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オモシロイ!マークはあくまで私の好みです。


2012年


辻村深月「鍵のない夢をみる」

ささやかな夢を叶える鍵を求めて5人の女は岐路に立たされる。
クラスや職場に時々みかける、ちょっと変わった人だって実はこんな風かもしれないと思う。怖いと思った。
人はほんとうに簡単に道を踏み外してしまう。
泥棒、放火、逃亡者、殺人、誘拐。
殺人を扱った「芹葉大学の夢と殺人」は中でも派手だったけど、「石蕗南地区の放火」が印象に残った。
勘違い男バッグドラフトの個性が強烈で。


瀬尾まいこ「ぼくらのごはんは明日で待ってる」

主人公葉山くんもあだ名がイエスというだけあって、かなり良い性格(言葉通り善人という意味で)ですが、上村さんのはずしの聞いた会話がなんとも心地よくてずっと二人の会話を聞いていたい気持ちになりました。
高校で米袋に入ってからの出会いから、結婚への試練まで、二人はどうしたってベストカップルだなと思うことばかりでした。


伊坂幸太郎「PK」

1編読んで、短編集だと思ったら、他の話もいろんな風にリンクしてました。
その微妙にストーリィがつながる・・・というかそれぞれ干渉する感じが、この作者らしくて、ワクワクして読みました。
おもしろーい!


辻村深月「サクラ咲く」

SFっぽい「約束の場所、約束の時間」男の子同志の
たのしさがあっておもしろかったけど、他の2作、とくに表題にもなっている、「サクラ咲く」は好みの作品でした。
学校の図書館の雰囲気を思い出した。
登場人物もみんないい子で、読後いちばんスカッとしました。
「世界で一番美しい宝石」も図書館がらみ、図書館好きには好物過ぎる内容ばかりでした。


綿矢りさ「ひらいて」

主人公、最初は普通に思えたのに、どんどん追いつめられ、壊れていくのがこわかった。
最初普通ってことは誰にでも起こりうるってことだから。
好きな人と彼女を引き離すために、その彼女に近づき、しかもあそこまでしてしまうなんて、激しすぎです。
まだ幼いからとかではすませられない。
人が道を踏み外す、その時を読んだ。怖い。


桜庭一樹「推定少女」

不思議なお話しでした。
SFなのかな?
カナと白雪と千秋、3人の冒険譚。
しかも、ラストが3パターンあるという・・・。
最初の1つははバッドエンド、のこり2つはハッピーエンド。
私は2番目のパターンがいちばん腑に落ちました。


銀色夏生「自由さは人を自由にする」

タイトルの意味は、自由にしている人が側にいたり、あるいは見たりしていると、自分も自由になりたくなって自由になる、というようなこと・・・だと思います。
自由は連鎖する、みたいな。
銀色さんは活動全開といかないようですが、いろいろ探りながら充電中という感じでした。
さて、今後どのような方向へ進むのか?楽しみですね。
それにしてもカーカ、すっかり大人になって!
赤ちゃんの時から読んでいたので、しみじみ。



赤川次郎「オレンジ色のステッキ」

爽香39歳、秋のお話し。
前作でモデルになった絵が完成し、そのことでまた事件発生。
たいへんな思いをすることになります。
でも、今まで出会った人々や爽香に助けられて良い方向へ向かった人々が、育って(?)手助けしてくれたり。
なんていうか、人柄人材バンクの貯金というか、利子が帰ってきてる、そんな感じです。
こういうの、長くやってきたシリーズものだからこそできる醍醐味ですね。



三浦しおん「仏果を得ず」

ちょっとむずかしい文楽が舞台の話、取っつきづらいかな?と思いましたが、語り手健の人柄で読ませる。
脇を固める人々も個性が立っていて、気持ちよくさくさく読めました。
短編集で、1編にひとつの文楽が紹介されているので、なにげに文楽の知識も身について、お得感もあり。



