「日本経営品質賞」とは何か?

余りにも多くの要素から成り立っているので、この質問に答えることは、非常に難しい。そこで、味方守信氏の書籍の一文を引用することから始めたい。

「『日本経営品質賞』は、グローバルな競争市場の中で生き残って」いくために、『顧客からの視点で会社や製品・サービスを評価し、新しい価値を創造し続ける企業』になる目標への道標を示そうとしている。この目標は、バブル経済が崩壊した後のパラダイム・シフトの中で描くあるべき姿である。企業はこうした目標に対し、自らの現在の位置と未来に向けた能力、健康度を知る評価基準と、目標に到達し成功をもたらすナビゲーッション・システムを必要としている。」

右肩上がりの日本経済を背景にした企業経営は、もはや時代遅れとなっていることは、周知のこととなった。そこで、二十一世紀に向かう方向はなにかを示したのが、「日本経営品質賞」と言っても差し支えない。しかし、大方の日本企業にとって、決して簡単なことではないことを、このホームページで理解することが出来るであろう。

次に指摘しておきたいのは、品質保証の国際規格ISO9000や環境のISO14000のように、マニュアルや手順書を作成し、実施すれば認証を受けられるものではないことである。「日本経営品質賞」の審査基準に基づいて、企業は自らが行っている企業活動を記述(事業概要5ページ以内、報告書75ページ以内)し、書類審査のために日本経営品質賞委員会に提出しなければならない。書類審査によって、企業活動が審査に価すると判定された場合のみ、審査員による審査が実施される仕組みとなっている。したがって、本当に卓越した企業でなければ、受賞はありえない。

受賞のために企業側が行うべき行為は何かであるが、簡単に説明できないほど多くののことを業務に取り入れなければならない。まず、推進者は十分に審査基準を理解することから始めなければならない。しかる後に、企業の経営者は、企業活動のすべての分野における変革を計画・実施するためのリーダーシップを最大限に発揮する必要がある。このリーダーシップそのものも審査基準となっているので、ただ号令だけをかけていればよいなどとは、決してならない。この経営者の責任の重さと意識改革の必要性は、品質保証の国際規格ISO9000などとは、比べられないほど大きいと言える。

このパートの終わる前に、指摘しておきたいことは、「日本経営品質賞」の生みの親は、アメリカ国家品質賞である「マルコム・ボルドリッチ賞」であることだ。レーガン大統領の時代に生まれたこの賞によって、今日の米国経済があると信じている一人が私である。巻頭の新聞記事のとうりだと思っている。その証拠と言うわけではないが、1990年の受賞社の一つであるフェデラル・エクスプレス社が多大な発展をなしとげた事実に目を向けていただく。
この会社のシステムに驚いた事例を紹介したい。駐米生活をしていた1989年にテキサス州サン・アントニオで妻と休暇を楽しんでいたときの事だが、ある瀬戸物の店でメキシコの作家による陶器を買った。旅はまだ続くので、持ち歩くのは不便だ。そこで郵送することにした。店員は、何日に配達すればよいかと尋ねた。その瞬間には、その意味がよく理解出来なかった。よく聞くと、なんとフェデラル・エクスプレス社のサービスの一つで、私たちがニュージャージー州に帰宅する日以降の配達日を指定できたのには驚嘆した。今では、日本でも当たり前になっているが、その当時には、少なくとも私にはそのようなサービスをする企業には思いあたらなかった。その後、この企業は、コンピューター技術の効果的活用の基に、世界中で配達される荷物が今どこにあるかを直ちに答えられるシステムを構築した。世界でのサービス産業の発展を促した企業の典型である。このような企業を育てるのが、「マルコム・ボルドリッチ賞」の求めている企業活動なのだ。そのままコピーしたものではあるが、「日本経営品質賞」の求める企業活動は、今日の日本企業が考慮するに値すると考える。

最後の最後として、また味方守信氏の書籍の一文を引用したい。

「日本の企業がこうした米国産業の再生を演出した『経営の教科書』に注目するなら、日米製造業の再逆転が言われる中で、『経営品質の継続的改善のための自己診断システム』を持つ必要性はいまさら強調するには及ばないかも知れない。日本経営品質賞審査基準書を一日も早く消化することが競争市場での勝者の条件となるであろう。」

