環境側面と重大影響特定
 ISO14001規格では、環境側面に関する要求事項はたったの数行ほどであるが、なにが環境に大きな影響を及ぼすかを明確にすることは困難を伴うことが多い。実施するには、まず組織の環境側面をリストアップし、その中から著しい環境影響がある環境側面を選び出し、その選び出された環境側面に焦点を当ててシステム作りを行うだけだが、これがなかなか難しい作業となる。しかし、このページですでに述べているように、小規模企業に於ける「著しい環境影響」は思うほど多くはないのが実態であろう。規格での定義を確認のために記載しておく。「活動、製品またはサービスのうち環境と作用しあう要素」となっている。すなはち、環境へ影響を与える、あるいは環境を変化させるかもしれない企業活動のプロセス、製造装置や施設などを対象にすれば、その「環境側面」を特定できるはずだ。ここで、注意しなければならないことは、たとえ現時点では問題が表面化していなくとも、可能性のあるものも考慮の対象としなければならないことだ。この作業を映画や演劇の「シナリオ作り」と考えれば分かり易いと考える。

 環境側面が特定できれば、影響の程度あるいはその重大性を評価することになる。エネルギー消費量、排ガスや廃棄物の量などを計算式を用いて算出することが一般的である。電力消費量から炭酸ガス量を算出するのと同じである。この作業に用いられる「環境側面と環境影響の相関基準」や「環境影響の重大性の評点」(ISO14000関連書籍に記載されている)などがあるので、これを利用することを推奨する。また、この環境影響の重大性評価には、「環境影響評価シート」を用いて、評価もれがないようにすることも肝要である。また、従業員数によっても影響の重大性も変わってくることは当然である。たとえば、消費電力、上水や排水が従業員数に比例して増加する。

 では、小規模な製造業で考慮しなくてはならない環境側面を列挙しよう。

  燃料、電力、水、包装材料
  排水、排気、廃棄物、騒音、振動、悪臭、特定粉塵、土壌汚染、景観・電波・日照

 これまで述べてきた環境側面と影響重大性評価をマニュアル化するならば、小規模企業では次のようになる。

 環境側面

 当社の事業活動および製品・サービスの環境影響を、「環境管理計画策定規定」(規定1−1)の手順に従って、以下の環境側面について評価を実施する。なお、この環境側面の明確化・見直しを年一回の頻度で環境担当責任者の責任のもとに実施する。
 1.大気中への放散物
 2.水中への排泄物
 3.固体およびその他の廃棄物
 4.土壌、水、燃料、エネルギーおよびその他の天然資源の利用
 5.騒音、臭気、粉塵、振動および照明
 6.生態系を含む環境の特定部分に対する影響

この評価に当たっては、次の状況を想定してその重大性を評価する。
 1.通常の作業条件
 2.異常な作業条件
 3.事故および将来予想される非常事態

これらの環境影響の評価には、「環境影響の重大性基準表」(付属書類1−1)を用いて「環境影響評価シート」(環境書式1−1)に、評価結果を記録する。

 「環境影響の重大性基準表」および「環境影響評価シート」は省略するが、それぞれの環境影響項目毎に環境影響を三段階「有害」「中程度の有害」「有益」と評価すればよい。 たったこれだけのことである。




法規制その他の要求事項の明確化

 規格での文面は下記のように、たったの三行である。にもかかわらず、システム構築時の作業は困難を伴う。

 「組織は、その活動、製品又はサービスの環境側面に適用可能な、法的要求事項及び組織が同意するその他の要求事項を特定し、参照できるような手順を確立し、維持しなければならない。」

 安全・衛生の規定づくりの時の体験だが、取得企業の事業所に関わる法規制を探し出すだけでも、大変な時間が必要だった。「コンビナート法」など国の法規制にはある程度の知識があるので、見つけやすい。しかし、地方自治体が独自に制定している公害防止条例などは、適用する条項を探し出すには専門家の手助けが必要だった。ISO14000の普及が進んでいる今は、インターネットや関連図書が多くあるので何とか「特定」できるだろう。このページのリンク集を使って、その目的を果たすことができるようにしているので、利用してほしい。念のためだが、法規によっては、事業の規模(たとえば、従業員数や事業所の面積)によって適用しなくてもよいものがあるので注意してほしい。

 規格の文言で分かるように、適用法規を「特定」するだけでなく、たえず「維持」しなければならない。法規制は生き物であり、たえず変更されたり、追加されたりする。それらを「維持」することは、構築時の「特定」以上に困難である。たとえ大きな法規が制定、発効されたとしても単に役所で官報として張り出されるだけだからである。役人からすれば、官報が発効するまでに、法規の対象業界と十分な討議を重ねてきているのだら大がかりな広報手段を必要とはしないとする立場であろう。とすれば、一般企業は自衛するのみだが、小規模企業で法律専門家のサポートを得ることは難しい。やはり、業界の仲間からの情報が入ってくるように人脈を持つことが出来うる関係維持や役所からの広報に注目する必要がある。

