認証取得には独立した追加的要員がいるか?

いらないが正解と思う。取得には全員が協力して、手順書を含む品質マニュアルを作り、その実施も全員参加となる。しかし、通常の仕事をしながら、このプロジェクトを完成させるのがあたりまえと考えてよい。今の業務を文書化する時だけは管理職の残業が増えることは否めない。さらに、品質管理責任者を任命する必要があるが、現在の要員の中から選べばよい。例えば、品質管理課長がいれば、その人が適任だろう。取得時に社員を増やす事などまったく必要がない。現有の社員で取得しているのが実情である。 <戻る>

認証取得時のコンピュータ化はどのように役立つか?

ISO9000の認証を取るためには、多くの文書類を作成しなくてはならない。しかも、これらの書類は時間がたつとともに更新することが必要となる。更新されると、マニュアルを保持している人は古い書類を破棄し、最新の書類と入れ替えねばなりません。これが簡単なようで、 入れ替えをやらないひとが多いのが実情である。したがって、これらのマニュアル類をコンピュータ化しておけば、文書管理者が簡単に更新が出来るようになる。これでおわかるように、コンピューター化は文書管理に役立つことが一つある。

さらに、業務に使われる多くの書類は、ISO9000の要求する品質記録として保管され、いつでも検索出来なければならない。ただし、品質記録は取得する企業が品質システムの中で決めることが出来る。たとえば、検査結果は典型的な品質記録であり、これらの品質記録は外部機関による品質監査のときに、監査員に見せることが必要になる。もし、これがコンピュータ化されていれば、この作業が非常に楽になる。品質記録と管理書類には、製造記録、検査記録、性状表、受注記録、出荷伝票などなどたいへんな数になるのが通常である。従って、コンピュータ化することによるメリットが大きいことは間違い。

 ところが、小規模企業ではコンピュータ化するとなると、多くの困難が伴う。たとえば、ソフト開発会社に依頼すると多額の費用が必要となるだけはなく、使っている内にこれもデータにしたい、こんな報告書をプリントしたい、データそのものを加工したい、などなど追加・変更の必要な場面がかならず生じる。他人まかせのソフトはこのような事態になると、自社での変更はまず不可能である。開発した会社に再度依頼しても開発当時の担当者が退社していることが多く、変更のための費用は多額となる。したがって、自社の社員でソフトを作りあげるのが理想的である。そのようなことができるかであるが、「できる」が答えだ。最近のデータベース・ソフトは多機能であるばかりでなく、このようなカストマイズが非常に簡単にできるものがある。10年前だったら、素人にはほとんど不可能であったものだが、今のソフトなら可能になっている。そこで、その実現を試みた。以下がその実物見本である。基本的には、単にテキストのデータベースに過ぎないが、定型化することで上記のような報告書や記録を効率よく管理できる。

 品質マニュアルを閲覧するためのメニュー画面である。品質マニュアルの文書は各項目のボタンをクリックすれば閲覧できる。品質システムの内容は通常のテキストファイルで表示させることは、消去もしくは変更される危険性があるのでグラフィックスのオブジェクトとしている。さらに、アクセス権の設定により、ファイル内容の変更は、権限のある社員のみが行えるようにできる。これで不用意なファイル変更の危険性を回避している。現実のある企業の品質マニュアルを使って制作して見本である。

 さらに、メニュー画面から小型のボタンをクリックして「不適合品報告書」、「内部監査管理」の画面に移れる。「不適合品報告書」では、製品マスター・ファイルから品名を、顧客マスター・ファイルから顧客名を自動入力する、品質ロスの記録、原因究明、是正処置、予防処置などをデータベース化する機能を持たせている。

下図は、「内部監査」ボタンをクリックすることで内部監査作成・記録入力に移ったときの画面である。内部監査の実施スケジュール、内部品質監査報告書、是正処置要求書を記録できる画面である。各画面は、それぞれのホルダーをクリックで切り替わる。このように、内部監査に要求されているすべての記録を一元的に管理できる。リスト表示ボタンをクリックすれば過去の内部監査記録を一覧表示させることが出来る。リストから会議で討議する必要のある内部監査報告書の内容詳細を表示させる機能も用意されている。従って、自社の「経営者の見直し」会議でこの内部監査報告書を参照し、経営者は是正処置を決定すればよい。なお、この画面に入力されている文字は意味のないもので無視してほしい。単に入力テストをしたときの文字が残っていただけである。<戻る>

コンサルタントの活用を考えているが、注意点は何か?

