今日本では、環境管理の国際規格ISO 14001認証取得に多くの企業が血眼になっているようにうつる。確かに環境問題は地球規模で深刻化している。企業が率先して環境管理を奨めることはよいことであるが、ただそれだけでは環境問題は解決しない。人間の意識改革が必要と提唱したい。法政大学総長 清成忠男氏と安田火災海上保険会長 後藤康男氏の対談で、同じようなことが話されている。その中で、貴重な意見として残しておきたいことを転載する。
環境問題は地球レベルの問題で。全員参加で世界が同時にやらなくてはなりません。たとえば、中国の大気汚染などの問題、CO2は世界を巡っているわけですから、中国だけの問題ではありません。中国の工業化は先進国とは違う形で進める必要があるでしょう。それに先進国がどう協力していくか。先進国と発展途上国、経済力も違う、文化、宗教も違う人たちが同時にやる。政治、経済、社会あらゆる場面を通じてやっていく必要があります。
同時に人間の心を変えなくてはいけないと思います。その意味でやはり教育、家庭教育から始まって学校教育、社会、企業内教育すべてが重要です。環境問題の古典的名著である「沈黙の春」を書いたレイチェル・カーソンが「センス・オブ・ワンダー」の中で、体験させて感動させる、知識より感動にはるかに価値がある、やはり自然に接する原体験が必要であると言っています。では教育が大事だと言って、どうすればよいのか。私は社内では「認識から行動へ」ということで、知ったことはまず実行しよう、レベルの差があっても自分が一応こうだと思ったこと、身近なことから実行しようと言っています。(後藤康男氏)
西欧型の近代主義は明らかに資源収奪型なんです。マックス・ウエーバーは、封建制から資本主義への移行時に資本主義の精神にプロテスタンティズムの論理が付与したと指摘しています。これは勤勉とか合理性とかをいったのですが、結局は資源収奪型に行き着いてしまった。環境容量が十分に大きかった時代はそれでいいのですが、今はもう限界に来てしまった。それが92年の環境サミットで初めて本格的に認識されたと言うことです。92年は人類にとって大きな転換期になりました。それ以降の動きはどんどん早くなっていますからね。(清成忠男氏)
期待したいのは「平成の坂本竜馬」の登場です。竜馬は日本中が幕府とか藩とか言っている時に、それを乗り越えた日本国という思想を持っていました。企業益、国益を超えて、人種・性別を問わない地球市民として「地球益」を考えるのが「平成の坂本竜馬」です。(後藤康男氏)
現在のリサイクルの仕組みは、大量生産、大量消費、大量廃棄という時代の価値観の中で生まれたものだ。これからの「環境時代」では、単にリサイクルするだけでなくて、リサイクルして意味のあるものをどうつくるかという発想をしなくてはいけない。回収を前提にした生産体制になれば、設計思想、素材選定、製造過程、回収方法などが変わり、モノづくりの哲学そのものが変わってくるだろう。
大量生産の時代には消費者ニーズという言葉が通用したが、これは企業側の責任転化にすぎなかった。これからの資源循環型社会では環境負荷に関する基準と情報公開が前提になる。現在注目されている「ISO14001」は、企業が環境負荷に関する自主基準を宣言して、それを消費者が監視するというもので、これからは消費者の責任も問われる時代になるだろう。(徳江倫明氏)
徳江氏が指摘するように、消費者自身の意識変革がなければ環境問題は解決しないという意見をこのページでも述べてる。たとえば、スーパーに買い物に行くならば、買い物籠を使ってプラスチック袋をもらわないようにする、本のカバーシートは遠慮する、過剰包装のみやげ物は買わない、などいくらでも個人レベルで環境負荷低減に貢献できる。
海外に出かけてみると気付くことの一つは、その国の道路だとか家の広さによって一番経済的な車に乗っているである。なのに、日本人は相変わらず大きな車がすきなようだ。環境と車の関係は深い。もっと個人の意識を変えて、小さな車にしてほしい。同じ意見を、科学技術庁金属材料技術研究所総合研究官(どうしてこんなに長い肩書きなのだろう)八木晃一氏が述べている。
「十年前の1300CCの車と現在の同種の自動車を比較すると、エンジンの性能も良くなり環境負荷は減少している。ところがみんな3ナンバーの大きな車に乗って、5ナンバーの車には乗りたがらない。どうしてもっと謙虚になれないのだろうか。こういう生き方を変えないと、いくらきれいごとを言ってもだめだと思う。」
「大量リサイクルは問題がある。ヨーロッパの人たちは、非常にモノを大切にして使う。リサイクルしなければならないものだけリサイクルして使うというのが基本的考え方だ。日本もかつてはそうだったが、この2,3十年ですっかり変わったことが問題だ。また、現在の技術ではリサイクルすると製品の質が劣化するという問題がある。北九州市の環境コンビナートは、リサイクルしにくい点があればどんどん情報発信してほしい。それによって企業や研究機関の技術開発にインパクトを与え、製品設計や材料設計の技術も向上していくと思う。」