11月28日付け日経新聞の記事にこんなことが書かれていた。
「外国人の目に日本企業はマーメード(人魚)に映っている。上半身は国際競争力を誇る近代企業でも、下半身は株主や市場のチェックを受けない前近代経営の意味だ」
この10日間ほどの間に起こった金融界の不祥事や倒産を見ていると、指摘されているような前近代経営をさらけ出してしまったとしか思えない。また、同日付けの日経新聞の「経済教室」では、経営倫理を取り上げている。ここでも、日本企業は、国際時代にふさわしい経営倫理を再構築することが早急に求められているとしている。国際企業の倫理規定はどんなものかを具体例をもって示したい。なにか衝動的かもしれないが、在職時代に経験したことを思いつくままに述べる。
シンガポールでの海外勤務は、日本がバブル経済に酔って、日本企業は経費を湯水のよう使っていた時代だった。日本からの訪問者が絶えず、その接待に時間を多くとられていた。そんなある日、日本のある自動車会社からの訪問者を、関係部門の責任者に会わせるためにシンガポール本社に案内した。訪問者は、手土産をこの責任者に渡そうとした。すると、責任者は手土産の中身の価値は20米ドル以下かと質問した。訪問者は、会社名の入った品物で高価なものではないと説明した。 そこで責任者は、「誰であっても20ドル以上のものは受け取ってはならない倫理規定があるので、確かめたのだ。」と言って、開封して中身をしらべた。
アメリカ勤務のときの例を挙げよう。友達だったフィリッピン系のアメリカ人の話である。ある日彼は、冷蔵庫をショッピング・センターで買った。ところが、業務に必要な費用を支払うためとして会社が社員に貸与したアメリカン・エクスプレスのクレジットカードを彼は使ってしまった。その後しばらくして、彼が郊外で開催されていた会議に出席していたときのことだった。本社の監査部員に会場から呼び出された。そこで、彼は解雇通知を受け取った。これに類した話はもっとあるが、ここではこの一件だけとする。
私自身の話もしよう。下請け業者(と言っても関西では大きな企業)がISO9000の認証取得活動開始に当たって、管理職向けの説明会をもった。その日の講義をしてほしいとの依頼がわたしにきた。断る理由などないので、半日の時間を使って「ISO9000 A-to-Z」の話をした。その夜の夕食の席で謝礼金の入った袋を手渡された。これは受け取れないと、強行に説明したが聞き入れていただけなかった。翌日会社に戻った私は、さっそくマネージメントに謝礼を受け取ったむねを報告し、処置策の指示を依頼した。結局、雑収入として会社の入金扱いとなった。これと同じ話がある。今の社長が就任したときに、ある日本の会社がお祝い金を彼に送った。彼は、わたしと同じように会社に報告し、適切に処置した。
社員全員がこのような経営倫理にしたがって行動させるために、経営者は努力を惜しまない。ではどんなことをするのかだ。会社は、2年に一回倫理規定や独禁法に触れるような行動を会社は許していないことを、社長みずから全事業所にいる社員に説明し、管理職にあるものは文書に署名をさせる。この文書に署名すると言うことは、上で説明したような行動を絶対しないと会社に確約したことになる。とは言うものの、社員もそうするのが当然と考える風土を育てることは並大抵ではない。事実、多くの社員の中には規定に違反する人も出てきたこともある。違反が発覚したために、日本人でも解雇された事例を知っている。このように、国際企業は、高い価値観を倫理規定に当てている。もし、守れなかった場合には、多大な損害を個人にも会社にももたらすことを彼ら経営者は周知しているからだ。
日本企業も、このような経営倫理に基づいた行動をとらないと世界から「のけ者扱い」される可能性があることに、強い危機感を持つべきと考える。また、「日本経営品質賞」は、経営倫理に関しては社会的責任として大きなウエイトをおいている。したがって、経営倫理に高い価値観をおいた経営理念を貫く企業でなければ達成できない賞であることは間違いない。
日本道路公団の汚職事件が日本の社会問題となっている。それとともに、日本企業の接待の仕方が多くの人々によって議論されるようになった。外資系会社の倫理規定もテレビで紹介されるまでに至った。そんなとき、2月10日付け朝日新聞に、豊田経団連会長が「接待は自分の金でやるのが原則だ。」と語り、ニューヨークでの体験を紹介している。「向こうでは、経済界のお偉方でも、自分の車でレストランに行き、自分の財布から金を出して払っている。」と言うが、これは間違いだ。まず絶対に「財布」から現金を出さない。もし、現金で払うなどを店員に言えば、まじまじと顔を見られ、「もう来てくれるな。」ぐらいの態度をする。なぜなら、クレジット・カードも使えないほど信用がないとなるからだ。本論に戻る。「向こうでも」(こんな言葉を本当に豊田会長が使ったのだろうか?気になる。)民間会社同士なら日本と同じで、ある程度の交際費は認められている。レストランでの食事なら一人当たり30−60ドル程度ではあるが、問題なく接待費として計上できる。それどころか、自宅にお客を招待することが多いが、これらの費用は全部交際費である。スーパーマーケットやリッカーショップでの買い物の領収書を添付して会社に請求する。さすがに光熱費はできない。この場合に、私用に買ったものが入っていることがはっきりしたら、ほとんどの場合、解雇となる。やはり、常識はどの国でも通用するのである。今回の汚職事件のように、誰が考えても非常識なことをすれば世間は許さない。バブル経済で日本人はこんな常識までも失ってしまったことを声を大きくして訴えたい。