   まず、ISO事務局のガイドラインに述べられてことを以下に紹介しよう。そのまえに、現実的なスケジュールを両者で設定することが絶対不可欠としている。

1。かならず複数のコンサルタントと面談する。
2。信用度、経験および経歴をチェックして、コンサルタントを慎重に選ぶ。
3。コンサルタントに、事業活動および目標の全容を確実に理解させる。
4。企業の業務体制を整える期間を設定し、推進者をだれにするかなどの必要な経営
  資源を確保する。
5。結局、自分の企業の品質システムとして運営することになるのだから、コンサル
  タントにまかせきりにしてはならない。したがって、経営者は進捗状況を必ず
  強い関心を持って把握する必要がある。
6。製品の品質だけでなくサービスに関して顧客がなにを期待しているかを十分確認
  する。同時に、現在どのような計画で取得に取り組んでいるかを顧客に説明す
  る。これをくりかえし行って、システムに順次組み入れていく。コンサルタントへの
  相談をこのときに必要となることもある。

当然のことながら、コンサルタントを効果的に活用するには双方の意思疎通を緊密にする必要がある。さらに重要なことは、本当に活用できる品質システムを構築するには一般従業員からのインプットが無ければ出来ない。よって、従業員と一緒に働くぐらいの意気込みを持ったコンサルタントでなければ、構築された品質システムは使いがっての悪いものになる可能性が高い。また、従業員への教育・訓練の実施をコンサルタントに求める必要も出てくることもある。これが出来ないコンサルタントは規格の意図を十分に理解するための品質管理の基礎的知識と経験が無い場合があるので、忌避すべきだ。ここでも、コンサルタントの経歴を調査することが重要となる。また、コンサルタントは規格の要求事項を満たすための手順書が確実に作成することが出来なければならない。その手順書も単純で容易に理解できるものなっていなくてはならない。不要な文書が組み入れられて文書業務を増大させるようにはなっていないか注意する必要がある。

ガイドラインが強く指摘しているのは、コンピューターのソフトで作成できる「既製品」の品質システムを導入しようとするコンサルタントの提案には注意を払うことである。その理由は、このような「既製品」は品質システムの構築期間を短縮すること以外は”めったに成功しません”とし、さらに自分の会社で使える品質システムに変更・追加・削除などの手直しに”多くの時間と労力が無駄になる”としている。余談になるが、わたしがこのような活動を始めたときに、事実として日本で起こったことをお話しします。あるコンサルタントから、このような「既製品」を売ってくれれば何パーセントかのマージンを払うから一緒に連れて言ってほしいとの連絡があった。現実にこのようなことが起こっていますから、十分気を付けてください。

ガイドラインは、コンサルタントに払う費用についても重要事項として言及しています。コンサルタントとの契約の際には、コンサルタントの役割りや実施してくれる内容を記載した提案書や仕様書を要求すべきで、それも一社だけでなく他のコンサルタントにももとめて比べて見ることを推奨している。さらに続けて、コストだけで決定するのではなく、コンサルタントと面談しているときや業務のやり方を見学しているときを見計らって、これならコストに見合う助けを得ることができるかどうかを判断しなければならないとしている。私見として申し上げるなら、この点が最も重要だと思う。監査員になるための研修セミナーにも明らかにコンサルタントを目指した人がいたが、彼は単に監査員の資格だけをとること目的にしていて、規格の内容や品質システムの意図していることが十分に理解出来ていなかった。このような人ばかりとは思ってはいないが、やはりコンサルタントの能力を十分確認されるのが肝要と考える。

ガイドラインが最後に述べているのは、文書化に関することである。「品質システムの開発と文書化には近道はありません」としている。コンサルタントが手順書まで書き上げる契約になっているのなら、かならず業務に携わっている人々とともに充分討議して、この人々の意見が完全に組み込まれているものに仕上げることが大切で、コンサルタントの作った手順書を決して丸のみしないように警告している。とはいえ、日本では、前述した「既製品」を使って作成する以外には、コンサルタントが手順書まで作る場合はないと聞いている。となれば、この警告は日本では必要のないものである。<戻る>

現在5S活動を実施しているが、ISO9000のシステムに組み入れてよいか?

