「日本経営品質賞」の八つのモジュール
1997年版「日本経営品質賞」の骨格となる八つのモジュールを下図に示す。米国の「マルコム・ボールドリッチ賞」と同様に、毎年審査基準が多少変わることを指摘しておきたい。ただし、この八つのモジュールはほとんど変わらないが、審査基準を示す点数は変更されることがある。
この八つのモジュールには、さらにサブモジュールがあり、それぞれに評価基準となる点数が割り当てられている。すべてを一覧表にすると、下表のようになる。事業活動の成果に200点が配分されていることに注目してほしい。他のモジュールに配分されている点数に比べ、企業活動の最終結果であるバランスシートがいかに健全でなければならないかが強調されている。いくら品質活動が盛んに行われていても、企業の利益が確保されていなければ、本当の品質活動とは言われない。ISO9000では、企業の財務面はいっさい考慮されていないことを思えば、「日本経営品質賞」の経営理念は遥かに優れていることを、この点だけを見ても理解できる。
さらに、注目すべきは、人材開発に対する企業活動に重きを置いていることだ。なんと、品質活動と同レベルの努力が求められていることは、日本企業はどうとらえるのかに大いに興味がある。しかも、忘れてはならないことは、米国の「マルコム・ボールドリッチ賞」も同じように人材開発や学習環境の整備を強調していることだ。ここに、現在の米国の経済の強さがかくされている。中高年を対象にした「リストラ」をただただ短期利益を求めている日本の企業は、もって銘すべきと考える。
今後,それぞれのモジュールにつぃて詳しく解説することになるが、ここでは顧客評価の切り口でISO9000のマネージメント・システムを考察するとどうなるかを簡単に述べておきたい。「日本経営品質賞」の審査基準で述べられているコンセプトの一つとして、顧客評価の「クオリティ」とする新しい概念が導入されている。その詳細は省くが、次の四段階の進化・発展が顧客評価の「クオリティ」にはあるとしている。すなわち、
第一段階は、顧客要求に適合させるだけをめざして企業活動をおこなっている。
第二段階は、顧客のニーズと期待を理解し、顧客指向の風土が出来上がっている。
第三段階は、競合相手と比較しても能力や実績が優れていることが明らかである。
この判断には、ベンチマーキング手法が用いられている。
第四段階は、自社の競争力を十分に分析して、新しいビジネスに参入することができ
る能力を保持している。顧客価値分析が十分に活用されている。新規
参入のためには、組織を再編成することもやり遂げている。
この概念から理解できるように、ISO9000を取得して、品質システムを効果的に運用している企業であったとしても、せいぜい第二段階にしか達していないことになる。これがISO9000の経営システムの限界であることを指摘したかった。したがって、さらなる向上を図るには、「日本経営品質賞」で審査される経営手法を学ぶしかないと言える。