「是正処置と予防処置の違いついては、規格を読めば分かる。ところが、いざ予防処置について討議するとなると、中味がよく分からない」と云う質問があった。現役のときに、同じ悩みを持ったので、ここで明解な答えを出しておきたい。
顧客から寄せられた苦情や不満は、不適合として「不適合報告書」を用いて、原因究明とその改善策をたて、実施しなくてはならない。これらは、明らかに表面化した不適合に対する『問題対応型』の処置である。これに対して『予防型』は、声として出てきていない顧客の苦情や不満を先取りすることである。このためには、第一線の営業担当者が聞き付けたマイナスの情報が円滑に企業内で伝達される企業風土をつくることから始めなければならない。いやな情報は聞きたくない心情・態度を示す管理職が多いものだと考え、経営者は情報伝達の疎外要因がないか再確認する必要がある。さらに、顧客はもっているが表面化させていない苦情・不満・懸念・競争者の品質などを、顧客との日常的接触を通じて経営者自らが把握することに心がけねばならない。
実際の体験からの助言もしておきたい。シンガポール工場でのことだが、現場の作業員は、生産設備の欠陥や製造工程の不完全さに多くの懸念を持っているが表に出していないことを知った。この作業員から「予防処置」を講じなければならいことが多々あることが分かった。このように、意見として報告されていない「作業者の思い」を汲み取る仕組みや風土を育てるのも経営者の重要な課題である。このケースでは、シンガポール本社の最高責任者が月一度工場を訪問し、現場を巡回することで解消できた。
日本では、昔から「QCサークル」など従業員の忠誠心や自主性に支えられた活動が行われていたが、もう大きな期待や、このような善意の上で成り立つ品質管理も見直す時代になっていることを認識すべきだろう。だから、ISO9000のなかで「予防処置」が要求事項になっていると理解するのが妥当と考える。
最近(1998/2末)、「是正処置」と「予防処置」の関係が明瞭でないことについて、掲示板での応答があり見直す必要を感じた。そこでは、「水平展開」という言葉が使われているのだが、あまりよく理解できなかった。そこで、すこし勉強をしたら、「水平展開」とは日本の品質管理で一般に用いられている用語であることが分かった。なるほど、そのような言葉があると、「是正処置」、「予防処置」そして「水平展開」の関係が明確でないと、ISO9001もしくはISO9002の1994年版に採用された「予防処置」を理解する上で混乱が生じることが分かったので、この文を追加した。
取得するための体制を構築し、新しいシステムに沿って実施した期間も約3ヶ月になったので、認証を取得する段階にくると、企業ははたと考えてしまうことがある。それは、品質審査登録機関を決める基準がないことと、日本でも多数の品質審査登録機関があってどれを選べばよいのか迷うことだ。親企業がISO9000の認証を取得ずみならば、同じ機関にするのが無難と云えば言える。品質審査登録機関には、専門分野を決められているところや、どんな分野でも審査できる国際審査機関もある。その数も多いのと、審査機関の内容を公示している情報も少ないのが現状である。
認証を取得した親会社の指示によってISO9000導入を決めた場合には、親会社と同じ品質審査登録機関に審査・登録を行うのが妥当だろう。あまり望ましいことではないが、認証取得のみが目的であるならば、地理的に有利ならばどこでもよいと思う。しかし、せっかくの取得であり企業の業務改善に役立てようと考えるならば、自社の業務を専門分野にしている品質審査登録機関を選択するのが望ましい。さらに、審査員の質・人柄によって企業が受ける利点が変わってくることが一般的である。業務改善のための助言やシステム文書の改訂まで指摘できる監査員がいるが、まれである。だから、質の高い監査員を監査に派遣してくれる品質審査登録機関を選ぶように、慎重に調べることが重要である。認証取得ずみの企業の担当者と情報交換しながら、決定するように心掛けるべきだろう。
海外に製品やサービスを提供している企業は、認証そのものが重要になる。EU諸国に輸出するには、欧州で知名度が高く、信頼できる品質審査登録機関に認証・登録を依頼することは当然となる。この場合には、JIS規格Z9900sの認証が受けられるかを確認しておくことも大切である。
さて、品質審査登録機関が決まると、正式申請をする。事業活動、製品分野やその他必要な情報を規定の申請書に記入する。この申請と同時に品質マニュアルを提出する。審査機関は、規格の要求事項に沿って提出された品質マニュアルの内容を確認する。もしも、欠落があると、申請者に指摘する場合もあるが、実際には、ほとんど指摘はない。申請者は、品質マニュアルを返却されるときに、品質審査登録機関の確認印があることを確認する。
規格では、「品質計画」を次のように規定しています。
「 品質及び品質要求事項、ならびに品質システム要素の適用に関する要求事項を定める活動」
