責任と権限の明確化をどの程度にするのがよいか?

職務記述書(JOB DESCRIPTION)にしたがって外資系の企業に勤めていた経験から、仕事に支障がでない程度にして置いたほうがよいと考える。日本人が働く会社では、役割分担や責任をあまりはっきりときめてしまうと仕事をする上で非効率になると思うことが多かったからだ。ところがISO9000ではこれを欧米風に明確にするよう要求している。これをまともに受けて、だれ誰の役割はなにで、なになにの責任があると全ての要員の責任と権限を明確化すると組織の柔軟性がなくなり仕事がやりにくくなる。とくに中小企業ではこれをやりすぎると仕事が進まなくなることさえ考えられる。したがって、中小企業の場合、品質マニュアルに記述する必要のある、製品とサ-ビスの品質に重大な影響を及ぼす可能性のある業務に従事している要員以外は特にこれを文書化する必要はない。 <戻る>

文書管理に必要なファイリング方法は統一しなければならないか?

ISO9000で要求されているのは、ある仕事についての手順書を作るとか、その手順どうりに実施したことを実証するための記録を残すためなどに必要な管理手段であって、ファイリング方法などなにも述べていない。したがって、ファイリング方法の統一などまったく必要は無い。ファイリングは、使いたい見たい文書を速やかに取り出せるようにする手段以外のなにものでもない。これが出来れば、どんな方法でもかまわない。じゃあ従来の個人ファイルでもいいのかと言われると駄目と言いたい。なぜなら誰でも速やかに取り出せないからだ。例をあげると、セ-ルスマンの訪問記録だ。顧客の要求事項などが記載されているものでも個人ファイルになりがちだが、やはり誰でもアクセスできるようにセントラルファイル化されていないと文書管理ができていないと判断されることになる。 <戻る>

認証取得までのスケジュ-ルはかならず立てねばならないか?

取得に必要な要員のところで述べたように、現行の要員で取得のためのプログラムを実施するのが一般である。とすれば、追加的なプログラムが入ったことになるので、現業におわれて終う。取得のための仕事が余分になり結局何も出来なかったことになりかねない。これを避けるために、綿密で、しかも現実的な活動計画を立てることをお勧めする。取得までの期間はおおまかだが9か月から14か月をみておくとよい。活動計画の内容は他のホ-ムペ-ジに出ているので、省略する。<戻る>

中小企業の場合、内部監査は大企業のようには出来ない。どうすればよいか?

まず、大げさな監査をイメージしないでほしい。20ー30名程の組織ならば、品質管理責任者が品質システムで定められている部署を一人で監査するのが一番妥当で、簡単だ。しかし、この場合でも、監査年間スケヂュールは作成する必要がある。品質管理責任者になるような人は、組織上重要な地位にある人であろうから、多忙に違いない。だから、年間スケヂュールを早い時期につくり、他の仕事のために時間を取られ監査が出来なくなることを避けなければならない。監査される立場の人も事前にスケヂュールが知らされていないと困ることがある。監査する人と同じように、される人も仕事で外出していて監査が出来ないことになりやすい。事実、現役時代に事前に知らせていても、仕事第一主義で外出されて出来なかったこともたびたび経験させられた。こうなると監査員側も時間の無駄使いとなる。
さらに、品質管理責任者が監査員となることの利点がある。このような立場にある人ならば、すべての業務に熟知しているはずだから、重要なところに焦点を合わせて監査が出来るので、短時間で効率よく進められるからだ。当然のことではあるが、監査員の立場を忘れてはならない。自分に不都合なことは避けたり、常々気になっていたことを監査時に不適合とするなどは避けねばならない。むしろ、監査される立場の味方となり、相談相手になるように振る舞うことが肝心である。
監査員が使うチェックリストに関して述べる。チェックリストがなくても監査はできる。チェックリストの作成をISO9000規格は絶対に求めてはいない。正直言って、二回も監査をすると何を審査すれば良いかは記憶に残る。だから、わたしは使っていなかった。それよりも、監査対象部署の手順書をコピーして、順番にチェックし、OKとか駄目とかをマークすれば簡単で、確実だ。ただし、監査記録だけは、メモ代わりに使った手順書のコピーから書き起こすべきである。メモがなくても出来るなら、その必要もない。
不適合が発見されたなら、「是正処置報告書」は必ず作成する。さもないと、ISO9000の品質システムは働かなくなると言ってもよい。経営者の見直し会議も出来なくなって、いずれは形骸化する運命となる可能性が高いからだ。だから、是正処置の実施確認後のクロージングも含めて「是正処置報告書」を確実に作成・保管することが最も重要である。
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「予防処置」を経営者の見直し会議で討議したいが、どうのような内容なのかよく分からない。