ISO規格と「日本経営品質賞」との相違点

ISO9000のページで解説しているように、ISO9000もISO14000もともにマネージメント・システムである。したがって、「日本経営品質賞」のシステムは、これらのISO規格と比較できる。しかし、システムの内容をそのまま説明文によって比べることは得策とは言えない。なぜなら、余りにも複雑な内容となるからである。そこで、下図を作成してその相違点を可視化した。

「日本経営品質賞」やISO規格が求めている業務範囲の広さと基準の高さを、それぞれ横軸と縦軸にとると、これらのシステムの違いが明瞭になる。「日本経営品質賞」のシステムは、ISO規格とは遥かに広く、高度なメネージメント・システムである。幸いにして「日本経営品質賞」の審査結果は数値化(1000点満点)できるので、ISO規格が対象とする分野と要求度を数値で比較できた。その結果によると、ISO9000は「日本経営品質賞」の2割程度しかカバーしていなかった。このような関係が明確になってくると、ISO9000は「日本経営品質賞」への第一歩であることを理解できるであろう。また、ISO9000とISO14000とを比較する議論がいかに無意味であるかも明白である。さらに、冒頭で述べたように、小規模な企業でははっきり言って必要のないシステムである。しかし、志を高くもつために知っていることはなんらの障害にはならないと考える。

最後に、指摘しておきたいことは、1999ー2000年に予定されているISO9000の改訂にあたっての米国の主張である。ISOの総会では、ISO90004の品質システムの改訂が俎上にあがっているが、米国は、「日本経営品質賞」の親である自国の「マルコム・ボールドリッチ賞」の方が優れたシステムであるとする立場で議論が進められている。とは言っても、この動向は流動的であるから、いまから懸念する必要もなかろう。たとえ、現実になったとしても、ISO9000認証を取得している企業なら、なんらかの方法で対処できると考える。

「日本経営品質賞」の八つのモジュール

1997年版「日本経営品質賞」の骨格となる八つのモジュールを下図に示す。米国の「マルコム・ボールドリッチ賞」と同様に、毎年審査基準が多少変わることを指摘しておきたい。ただし、この八つのモジュールはほとんど変わらないが、審査基準を示す点数は変更されることがある。

この八つのモジュールには、さらにサブモジュールがあり、それぞれに評価基準となる点数が割り当てられている。すべてを一覧表にすると、下表のようになる。事業活動の成果に200点が配分されていることに注目してほしい。他のモジュールに配分されている点数に比べ、企業活動の最終結果であるバランスシートがいかに健全でなければならないかが強調されている。いくら品質活動が盛んに行われていても、企業の利益が確保されていなければ、本当の品質活動とは言われない。ISO9000では、企業の財務面はいっさい考慮されていないことを思えば、「日本経営品質賞」の経営理念は遥かに優れていることを、この点だけを見ても理解できる。

さらに、注目すべきは、人材開発に対する企業活動に重きを置いていることだ。なんと、品質活動と同レベルの努力が求められていることは、日本企業はどうとらえるのかに大いに興味がある。しかも、忘れてはならないことは、米国の「マルコム・ボールドリッチ賞」も同じように人材開発や学習環境の整備を強調していることだ。ここに、現在の米国の経済の強さがかくされている。中高年を対象にした「リストラ」をただただ短期利益を求めている日本の企業は、もって銘すべきと考える。

今後,それぞれのモジュールにつぃて詳しく解説することになるが、ここでは顧客評価の切り口でISO9000のマネージメント・システムを考察するとどうなるかを簡単に述べておきたい。「日本経営品質賞」の審査基準で述べられているコンセプトの一つとして、顧客評価の「クオリティ」とする新しい概念が導入されている。その詳細は省くが、次の四段階の進化・発展が顧客評価の「クオリティ」にはあるとしている。すなわち、

第一段階は、顧客要求に適合させるだけをめざして企業活動をおこなっている。

第二段階は、顧客のニーズと期待を理解し、顧客指向の風土が出来上がっている。

第三段階は、競合相手と比較しても能力や実績が優れていることが明らかである。
      この判断には、ベンチマーキング手法が用いられている。

第四段階は、自社の競争力を十分に分析して、新しいビジネスに参入することができ
      る能力を保持している。顧客価値分析が十分に活用されている。新規
      参入のためには、組織を再編成することもやり遂げている。

この概念から理解できるように、ISO9000を取得して、品質システムを効果的に運用している企業であったとしても、せいぜい第二段階にしか達していないことになる。これがISO9000の経営システムの限界であることを指摘したかった。したがって、さらなる向上を図るには、「日本経営品質賞」で審査される経営手法を学ぶしかないと言える。   

    


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