小野不由美「残穢」

知り合いの編集者に、引っ越したマンションで変な物音がすると相談されたことから、物語は展開する。
その展開する様がおもしろい。
内容的には、「怖い」ということではなく、ただつながる現象がどう落ち着くのかが気になる感じ。
そもそも、そういう中で人々は暮らしていくしかないものと、静かに納得させられる。
恩田陸の「私の家では何も起こらない」を思い出しました。



西尾維新「悲鳴伝」

久しぶりに新作読んだ気がしたけど、じつはそうでもなかった。
西尾維新らしいなという内容。
主人公の性格とか。へんてこな武器とか。
しかも結局地球撲滅軍のヒーローとしての活躍があいまいだったりしてるし、そこもこの作者らしいけど。
とはいえ、なんか消化不良。
このシリーズでもう1作かいてほしいとこです。



村上春樹(画・大橋歩)「おおきなかぶ、むずかしいアボカド」

ananに掲載されていたエッセイをまとめたもの。
同じ人のエッセイをいっぱい読んでいると、たまにカチンとくることがあるのですが、
といってもたいしたことじゃなく、私とは相容れない考えとかに「う〜ん?」となる程度なのですが、村上春樹のエッセイではそうなったことがない?と気づきました。
距離感の取り方や、自分の出し方がうまいんですね、きっと。
今回もケータイストラップがスタバのカップ付きとか、微笑ましいエピソードにニヤリとしたり、気持ちよく読了しました。

言うまでもないことだけど、
無傷で人生をくぐり抜けることなんて誰にもできない。
でもそのたびそこには何か特別の音楽があった。
というか、そのたびにその場所で、僕は何か特別の音楽を
必要としたということになるのだろう。



小野不由美「鬼談百景」

どこかで話されていそうな怪談をまとめたもの。
オチはあったりなかったり。
1編が短く、読みやすいけど、それだけにすぐキリが良く読むのがとまってしまうこともしばしば。
そして、読んでいる間中、これ小野不由美が書かなくてもよかったんじゃ?
その時間があったら十二国記を進めてほしいというか・・・。
読みながら、タイトルの付け方が秀逸だなと思いました。
こんなに沢山の怪談、タイトルかぶらないようにするだけでも大変なのに、なかなかひねりがきいたのもあって目次読みながら、楽しめました。

この件ですが、後日「残穢」を読んで納得しました、「鬼談百景」と「残穢」がほぼ同時期に出た理由。



高野和明「ジェノサイド」

うわさ通りの傑作。
読み出したら、すっかりこの世界の虜になりました。
アフリカでの息の詰まるような逃亡シーン、そして日本の新薬開発チームの子供を助けたいという一心の結束。(韓国人の正勲がいい人!)
そしてヌース(アキリ)の力。
後半を読んでいる時、読み終わるのがもったいない気持ちになるほどでした。
戦争の描写はきつかったけど、おもしろかった!
イエーガもケントもよく頑張った!



石田衣良「6TEEN(シックスティーン)」

語り手テツロー、そしてダイ、ジュン、ナオト4人の16歳の物語。
読みながら、こういう男子高校生いいねぇと、ほのぼのしつつ、あれ?でもそんなに特別ってわけじゃないよね?
今の高校生だって意外にこんな感じかも、と思ったり。
いない、けど、きっといる、そんな純心ま高校生たち。

ぼくたちに与えられた時間は、短くても長くてもみんな平等だ。
いつかはすべてをあきらめて、この世界にさよならを言う。
最期までじたばたしようが、潔く受けいれようが大差などなかった。
強さも弱さもない。若さも老いも関係ない。
ぼくちの命がそんなふうにつくられているだけなんだ。
(本文抜粋)



森博嗣「ブラッドスクーパ」

「ヴォイド・シェイバ」の続編です。
ゼンの生まれたての魂のような思考が興味深い。惹かれます。
世間ではあたりまえとされていることを「知らなかった」というだけで、こんなにまっすぐ素直に物事を見つめられるのか、と。
この静かな世界観、好きです。
あと、竹の石という発想、よいですよね。
絵が浮かびました。
ほんとうにありそう・・・あったら良いのに。