「是正処置と予防処置の違いついては、規格を読めば分かる。ところが、いざ予防処置について討議するとなると、中味がよく分からない」と云う質問があった。現役のときに、同じ悩みを持ったので、ここで明解な答えを出しておきたい。

顧客から寄せられた苦情や不満は、不適合として「不適合報告書」を用いて、原因究明とその改善策をたて、実施しなくてはならない。これらは、明らかに表面化した不適合に対する『問題対応型』の処置である。これに対して『予防型』は、声として出てきていない顧客の苦情や不満を先取りすることである。このためには、第一線の営業担当者が聞き付けたマイナスの情報が円滑に企業内で伝達される企業風土をつくることから始めなければならない。いやな情報は聞きたくない心情・態度を示す管理職が多いものだと考え、経営者は情報伝達の疎外要因がないか再確認する必要がある。さらに、顧客はもっているが表面化させていない苦情・不満・懸念・競争者の品質などを、顧客との日常的接触を通じて経営者自らが把握することに心がけねばならない。

実際の体験からの助言もしておきたい。シンガポール工場でのことだが、現場の作業員は、生産設備の欠陥や製造工程の不完全さに多くの懸念を持っているが表に出していないことを知った。この作業員から「予防処置」を講じなければならいことが多々あることが分かった。このように、意見として報告されていない「作業者の思い」を汲み取る仕組みや風土を育てるのも経営者の重要な課題である。このケースでは、シンガポール本社の最高責任者が月一度工場を訪問し、現場を巡回することで解消できた。

日本では、昔から「QCサークル」など従業員の忠誠心や自主性に支えられた活動が行われていたが、もう大きな期待や、このような善意の上で成り立つ品質管理も見直す時代になっていることを認識すべきだろう。だから、ISO9000のなかで「予防処置」が要求事項になっていると理解するのが妥当と考える。

 最近(1998/2末)、「是正処置」と「予防処置」の関係が明瞭でないことについて、掲示板での応答があり見直す必要を感じた。そこでは、「水平展開」という言葉が使われているのだが、あまりよく理解できなかった。そこで、すこし勉強をしたら、「水平展開」とは日本の品質管理で一般に用いられている用語であることが分かった。なるほど、そのような言葉があると、「是正処置」、「予防処置」そして「水平展開」の関係が明確でないと、ISO9001もしくはISO9002の1994年版に採用された「予防処置」を理解する上で混乱が生じることが分かったので、この文を追加した。

 「水平展開」は、日本の自動車や電気業界で従来から行われていた活動であり、やはりまだ発生していない問題を予測して対策をとる処置である。この点では、明らかにISO9000での「予防処置」と同じである。ところが、ある「是正処置」をとると、それが他の「予防処置」となることがある。理解を助けるために、実際に体験したことを例に挙げる。100トンもの大量のエンジンオイル製造時に起こったことである。50ppm単位のごく微量の腐食防止材を均一に混合できなかったために、品質検査で不適合となった。この腐食防止材の不均一な分散を改善する「是正処置」として従来の混合工程の一部を改善した。と同時に、全製品の配合仕様データベースを検索してみると、同じ腐食防止材を使っている製品が多くあることが判明した。これらの製品ではまだ問題にはなっていないが将来起こりうると判断された。そこで、この改善された混合工程を、これら他製品にも適応させることに決定した。この一連の改善行動は、「是正処置」と「予防処置」が同じであると考えてよい好例である。また、このような行為を「水平展開」と表現するならば、それも正しい。これで、三者の関係が明瞭になったであろう。 <戻る>

認証・登録の仕方が分かりません。どうすればよいのですか?

取得するための体制を構築し、新しいシステムに沿って実施した期間も約3ヶ月になったので、認証を取得する段階にくると、企業ははたと考えてしまうことがある。それは、品質審査登録機関を決める基準がないことと、日本でも多数の品質審査登録機関があってどれを選べばよいのか迷うことだ。親企業がISO9000の認証を取得ずみならば、同じ機関にするのが無難と云えば言える。品質審査登録機関には、専門分野を決められているところや、どんな分野でも審査できる国際審査機関もある。その数も多いのと、審査機関の内容を公示している情報も少ないのが現状である。

認証を取得した親会社の指示によってISO9000導入を決めた場合には、親会社と同じ品質審査登録機関に審査・登録を行うのが妥当だろう。あまり望ましいことではないが、認証取得のみが目的であるならば、地理的に有利ならばどこでもよいと思う。しかし、せっかくの取得であり企業の業務改善に役立てようと考えるならば、自社の業務を専門分野にしている品質審査登録機関を選択するのが望ましい。さらに、審査員の質・人柄によって企業が受ける利点が変わってくることが一般的である。業務改善のための助言やシステム文書の改訂まで指摘できる監査員がいるが、まれである。だから、質の高い監査員を監査に派遣してくれる品質審査登録機関を選ぶように、慎重に調べることが重要である。認証取得ずみの企業の担当者と情報交換しながら、決定するように心掛けるべきだろう。

