ISO 14001を易しく理解するために

朝日新聞の記事をそのまま転載する。会話形式をとっていて、ISO 14001の初歩的理解に役立つと思う。

Q 横浜市にある武蔵工大の環境情報学部が国内の大学で初めて、環境管理の国際規格「ISO 14001」を取得したようだね。
A 私の会社も取得を目指しているから、詳しく話を聞いてきたんだけど、ISO は国際標準化機構の略称で、ISO 14001というのは、環境への悪影響を減らすための経営管理システムについて定めた規格番号なの。
Q ISO ってネジとかフイルムとか工業製品の規格を決めたところだよね。なんで環境管理の仕方まで決めるようになったの。
A 管理システムで最初にISO規格になった品質保証もそうだけど、ある水準以上のきちんとした管理をしている企業でないと、取引をしたくないという風潮が国際的に強まって、こうした規格ができたそうよ。
Q 工業製品の規格なら分かりやすいけど、環境の規格ってどんなものかな。
A 大枠としては@組織の経営・管理者が環境方針をつくるAその方針に基づいて具体的な計画を立案するB計画を実施するC結果を点検するD経営・管理層が全体を見直す、というサイクルが継続的に動くように、内部監査を実施するとか、業務遂行の手順や責任と権限の文書化、構成員の訓練など、五十二もの要求事項があるそうよ。
Q 武蔵工大は、具体的にはどんな取り組みをしているの。
A まず、学部長が「キャンパス内のすべての活動が環境と調和するよう十分な配慮を払う」という環境方針を公開したの。それに基づいて、実行したり、改善したりすべき項目を洗い出し、計画を立てたわけ。2000年度の電力使用量を現時点での予測より8%減らすとか、リサイクル可能なゴミを100%再資源化するとか。項目ごとに年度目標や実現手段も明記しているし、自動販売機の缶飲料メーカーに空き缶を引き取らせるなど学外にも働きかけているそうよ。教授会に省エネルギー部会や省資源部会などをつくったほか、ボランティア学生によるISO 学生委員会も組織したんだって。
Q 規格に合っているかどうかは、だれが判断するの。
A ISO は何も決めていないの。自分で「ISO 14001に合っている」と宣言してもいいんだけど、それじゃ信用されないから、民間の第三者認証機関に審査してもらうのが一般的ね。日本規格協会に聞いたら1996年にこの規格ができてから、今年10月末までに国内の認証取得件数は1320件もあって、日本が世界最多だって。電器機械などの製造業がほとんどだけど、武蔵工大のほか、新潟県の上越市役所など自治体も取得しているの。環境庁も取得をめざしているそうよ。
Q なぜ、みんなそんなに熱心なの。
A 企業の場合は、取引で不利になりたくないとか、環境意識を育てたいとかいうほかに、トップダウンの意志決定や仕事の定式化といった、従来の日本型経営に欠けていたものを取り込む意図もあるみたい。ISO 14001がすべてじゃないけど、あなたの会社の環境管理は大丈夫?

 日本の場合には、企業が環境意識を社員に持たせるだけでは、足らないと考える。社内では、「いい子」だけどいったん外に出ると、まったくその意識を忘れる筋合いが多いからだ。缶をポイッとすてる、ゴミ箱があるのに公園の木立にプラスチック袋をすてる、「入ってはだめですよ」と書いてあるのに湿原の上を歩く、などなど数え上げたらきりがない。環境意識では先進国の中で一番遅れているのが日本人だと思っている。「環境と調和する」ことが重要であることに変わりはないが、公衆道徳とか国民としての責任とかもっと日本人として根元的に求められる意識を持つべきである。だから、もっと教育機関も家庭もその責任を果たすべきだろう。ISO 14001の話がそれてしまった。陳謝。

環境マネージメント・システムの枠組み

 ISO9000のページで理解できたように、ISO9000もISO14000もともにマネージメント・システムであり、その枠組みは変わらない。下図は、ISO/OHS研究会が提示したものであるが、ISO14000マネージメントシステムの仕組みを理解するのに役立つ。このようにマネージメントシステムを図示化する方法は、「日本経営品質賞」や「マルコム・ボルドリッチ賞」で採用されている。