   解答をまずしておきたい。当然組み入れられるし、そうした方が望ましい。ISO9000の要求事項には、このような企業独自の活動には言及していない。しかし、自社に必要な安全・衛生活動は組み込むのが正解である。事実、ISO事務局の中小企業に対するガイドラインでも、これに関連した字句がある。「経営者の見直し」による会議での議題の一つとして、「設備、作業環境および保守」に関わる問題を挙げている。

ところで、二三の小規模企業を拝見させていただいたときに感じたことだが、工場の整理・整頓・清潔が不十分で、大幅な改善が必要だ。ISO9000では、このような安全や作業環境に関してはなんら求めていない。しかし、ISO規格以前の問題である。品質は、工場を見学すればある程度の予測ができる。在職時代のことだが、これは当たっていると思ったことがある。10年以上前のことではあるが、品質での問題を多発させていたシンガポールと米国の自社工場をはじまて訪問した。あまりにも整理・整頓・清掃が悪いのには驚愕した。これでは、日本からのお客さまに見学させらないだけでなく、多くの品質問題はこれも関係があるのではないかとして早急な改善を求めた思い出がある。

このような事情から、今回すこし5S活動の勉強をやり直してみた。そのなかで、これなら人手の少ない小規模工場でも、採用出来て、効果があると思ったことを紹介する。もう採用されている企業も多いとは思うが、それは、パートの活用だ。自分の家の部屋でも掃除することが嫌いな人に、作業と一緒に3Sを望んでも無理と考えての代案である。とくに工具類の整頓は作業者にやらせると、たとえ工具板が設置されていてもほとんどやってくれない。かれらは、いつでも取りだせることばかりが気になるからだ。そこで、休憩時間にパートのおばさんにやってもらうことにしたら成功した例が報告されていた。これで無駄な動きもなくせ、計画的に作業する習慣をつけることができたとしていた。

さらに、チームによる安全パトロールを奨励したい。まず、従業員の中から2名ずつのチームを作る。できるだけ、多くのチームを作って順番に月一回の安全パトロールをやっていただく。どこの現場のあれが整頓されていない。危険だからこうした方がよいとパトロール後に報告してもらう。これなら、やがて自分にも順番がくるのだから、整理・整頓はやらざるをえない。出来たら、その報告をノートに記録するようにしておけば、立派な改善活動になる。たまたま、退職した会社の社内誌が送られてきたが、その中にアジア地区全域の事業所を対象にした「1997年安全・衛生・環境賞」の発表が記載されていた。この中に、旧職場の技術センターが事業所賞を昨年受賞したことが書かれていた。わたしが、まだ在職中のことだがこのことをすっかり忘れていた。この事業所賞を受けるには、安全パトロールの励行が大きかった。ことさように、経営者が安全・衛生・環境に強い感心を持っていることをたえず伝わるような行動をとり、しかも業務の中に組み入れないと、5S活動は達成されないと思っていただきたい。<戻る>         

社員が導入に抵抗感を持ち困っている。どうしたらよいか?

誰でも新しいものにはすくなからず抵抗する心理が働く。また推進者自身が導入プロセスをよく理解していず、自信がないのを直感で感じとられていることが多い。これが社員に不安を誘発させていることがないか確かめてほしい。勉強で自信がもてればこしたことはないが、難しく考えないでISO9000の規格を次のように割り切ったらどうだろう。いま会社でしていることをそのまま手順書にして、そのとうり仕事をして、やったことを記録する。そして間違ったことをしてしまったらそこから学べばよいだけのことだと。セミナ-や講演に出て基礎的なことは理解しているのだから、自信を持てばよい。ところが、余計難しく考えるようになるのが常なので気持ちの切り替えが大切と思う。
導入準備にはいると社員教育をすると思うが、やたら規格を社員に説明するのはやめたほうがよい。規格は品質システムを作る上での指針にすぎないのだから、規格を理解させねば取得ができないとは考えないほうが賢明だ。一般社員には何をどのように文書化すればよいのかだけを丁寧に説明すればよい。管理職にはプロセスの整理と業務に必要な権限を明確にするように指示することが肝要と考える。部下にまかっせりきりで仕事を知らない管理職はこれで抵抗する。この作業で仕事を知ってもらえたと部下から感謝されるようにしむけるしか仕方がないだろう。
文書化そのものに日本人は抵抗感がある。これはあうんの呼吸で仕事ができる単一民族である日本人社会では当然のことと割り切らないと仕方がない。欧米文化そのもののISO9000の世界に入るにはこの壁をうち破るしかないだろう。 <戻る>

中小企業の品質システムは簡単でよいか?