海外に製品やサービスを提供している企業は、認証そのものが重要になる。EU諸国に輸出するには、欧州で知名度が高く、信頼できる品質審査登録機関に認証・登録を依頼することは当然となる。この場合には、JIS規格Z9900sの認証が受けられるかを確認しておくことも大切である。

さて、品質審査登録機関が決まると、正式申請をする。事業活動、製品分野やその他必要な情報を規定の申請書に記入する。この申請と同時に品質マニュアルを提出する。審査機関は、規格の要求事項に沿って提出された品質マニュアルの内容を確認する。もしも、欠落があると、申請者に指摘する場合もあるが、実際には、ほとんど指摘はない。申請者は、品質マニュアルを返却されるときに、品質審査登録機関の確認印があることを確認する。

予備審査を受けるのが一般であるが、強制ではない。やはり予備審査を受けておくのが無難だと思う。なぜなら、この予備審査で不適合の指摘を受けると、本審査までに是正処置を講じることができるからである。この予備審査は、本審査の一ヶ月前に行われるのが普通である。予備審査が終わると、本審査の段階となるが、この内容は別途に掲載する。 <戻る>

品質計画と品質計画書の区別がよく理解できない。どう違うのですか?

 規格では、「品質計画」を次のように規定しています。

「 品質及び品質要求事項、ならびに品質システム要素の適用に関する要求事項を定める活動」

 したがって、「品質計画」とは、ISO9000規格の要求事項を満たす品質システムを構築して、体系的に文書化した品質マニュアルを作成すること、および、その実施を確保するために必要な品質管理体系そのものである。いいかえれば、ISO9000に基づく品質保証体系の概念を具体的に適用した自社のシステムを指す。一方、品質計画書は、「品質システムの重要部分を構成する、適切な手順書の参照でもよい」となっている。すなわち、制作手順書やQC工程表のように品質マニュアルの下位にくる文書類である。このような性格の文書であるので、新規作成や改訂される頻度が高い。特に、新製品や新プロジェクトの場合には、新規作成となるので注意されたい。当然のことながら、既存製品の製造手順書は、材質や工程など品質に重要な影響を与える場合には、「品質計画書」は改訂されることになる。

 質問のように理解する上で混乱が予想されるならば、品質マニュアルの中で明確に次のような文面を記載しておくのが無難であろう。すなわち、

 「当社(或いは当部)の品質計画書は、製品の製造工程の主要部分を記載した作業  手順書(或いは、QC工程表、工程管理図、検査手順書)である。」

カッコ内の語句は、各企業により異なる。<戻る>

せっかく作った手順書を部下が読もうとしないので困っている。

本来手順書は業務を行っている社員が書き、作り上げるものなのだが、時間がないとか、能力の点から管理職がつくることが多々ある。この場合、現行業務の手順が正しく記載されていれば、部下が読む必要はない。彼等は業務を一番よく知っているのだから問題にはならない。ところが、現実とは違った手順が記載されていたなら、その部下と話し合いを持 ち本当の仕事のやり方を確認することがまず肝心になる。品質面から今の仕事のやり方を変える必要がないなら、手順書を書き変える必要がある。品質に悪い影響を与えるようなやり方なら変更してもらう必要がある。たとえば、検査のための正しいサンプルの採り方が手順書に記載されているのに、そのとうり行っていないなら、やり方を変えてもらう必要がある。このように読まない理由がどちらなのか確かめてください。<戻る>

仕事はすべて品質に影響をあたえるのだから、なにもかも手順書にするのか?

外部、すなはち顧客に対する品質保証システムであるISO9000の要求項目をよく理解していない人がこのような議論をしがちだ。そんなことしたら手順書作りに何年もかかり、大変な仕事量になる。だから、この議論は正しくない。このような考えが浮かんでくる裏には規格で言っている品質の定義に誤解がある。品質を製造する製品(物)の最終品質ととらえるとたしかに仕事はすべて品質に影響をあたえることになる。しかし、ISO9000では物やサ-ビスの質だけでなく、活動、工程、組織、人などの質を対象にしている。広い意味の品質なら、余計手順書は繁雑になるように思うかもしれない。ところが、品質保証に必要な要点がシステム化されているので、まとめ易くなっている。だから、なにもかもではなく、仕事のプロセスをきちんと整理できれば手順書の内容は決まると言ってよい。具体的なことは他の質問で答えているので、参照してほしい。<戻る>

検査記録をペンで書けと命令されたが、不便で仕方が無い。鉛筆ではだめなのか?