 当然規格は、このように法規遵守が出来るように、仕組みを作ることを要求している。環境マニュアルでの文言例は、下記のようになる。

法的及びその他の要求事項

 当事業所が遵守しなければならない環境関連法規制及び行政指導を含むその他の要求事項は、下記のものである。
 1.水質汚染防止法
 2.廃棄物の処理及び清掃に関する法律
 3.大気汚染防止法
 4.公害防止協定
 5.消防法
 6.騒音規制法
 7.労働安全衛生法
 8.エネルギーの使用の合理化に関する法律
 9.工場立地法
 10.藤沢市騒音防止条例

 原則として年一回の見直しを行うことにより、当事業所は、環境に関わるすべての法規制その他の事項を遵守する。上記の法規制およびその他の環境関連規制の本文は、当事業所内に保管し、すべての従業員がいつでも閲覧できるようにする。また、顧客や地域住民の要求がある場合には、その写しを提供する。

 また、環境担当責任者は、新たに発効された法規およびその他の遵守事項が生じた場合には、速やかにその内容を経営者に報告し、「環境管理計画策定規定」(規定1−1)の手順に従って当該マニュアルに追加する。

 以上でも十分であるが、上記の法規の主要な要求事項、適応側面、すなわち、設備や工程を一覧表にして明確にするなど工夫をすれば、なお完全なマニュアルになる 。




環境目的・目標の策定

 規格での要求事項の要点は、「文書化された環境目的および目標を設定し維持しなければならない。」ことと、「環境方針と整合させなければならない。」であろう。「関連する各部門及び階層で」環境目的・目標の策定を要求しているが、これは日本でも品質管理の一種として採用された「方針展開」である。退職した会社の実例を話そう。ある化学部門の全世界の最高責任者が、五つの基本方針を決めると世界中の研究・開発部門や販売部門を含む全事業所は、それぞれの国の事情を勘案してその事業所に対応した方針を決める。さらに、その事業所内の各部門がさらに実行可能な方針を定め、具体的な目標を作り上げることである。この作業をするために、各部門の従業員がホテルに泊まり込んで一日がかりで作り上げたこと、そして新製品の開発には「環境にやさしい添加剤」などとしたことを思い出す。これが、トップ・ダウンのマネージメントシステムである。しかし、小規模企業では基本的には一階層であるから、このような階層別目的・目標など全く無視してよい。規格で求めているからなどと考える必要は一切ない。

 目的は、品質システムと同様に経営者が策定する環境に関する中長期(5-10年)目的である。たとえば、「廃棄物発生量については、1997年度の基準に対し、2004年には40%を削減する」などである。環境システムを構築したときに定められた「目的」を毎年変えるようなことにならないモノと整理すれば分かり易いだろう。一方、目標は、「1998年の削減は10%である」すればよい。このように、「環境影響評価」に基づいて判明した主たる環境影響に対して、目的と目標を策定することになる。当然のことながら、経営者が定めた「環境方針」と矛盾があってはならない。

 規格は、ただ目的と目標を定めればよいではなく、環境目的・目標を、だれが、どのように、いつ作成するのかのプロセスも文書化し、維持管理出来るように要求している。では、具体的にマニュアルはどうなるかを下記する。

環境目的・目標の策定

 当事業所の環境目的・目標は、下記の事項を考慮し、「環境管理計画策定規定」(規定1−1)の手順に従って策定する。

 1.環境方針で定められた事項
 2.関連する法規制上の要求事項
 3.環境影響評価結
 4.地域住民への配慮
 5.選択肢として技術上、財務上、運用上の困難さ
 6.定量化の可能性

 当事業所は、階層別目的・目標の策定は行わない。したがって、全組織が実施するに当たって共同・協力しながら達成するための環境目的・目標を下記する。

 1.省エネルギー
   方針:地球温暖化防止、天然資源の保護
   目的:エネルギー消費量については、1997年度の基準に対し、2004年
      には50%を削減する
   目標:1998年の削減は10%である
 2.廃棄物対策
   方針:環境汚染防止、天然資源の保護
   目的:廃棄物発生量については、1997年度の基準に対し、2004年には
      40%を削減する
   目標:1998年の削減は5%である
 3.レスペーパー推進
   方針:森林保護
   目的:コピー用紙、伝票、コンピュータ用紙の消費量は、1997年度の基準
      に対し、2004年には30%を削減する。
   目標:1998年の削減は10%である

 当然のことながら、これらの目的・目標は企業の業種、規模、地域などによって大きく変わる。上記の目的・目標は単なる一例にすぎない。文面も内容によって変わる。


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