勝つも、負けるも、同じ。
いずれが勝ったかなど、生き延びた者の錯覚にすぎない。
死んだ者は、一瞬にしてなにもかもすべてを手に入れるだろう。
自分がないという完璧さも。
生きた者には、それがお預けになるだけだ。
(本文抜粋)



石田衣良「約束」

タイトルは表題作からとられていますが、この本の全体のテーマとしては「再生」じゃないかと。
ペチャンコになった心が、いろいろなきっかけを得て潤いを取り戻し、蘇っていく、そんなストーリィ。
中では「青いエグジット」が好きでした。



三浦しおん「きみはポラリス」

オビに「最強の恋愛小説集」とあるとおり、様々な恋愛(的な)ストーリィに出会いました。
男女だけではなく。
印象的だったのは「私たちがしたこと」、好きなのは「冬の一等星」。
あと「森を歩く」の作者のお題が「結婚して貧乏になった」だったのにはうけた。そのとおりのお話しだったので。



中田永一「百瀬、こっち向いて」

表題作を読むのは2度目、他ははじめて読みました。
すべての作品を通して読むと、この作者の正体(!)らしいな、と思いますね。
ネタバレかもしれないので、ここには書きませんが、中田永一って、あの人ですよ。
「なみうちぎわ」のヒロインが好きでした。
揺らがない感じが。
「小梅が通る」もかわいらしくて好きな作品でした。
「キャベツ畑に彼の声」は、あとひとひねり欲しかったかな。

色恋沙汰にはうといほうだが、愛と恋のちがいについて抱いている
イメージがある。燃焼反応の化学式だ。
愛とは状態のことで。恋とは状態が変化するときに
放出される熱ではないか。
一階から二階へ階段をのぼると体があったかくなるのとおなじだ。
心が熱を発しながら、今よりも上の、広くてふかい愛情の段階へ
移行いているのだ。(本文抜粋)



伊坂幸太郎「仙台ぐらし」

暮らしている土地、仙台での身の回りのことを語ったエッセイ。
途中から震災の話も入り、また別の角度から震災について考えさせられた。
ラストの1編「ブックモビール」はショートストーリィ。
これは震災があったから生まれたお話しですね。
といっても暗い話ではなく、作者らしいストーリィとオチで救われる。


森博嗣「相田家のグッドバイ」

ひとつの家族が消えてゆく様子が綴られています。
作者の実体験にもとづく話っぽく感じたけど、当たらずと雖も遠からずなんじゃないかと。
今までエッセイを読んできた作者の考え方のルーツがこの作品の父と母のお話から納得できるので。
他から見ると、変わっていて冷たく見える言動も、ただ論理的であったということ。
死やそれにまつわる色々なことについての考え方にはかなり共感できました。
英文の副題は Running in the Blood

(本文抜粋)

動物というのは、そもそもみんな意地を張っている。
1人で生きている。
助けを求めるようなことはしない。
みんな自分だけで頑張っているのではないか。
ただ、それでも、誰かから、頑張ってるね、と言われると、
何故か、少し照れくさくて、少し嬉しい。


本多孝好「ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1」

前作「at Home」はいろいろな家族のカタチを描いた話でしたが、それをもっともっと昇華させてみたら、こんなストーリィができました。という感じ?
家族じゃなけど家族のようなユニットというコンセプトをグレードアップした印象。
しかも超能力絡み!
好みすぎて、おもしろくないわけないですよ。
タイトルにACT-1とつくように、まださわりの部分しか語られていません。
大きな物語の一部しか見せてもらっていない感じ。
この先楽しみな作品になりそうです。


三浦しおん「人生激場」

この作者のエッセイはじめて読みました。
そして、「えー!こういう人なの?」と思う。
いい意味で。
オタクで変なものが好きで、普通の人なら気にしないところに引っかかるあたり、わかる!と激しく同意しながら読みました。
濃い感じの女友達(腐女子的な)と、ハイテンションに下らないことをしゃべってもりあがり、笑い転げてるようなエッセイでした。
今まで多田便利軒のイメージが強かったので、ずいぶん印象かわりました。