鉛筆で記入することでも問題はない。規格では、品質記録の記入方法などはなんら規定されていない。だから、問題ないとした。しかしながら、作業上の支障が無い限りペンを使った方が望ましい。特に、設計・開発部門ではペンでの記入を固執したい。このISO9000規格が外国生まれであることは知っていても、このような必要性は理解出来ないかもしれないので、ある事件を例にとってその理由を述べる。ただし、鉛筆やペンに関わることでなく、日本以外の文化を理解してほしいのが真意である。これから述べることは、アメリカで事実として起こったことであり、報道機関も大きく紙面に取り上げたものである。この事件の内容を簡単に説明する。それは、ある重大な試験を行った結果を試験担当者が意図的に変更し、製品品質は顧客の要求事項に対し合格と報告したことから始まった。そして、この製品の最終需要家が米軍で、しかもそのような行為が行われたことを誰かが当局に通報したらしい。直ちに、FBIが調査することとなってしまった。その結果がどうなったか?試験担当者は即解雇された。

日本人のあなたがこんなことを絶対にやらないと上司を含むすべての人々が信用すると思いますか?「あの人はいいデータを出してくれるから助かるよ。」と試験研究を行っている職場でこんな会話がされていないかよーく思い出してください。あなたは、試験や検査の結果を今まで神に誓って正直に記入してきましたか?一応そうだったと信じたとしても、それを疑う人は絶対にいないとだれが保証するのか?疑うことを知らないのは日本人だけかもしれない。日本以外では、部下の行為をすべて信じるマネージャーは無能者と見なされる。したがってISO9000は性悪説の立場で作られたと思うのが正しい。ローマ帝国のような古い時代の外国映画の中で、高位にある人がペンでサインして金粉をかけているシーンをみたことはありませんか?そんな時代から培われて来た文書契約の文化が、この規格の背景にあることを理解していただきたい。

では、どうすればよいのか?結果をペンで記入し、変更があれば変更箇所に横線をいれ、新しい結果を記入すると同時にサインと日付を記載する。これが世界中で共通する手法と思っていただきたい。しかし、最初に言ったように、規格では求められていない。したがって、自己責任でどちらでも選択すればよいとなる。<戻る>

検査・試験機器の校正には国家基準までのトレーサビリティがいると言われたが、中小企業では無理。どうすればよいのか?

 この問題は、中小企業だけでなく、大手の企業でも同じような悩みを持っている。規格の文面からは国家基準にまで遡れることが求められているが、それをまともに受け取りれば、標準機の購入だけでも莫大な費用がかかる。しかも、一次標準器の入手も困難になっているようだ。ある企業が標準器を購入しようと標準器メーカーに注文をしたら納期は6ヶ月後だったそうだ。ISO9000の普及によって、標準メーカーがたいへん潤っているらしい。それだけでなく、新米の審査員は、この校正だけは厳密に審査して”いちゃもん”をつける事が多いことは実際に体験した。彼らは、実務はあまり分からないから、校正をやり玉にあげる傾向が強いようだ。情けない話ではある。

そのことはさておいて、どのような解決策があるかである。それは、二次標準器の作成と日常管理手順の確立である。ノギスを例にとると、ゲージブロックの二次標準器を自社で作成し、作業者は毎朝始業時に二次標準器による測定結果をグラフにしておく。データのN数が十分になれば管理限界(シグマ)を計算する。管理限界を越えたり、管理状態からの逸脱が認められた場合にのみ校正を行うと定める。一方、二次標準器を、自社が保有する一次標準器を使って校正する手順を定める。ここで用いた一次標準器には、国家基準に至るまでの証明書を基準器メーカーに要求して入手しておく。温度計などは、この手法で十分である。当然のことながら、二次標準器を用いた場合の日常点検手順書は、「検査機器の校正および日常管理規定」で明確に定めることが必要となる。この手法ならば、一次標準器の購入や校正頻度を大幅に削減でき、経費削減にも繋がる。

 業種によっては、機器校正は外部機関に依頼するしか方法がない場合もある。この場合には、その旨を品質マニュアルもしくは規定に明記する必要がある。外部への依頼だから関係ないと無視はできない。外部依頼であっても、何らかの記録文書の管理、もしくは購買管理での文書化を求められる。

 最後に追加しておきたいことは、校正対象機器の選定である。規格では「品質に重大な影響を与える」ものに限定するように要求している。多くの検査・測定機器の中で製品の品質にもっとも重要なもののみ限定することが肝要である。審査員や規格で対象機器が定められていないので、自社が品質確保のために絶対必要と決定することを再度確認したい。よって、ときには、自社には校正対象となる機器ないと規定できることもあるので、留意してほしい。ただし、顧客からの要望を無視することはできないこともある。<戻る> 


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