規模と製品郡の広さから考えて大企業なみの品質システムを作る必然性は中小企業にはない。ISO事務局は品質システムが官僚的になったり、過剰な文書作りをしたり、柔軟性に欠けることのないように忠告している。さらに、全ての企業はすでに何らかの品質システムを持っているのだから、それを基盤にしてシステムを構築すべきで、まったく新しくいちから作りあげるものではないとも助言している。このことから分かるように、品質システムの文書体系は下図のようなより単純なものでよい。

 大企業はこのように単純でなく要領書など階層も多くなっていることがあるが、出来るだけ基本的な文書体系で記述できる品質システムにすべきと考える。もしも、現在の文書類が多階層になっているなら、この際階層を減らすべきだ。
品質マニュアルもISO9000の規格に対して一頁以内にして、簡素化すべきだ。手順書もプロセスの流れに沿って大筋を記述することで充分だ。けっして大企業の品質マニュアルや手順書をまねしないでほしい。簡単でよいから実際に使える自社のものを自前で作ることにしていただきたい。品質マニュアルのガイドライン、ISO 10013に マニュアルのサンプルが出ているが、そのとうりにしなくてよいと注釈が記載されている。マニュアルの形式にこだわることなく、実質上品質システムが要求されている規格を満たし、実施されていたなら監査上問題ない。形式にこだわたるような監査員 には気をつけましょう。

 最後に、孫引きではあるが、イギリスのIQAの「小企業と品質システム」ガイドラインの説明を引用する。

 「過度の詳細な文書化は、かならずしも管理の強化にならない。むしろ、できる限り避けるべきである。適切な訓練とその記録によって、詳細な作業指示書の作成を不要とすることができる。
 もし、書類の混乱をさけるため、あるいは社員が仕事を正確に行う情報をもっているなら、品質マニュアル、管理規定、作業標準書という文書階層にこだわる必要はない。
 基本となる文書類のモデルは、企業の助けとなるが、企業の特徴を満たすような設計または修正がされない硬直した文書サンプルを用いるこtは、無駄な文書を増殖させ、その文書の作成と維持のために、必要のない余分な仕事と、利益の少ない出費が増加する。」

 「ISO9000シリーズの文書についての柔軟性を十分利用することにより、真の管理と文書の減少がもたらされるべきである。
 これは、規模にかかわらず言えることであるが、特に、文書を減らす必要がある小企業では、特徴的なことである。」

 この引用先には、従業員数19名の小企業の具体例を挙げている。

 「アーテック社(従業員19名)は、品質マニュアルだけで、管理規定はゼロであり、工程設計だけでISO9001を取得している。簡素化しているので、継続コストも低い。しかし、知恵を内外から集めて設計している。
 アーテック社は、ISO9000シリーズの発想をよく理解し、真のプロを選択し、有効なシステムを設計している。」

 今から考えると、現役時代(1987年)に作成した品質システムは余りにも大げさすぎた。品質マニュアルは一冊であるが、規定類が14-5冊にもなっていた。製造・管理部の従業員は、逐次改訂を加え生きた規定に変えていたが、営業と開発部門はほとんど規定の内容など見向きもしなかった。当然、内部監査では規定からの逸脱が発見されるので、是正処置報告書が発行された。その当時、開発部長はイギリス人だったのでこのような公式文書が発行されると真剣に改善命令を日本人部下に下していた。しかし、日本人は、忙しいを理由にいっこうに改善されなかった。この経験から、品質システムの文書は、簡素化されねばならないと主張したい。 <戻る>

手順書はどの程度詳しく書かねばならないのか?

品質システムのところで述べたように、新しいことを記述するのではなく、いま行っている品質に影響するすべての業務のプロセスを文書化したものが手順書である。したがって、だれが責任と権限をもっているのか、どのような手段で業務を実施するのか、その結果を何に記録するのかがはっきり記述されていれば充分である。ただし、もしこれらの内ではっきりしないもの(たとえば、顧客からの注文書の内容確認をだれがするのかなど)があればこの際決める必要はある。中小企業の場合、一人でいろいろな業務を行っていることが多い。それでも、役割と業務内容さえ明確に記述されていれば問題はない。ここで注意すべきことは、現在の組織名をやたら使わないことだ。組織は変更されることが多いので、何々担当(部署)ぐらいにして柔軟性をもたすとよい。
作業指示書を別の文書体系にすると複雑になるので、手順書の中で作業指示書を添付書類にすると文書類を減らし、簡単になる。ぜひ応用してほしい。なんどもくりかえすが、ISO事務局は中小企業の場合、文書化に多大な時間と努力を費やすことのないよう忠告している。また、飯塚先生は親会社が下請け会社には適切な指導をするように忠告されている。会社の規模に合った品質システムの構築が肝要と考える。 <戻る>


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