の新しい本の未発表原稿より)

5.3 品質方針

品質方針は、品質マネージメント・システムの主なる目的を明確にし、企業が何故にこの品質方針を採用するのかの事由を説明することになる。品質方針は、企業の広範な目的を単純化した文言で表現されることもあり、時にはもっと詳細な文書を作成し企業目的と共に、ISO9000規格で求められている業務分野での果たさなければならない責任を明らかにすることもある。規格に適合していると判断される品質方針とは、当然ながら各企業の目的に対して適切であり、しかも企業内全体に伝達され、その適切さはレビューされ、品質マネージメント・システムの効果を改善するために切磋琢磨し。顧客の要求を満たすことを目指した内容でなければならない。

5.4 計画

5.4.1 品質目標

品質方針との整合性がとれた計測可能な品質目標を策定し、組織全体に伝達すること。全社目標を受けて組織内の部門・レベルでの目標に展開すること。

5.4.2 品質マネージメント・システムの計画

品質目標を達成するための行動計画を策定すること。さらに品質方針を達成する上で有効に機能するように品質マネージメント・システムそのものを継続的に改善し、顧客満足を向上できるようにする。マネージメント・レビューを通じて品質マネージメント・システムの一部をを変更するときには、システムのエレメントの個々で整合性がなくならないように完全性を保つこと。

「新規格の【品質マネージメント・システムの計画】とは、システム・レベルの計画を意図した新しい規定である。JISの解説によると、「品質マネージメント・システムの計画プロセスをもつという新たな規定である」としている。いずれにしても、条項4.1の一般要求事項を満たすための主要な業務プロセスを明確にして、その運営基準やモニタリングを行うことを定めた品質マニュアルが構築されれば計画の作成は完了し、後は維持管理をすればすむことになる。となると残るは、品質目標の達成のための計画だけである。この計画の内容についての助言は、ISO9004にある。

・組織に必要な技量と知識
・プロセス改善計画を実施するための責任と権限
・財務やインフラストラクチャーのような経営資源
・組織の業績向上達成を評価する基準
・手法やツールを含む改善のための必要性

社員の能力や知識のレベル向上を図る、業務プロセスの改善プロジェクト実施、社員の能力開発のための教育プログラムの作成と投資費用、一人当たり生産性の向上、これらを実行するために必要な統計的手法の教育など経営計画そのものが浮かび上がるような内容が並び立てられていることが分かろう。」(新規格の新しい本の未発表原稿より)


5.5 責任、権限、およびコミュニケーション

5.5.1 責任と権限

すべての人々がどのような責任を有し、誰に報告するのかを認識している状況を作るには効果的なコミュニケーションと適切なマネージメントが行われる必要がある。このためには部門の責任は何かとどの程度の権限委譲を行うかを品質マネージメント・システムの中で明らかにすることが重要となる。責任部門が何か変革を行うとすると権限を持っていないということがあるが、権限を委譲してこのような状況を無くす必要がある。

5.5.2 経営者の代行(管理責任者)

質マネージメント・システムの運営上の責任を有する者を誰かに任命する必要がある。この個人を経営者の代行と云う。原文はManagement Representativeであってより広い責任と権限を有し、JISの管理責任者とはやや意味が違う。品質マネージメント・システムに関連する経営者の代行の責務には、品質マネージメント・システムに求められるプロセスを確立し、実施し、維持すること、さらに品質マネージメント・システムの成果と必要な改善を報告し、部門を越えて組織全体を通じて顧客の要求や要望に対する認識を高めることが含まれる。このためには、次項に続く要求事項である効果的な内部コミュニケーションを積極的に実施し、マネージメント・レビューの主導的な役割を担う重大な責任がある。

5.5.3 内部コミュニケーション

マネージメントと社員とのコミュニケーションを効果的に行うためのシステムもしくはプログラムを設立することが求められている。自社の品質マネージメント・システムとその目的は何か、そして達成しなくてなならないことや今解決しなくてはならない問題は何かを明確にし、議論するすることがコミュニケーションの対象になる事柄である。もちろんであるが、社員からマネージメントへのフィードバックが許されるシステムが必要となる。

5.6 マネージメント・レビュー

5.6.1 一般

すでに述べたように、トップマネージメントは品質マネージメント・システムが効果的に運営されることに対して責任がある。残念ながら現時点でベストとされる運営方法は見あたらず、ただ「モニターする」ことしかない。したがって、企業の目標が達成されることを確実にするには品質マネージメント・システムをレビューし、それを改善する何らかの方法を見つけだすことをトップマネージメント自らが実践する必要がある。レビューを何時行ったか、何が議論されたかを示す議事録を残すことが必要である。

5.6.2 レビューのインプット

マネージメント・レビュー会議はスケジュールに基づいて定期的に開催する。会議で以下の事柄が討議できるようにインプット情報を準備すること。
  ー内部品質監査の結果
  ー顧客からのフィードバック
  ープロセスや製品の品質がどのような傾向を示しているか
  ー前回の会議で明らかになった問題点
  ー前回の会議でフォローアップすることに決まった案件
  ー品質に影響を与える可能性のあるプロセスあるいは製品の変更の要否
  ー品質マネージメント・システムの運営、社員からのフィードバック、あるいは前回の会議を通じて分かってきた
   改善点は何か

5.6.3 レビューのアウトプット

品質マネージメント・システムの効果を改善できるとトップマネージメントが会議の結果の一つとして決定したならば、そのためにとられなくてなならないフォローアップ活動は何かを明らかにすること。すなわち、この改善活動によって顧客の要求をより満たすことができるか、品質マネージメント・システムを強化するために必要となる経営資源は何かを決めることでもある。


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