したがって、「品質計画」とは、ISO9000規格の要求事項を満たす品質システムを構築して、体系的に文書化した品質マニュアルを作成すること、および、その実施を確保するために必要な品質管理体系そのものである。いいかえれば、ISO9000に基づく品質保証体系の概念を具体的に適用した自社のシステムを指す。一方、品質計画書は、「品質システムの重要部分を構成する、適切な手順書の参照でもよい」となっている。すなわち、制作手順書やQC工程表のように品質マニュアルの下位にくる文書類である。このような性格の文書であるので、新規作成や改訂される頻度が高い。特に、新製品や新プロジェクトの場合には、新規作成となるので注意されたい。当然のことながら、既存製品の製造手順書は、材質や工程など品質に重要な影響を与える場合には、「品質計画書」は改訂されることになる。
質問のように理解する上で混乱が予想されるならば、品質マニュアルの中で明確に次のような文面を記載しておくのが無難であろう。すなわち、
「当社(或いは当部)の品質計画書は、製品の製造工程の主要部分を記載した作業 手順書(或いは、QC工程表、工程管理図、検査手順書)である。」
鉛筆で記入することでも問題はない。規格では、品質記録の記入方法などはなんら規定されていない。だから、問題ないとした。しかしながら、作業上の支障が無い限りペンを使った方が望ましい。特に、設計・開発部門ではペンでの記入を固執したい。このISO9000規格が外国生まれであることは知っていても、このような必要性は理解出来ないかもしれないので、ある事件を例にとってその理由を述べる。ただし、鉛筆やペンに関わることでなく、日本以外の文化を理解してほしいのが真意である。これから述べることは、アメリカで事実として起こったことであり、報道機関も大きく紙面に取り上げたものである。この事件の内容を簡単に説明する。それは、ある重大な試験を行った結果を試験担当者が意図的に変更し、製品品質は顧客の要求事項に対し合格と報告したことから始まった。そして、この製品の最終需要家が米軍で、しかもそのような行為が行われたことを誰かが当局に通報したらしい。直ちに、FBIが調査することとなってしまった。その結果がどうなったか?試験担当者は即解雇された。
日本人のあなたがこんなことを絶対にやらないと上司を含むすべての人々が信用すると思いますか?「あの人はいいデータを出してくれるから助かるよ。」と試験研究を行っている職場でこんな会話がされていないかよーく思い出してください。あなたは、試験や検査の結果を今まで神に誓って正直に記入してきましたか?一応そうだったと信じたとしても、それを疑う人は絶対にいないとだれが保証するのか?疑うことを知らないのは日本人だけかもしれない。日本以外では、部下の行為をすべて信じるマネージャーは無能者と見なされる。したがってISO9000は性悪説の立場で作られたと思うのが正しい。ローマ帝国のような古い時代の外国映画の中で、高位にある人がペンでサインして金粉をかけているシーンをみたことはありませんか?そんな時代から培われて来た文書契約の文化が、この規格の背景にあることを理解していただきたい。
この問題は、中小企業だけでなく、大手の企業でも同じような悩みを持っている。規格の文面からは国家基準にまで遡れることが求められているが、それをまともに受け取りれば、標準機の購入だけでも莫大な費用がかかる。しかも、一次標準器の入手も困難になっているようだ。ある企業が標準器を購入しようと標準器メーカーに注文をしたら納期は6ヶ月後だったそうだ。ISO9000の普及によって、標準メーカーがたいへん潤っているらしい。それだけでなく、新米の審査員は、この校正だけは厳密に審査して”いちゃもん”をつける事が多いことは実際に体験した。彼らは、実務はあまり分からないから、校正をやり玉にあげる傾向が強いようだ。情けない話ではある。
そのことはさておいて、どのような解決策があるかである。それは、二次標準器の作成と日常管理手順の確立である。ノギスを例にとると、ゲージブロックの二次標準器を自社で作成し、作業者は毎朝始業時に二次標準器による測定結果をグラフにしておく。データのN数が十分になれば管理限界(シグマ)を計算する。管理限界を越えたり、管理状態からの逸脱が認められた場合にのみ校正を行うと定める。一方、二次標準器を、自社が保有する一次標準器を使って校正する手順を定める。ここで用いた一次標準器には、国家基準に至るまでの証明書を基準器メーカーに要求して入手しておく。温度計などは、この手法で十分である。当然のことながら、二次標準器を用いた場合の日常点検手順書は、「検査機器の校正および日常管理規定」で明確に定めることが必要となる。この手法ならば、一次標準器の購入や校正頻度を大幅に削減でき、経費削減にも繋がる。
業種によっては、機器校正は外部機関に依頼するしか方法がない場合もある。この場合には、その旨を品質マニュアルもしくは規定に明記する必要がある。外部への依頼だから関係ないと無視はできない。外部依頼であっても、何らかの記録文書の管理、もしくは購買管理での文書化を求められる。