よしもとばなな「もりだくさんすぎ」

2010年のWEB日記をまとめたもの。
読んでみると、身体がしんどそうなのに、あちこち出歩いていてそのタフさに感服。
森(博嗣)先生のところへいった話もありましたが、ちゃんと場所はぼかしてあって心得てるなぁと。
チビさんがずいぶんいい感じに成長されていますね。
子供の作る無邪気な空間に、大人はずいぶん助けられているのだな、と思う。


西尾維新「恋物語」

語り手がひたぎさんじゃなかった時点で、やるなぁーというか、らしなぁと思いました。
(ネタバレになっちゃうのであまり書けませんが)
タイトルの「恋」って、以前ふわ〜っとぼかされていた、あの辺にも決着をつけたという感じでしょうか?
でも、セカンドシーズンのファイナルとしては物足りないラスト。
気分はファイナルシーズン待ちになってしまいました。
作者の思うつぼですよね。


益田ミリ「言えないコトバ」

普段は気にとめていないけど、自分でなんとなくよけている言葉って確かにあるかも。
などなどコトバについてのエッセイ。
例えば「今日パンツ買ったの」って言ったとき、下着の方に思われていないよね?だってズボンなんて今どき言わないし、みたいな。
あるある的な内容です。
後半はネタ切れだったのか、そこまで意識しなくてもみたいなコトバもありましたが、
読みながら、普段自分が選んで使っている言葉というものに思いをめぐらせました。


銀色夏生「珊瑚の島で千鳥足」

「ばらとおむつ」続編です。
せっせ、おもしろい人だなぁ。めんどくさそうだけど。w
つれづれシリーズはエッセイにちかいけど、こっちはガチのドキュメントって感じです。
真実って読ませる。
そしてこの真実は・・・ある意味小説よりいっちゃてる。


西尾維新「少女不十分」

出だしのモノローグがいいかげんくどくて、ちょっと投げ出しそうになったのですが、
投げ出さなくてよかった。
中盤からは引きこまれるようにぐいぐい読み、ラストにはしっかり感動です。
他のシリーズ物とは違った西尾維新作品でした。
あのうんざりした長いモノローグも、それがあったからこそ、あの状態で逃げ出さなかったという説得力もでたし。
印象に残る作品になりそうです。


よしもとばなな「だれもの人生の中でとても大切な1年」

去年の出来事が色々かかれています。
去年といえば、地震、震災。
自分はそのときどうしていたのか、とか思い出しながら読みました。
あの1年はほんとうに特別だった。
激しく静かな年。
ばななさんの日記はオーバーなくらい人を美しくかわいらしく表現されていて、
こういう風にものごとの良き面をまっすぐ見つめられるっていいなぁと思いました。

(本文抜粋)

震災のあと、不謹慎でもなんでもやはり思う。
楽しい気持ちがこの世でいちばん大切だと。
楽な気持ちとは違う、楽しい気持ち。


銀色夏生「ばらとおむつ」

銀色さんの母「しげちゃん」の介護記録。
半分はお兄さんのせっせさん(つれづれにも時々登場)のメール。
家族間のことがリアルに書かれていて、めんどくさい親戚づきあいの話とか「あるある!」と同調したり。
でも、この家族みんな変わり者。
事実は小説より奇なりを地でいく家族。
すごい血族!と思いました。


銀色夏生「出航だよ」

つれづれシリーズ19です。
21からさかのぼって読んでます。
で、「あ、このへんダメだ」と。
こういう考え方ならあんまり読みたくないなと思うところがあったので、さかのぼるのはこのへんでおわり。
なので読んでいないシリーズ14〜18は保留です。(シリーズ22が出たら、そこから先は読みます)
と、否定的な事を書きましたが、20年来のつきあいなのでイタイときもあったけど、正直にかかれているのはわかるし、このさらけ出しっぷりはすごいと思う。
タイトル通り、ここがなにかのターニングポイントらしくシリーズ20は嫌な感じがしなかったので、ここまでさかのぼって読んでよかったです。


銀色夏生「相似と選択 つれづれノート20」

シリーズ21が大丈夫だったので、そしてその前が気になったので、さかのぼって読んでみました。
なるほど、今回はCD制作ということで、表に出るような活動が多いです。
周囲の人も知ってる時代からいろいろ変わってますが、でもやっぱりなつかしく読みました。