 ISO9000の仕組みとの違いは、色分けした中央部、すなわち環境削減計画に関わる諸活動だけである。経営者の環境方針を継続的改善につなげる一連のプロセスが環境マネージメントシステムである。したがって、品質システムの構築手法そのままを利用でき、しかも品質システムとの統合化は可能であることは容易に理解できる。あらゆる観点から効果的で効率的な一つのシステムに仕上げることの重要性は高い。特に小規模企業では、異なった二つのシステムを企業運営に持つなどは考えられない。このページは、徹底して統合化されたシステムを構築するための知恵とテクニックを講座の主題とする。

 新しい国際規格は、これからも生まれてくることは間違いない。次のISO規格は安全・衛生だ。早く品質と環境のシステムに馴染んでいないと、次々生まれるISO規格の後追い対策に企業経営者が悩まされる姿が目に浮かぶ。このページで助かる小規模企業が一軒でもあればよいと思って、掲載を始めた。しかし、「案ずるより、生むはやさし」。ISO規格の仕組みを一旦理解し、システムを作って終えば、後は簡単で、最初のシステムに追加すればよいだけと気づいて頂ければ幸いだ。   

    

環境マネージメント・システムの要求事項と品質システムとの比較

 品質と環境のシステムをプロセスの観点から比較すると、大きな違いは無かった。では各規格の要求事項を比べるとどうだろうか。下表は、ISO14000規格の「付属書B」に記載されている要求事項の比較表である。ISO14000では、環境方針環境側面や法的規制への遵守など経営者の責任に関連する要求事項はISO9000のそれより多い。一方、システムの運用管理でISO9000の多くの要求事項を満たすことが出来る。 結論は、ISO9000規格の要求事項の方が複雑と考えるのが妥当だろう。この詰論からもISO9000システムに環境システムを組み入れるのが得策となる。この見解を支持する文面が、ISO14000規格の序文にある。すなわち、

 「環境マネージメントシステムの要求事項は、既存のマネージメントシステム要素と独立に設定される必要はない。場合によっては、既存のマネージメントシステム要素を当てはめることによって、要求事項を満たすことも可能である。」

 

 このようにISO9000とISO14000のシステムを全体像から見てきたが、各要求事項を個別に比較検討し、いかに品質システムに組み入れるかを解明して行きたい。この章を終えるまえに、一言付け加えたことがある。それは、ISO9000規格にはない「システム及び支援技法」の内容が充実していることである。多少の知識さえあれば、環境システムは規格書だけでも構築できるのではなかろうか。是非独自でチャレンジされることを勧めたい。  

    

ISO 9000品質システムから環境マネージメント・システムの導入

すでにISO 9000を導入された企業ならば、ISO 14001環境管理システムの構築は容易である。まず、「標準化と品質管理」1998 No.10で発表された武田病院グループの実例の中から、その理解に必要な部分を紹介する。  

   当センターはISO 9001を既に認証取得していたため、ISO 14001への取り組みは比較的スムースにキックオフできた。これは、ISO 9001により文書体系が整っていたことが主要因であるが、品質システムの導入において、環境への顧客ニーズとして、また課題として上がってきたことも理由である。

 (途中略)

 ISO 9001では、「規格の要求事項をカバーする品質マニュアルを作成すること」とあるが、ISO 14001において、これに相当する記載は見当たらない。したがって「環境マニュアル」作成の必要性はないが、実際の運用上、そして審査を受ける場合にはやはり必要であろうとの判断で、「環境マニュアル」の作成が決定した。

 その他の文書化について、特に規定については、品質システムの「規定」と共通する部分があり、それらについては両方での運用とした。当初、別立てでくくるかどうか議論となったが、当センターの規模を考慮し、結果として共有化する方を選択した。

 (途中略)

 また、環境マニュアルは、ISO 14001の規格に基づいて作成したいるわけであるから、ISO 14001の要求事項に対し環境マニュアルの事項番号の後に、ISO 14001の規格条文の番号をカッコ書きで対応した。その他にも、品質マニュアルに準じた形式で作成した。

 武田病院の場合は、ISO 9000品質システムに環境管理システムを上乗せした事例であるが、逆の場合にも同様で環境システムに品質システムを統合させることも簡単である。だから、ISO には現在二つの入り口があると思えばよい。しかもどちらも正門であるから面白い。   


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