銀色夏生「しゅるーんとした花影 つれづれノート21」

ひさしぶりのつれづれシリーズ。
以前ちょっとあれ?と思って読むのをやめていたのですが、今回はするっと心に入ってきた。
いろんな言葉に「なるほど!」と思う。
こういうふうに文章で表現するのか、と納得したり共感したり。
これは、前作も読みたくなりました。
2.3作さかのぼって読んでみようと思います。
カーカやさくくんも大きくなっていて時間の流れを感じました。

(本文抜粋)

どんなに願っても、だれにも現実を自分の都合のいいように変えることはできない。
ただ、意味づけは変えることができる。
それができるなら現実を変えたことと同じになる。

人は大人になったら、この世で価値を置くものが、お金や権威や美や若さから精神的なものへと移行しないと、生きるのがつらいんじゃないかと思う。


よしもとばなな「もしもし下北沢」

不倫の末の無理心中で父親を失った娘、そして母の再生までのお話し。
このお母さんがよかったです。
こんな大人の女性になりたい、かも。
ヒロインに対してはわかりたいけど、わかりたくないみたいな屈折したシンクロ感情を感じました。
ラストは、もう少しだけいろんなことをすっきり終わらせて欲しかったです。



川上弘美「真鶴」

ぬらっとした感じのストーリィで、読むのにも時間がかかった。
こういう女の陰っぽい部分が多めに出た作品は苦手かも、と読みながら思いました。
男女のあれこれより、母親ってこういう目線で娘を見るのか、
という部分の方が興味深かった。



海棠尊「螺鈿迷宮 下」

「桜宮にこんな事実があったなんて」編です。
展開はちょっとトンデモ系になってしまったけど、それだけにその分フィクションとしてぐいぐい読めました。
この主人公、またどこかにスピンオフして活躍しそうですね。



海棠尊「螺鈿迷宮 上」

スタートでもたついて読むのに時間かかりました。
序盤、ちょっと退屈で、物語に入り込みづらく。
が、チームバチスタシリーズとのつながりがチラチラして、あっちも読んでおくとザッピング的なおもしろさも味わえます。
そして例の、氷姫のドジッ娘ぶりがすごいです。
後半盛り上がってきたので、下巻はサクサク読めそうです。



三浦しおん「星間商事株式会社社史編纂室」

作中作があったりするので、ミステリとか恋愛とかやおいとか1冊の中にいろんなものがミックスされていて、すごいサービス精神に溢れた世界でした。
とくにミステリのからめかたが面白かった。
「高度成長期の闇」がそういうところに着地するとは、と。
キャラもよかったです。
脇役まできちんと人柄が描かれていいるので、すごく雰囲気を理解しやすい。
実はなかなか荒唐無稽なストーリィだけど、なんか納得してしまう。
魅力のあるお話しってそういうものですよね。



西尾維新「零崎人識の人間関係 匂宮出夢との関係」

人間関係シリーズのラストです。
なるほど出夢とこういういきさつがあったんですね。
ここにきてなんとなく、人識といーちゃんの類似性がわかりました。
まぁ、ひとことで言っちゃうと意外に人がいいみたいな?




池井戸潤「ルーズヴェルト・ゲーム」

野球の話かと思いきや、やっぱりしっかり企業の話。
社長の苦悩、総務部長の苦悩、経理部長の苦悩、そして契約社員の苦悩が社会人野球をからめつつ描かれています。
読み始めると、それぞれのキャラの人となりがすごくリアルに想像できる。
視点の変換もバランス良く、野球部側と会社側とが切り替わり
だれることなくテンポ良く読みすすめられました。
さすが池井戸さん、安定感あるおもしろさです。

ちなみにルーズヴェルト・ゲームとは、野球好きのルーズヴェルト大統領がいちばんおもしろいといった八対七の試合のことだそうです。




奥田英朗「淳平、考え直せ」

3日後鉄砲玉になることが決まった、ヤクザの下っ端淳平の3日間の出来事。
人間はどこまでも自分のことでいっぱいで、ようやっと立っているようだけど、少しでも余裕があれば、恩のある人にはむくいたい、そこまで大げさじゃなくても、自分の身がいたまない程度なら人にやさしくしていたい・・・くらいのことは思ってるんですよね。
ラスト、悪くはなかったけど、ややなしくずしな感じがしました。



宮部みゆき「おまえさん 下」

下巻は切ない展開です。
恋するって大変!としみじみしてしまう。
その中でもお徳さんだけは安定感ありますけどね。
作中の人、どれだけお徳さんに助けられていることか。
さらに下巻も後半になって、弓之助の兄・淳三郎が初登場、いいとこさらっていきましたよ。
今後の活躍が期待できそうなキャラですね。
あとは、丸助さん、この人出てくると場がいっきに和みますね。



宮部みゆき「おまえさん 上」

ひさしぶりに読んだぼんくらシリーズ
平四郎さんはあいかわらずですが、まわりの人々がさらに活き活き動き出した感じ。
お徳、おでこの三太郎&弓之助はもちろん、政五郎親分もよかった。
こういう役人さんがいるのなら、江戸時代もたいしたものだな、とか。
今回初登場(ですよね?)の間島さんは、俗に言う「いい人なんだけど・・・・」みたいな描かれ方ですが、今後事件を経て、どんどんいい男になりそうですね。
検死官的な役割として間島さんの叔父さんがでてきたので、これから更に重要なキャラになっていきそうです。



西尾維新「鬼物語」

「傾物語」があんまり八九寺ちゃんの物語っぽくなかったな、と思っていたら、こっちで実を結び華麗なラストを飾りました。
そして、忍の語る1人目の眷属の話はオマケあつかいで、予想していた部分すべて裏をかかれました。
「くらやみ」は「傾物語」と大きくかかわっていますね。
矛盾をゆるさない存在。
物語(フィクション)の世界であっても。



綿矢りさ「勝手にふるえてろ」

主人公のいけすかなさが、自分は安全圏にいて口や頭だけたっしゃで人を見下す感じや、ちょっとオタクだったりするところとこ、思い当たる女子は多いのでは?
かくいう私も「あるなぁ〜」と反省しつつも認めざるおえないとこいろいろありました。
イチとのエピソードで、反省文100のうち1つ反対のこと混ぜるっていうのよかったですね。



川上弘美「これでよろしくて?」

なんとなく日々をすごしていた葉月の前に、ある日、以前付き合っていた彼の母親(土井母)があらわれ、不思議な食事会にさそわれる。
のですが、この会が今でいう女子会。
年齢、考え方、生き方、も様々なご婦人たちが集まって、その時々に提供されるお題について話し合っている様は、わかる、そしておもしろそう、と混ざりたくなる活気にあふれている。
この会に入ったことによって、今まで目をつぶっていた事に向き合い成長できた葉月がまぶしいです。



近藤史恵「ホテル・ピーベリー」

ハワイ島にある日本人が経営するホテルでの話。
人はみな秘密を隠している。
やや暗めトーンのストーリィでした。
この作者の方向で言うと、キリコシリーズではなく、「砂漠の悪魔」のような。
そしてラスト、ある謎が解かれ、ああこれはミステリー小説だったんだなと。
ちなみに「ピーベリー」というのはコーヒー豆の名前でした。



三浦しおん「私が語りはじめた彼は」

浮気性の“彼”について、いろんな人が語っていますが、基本的に、不幸でどろどろしたトーンの話が多く、ちょっと嫌気がさしました。
でも、“彼”の息子が語り手になる「予言」はよかった。
そこにはきちんと不幸から抜け出した姿が見えたので。



綿矢りさ「かわいそうだね?」

女性ならすごくピンとくる感情が描かれている。
女の嫌なところもかわいさも、ひたむきさも、リアルな感情のうごきが、共感できる。
うかぶ、わかる。
2編集録されていて、「かわいそうだね?」と「亜美ちゃんは美人」ですが、
タイトルにもなったのに「かわいそう〜」のラストは唐突に感じて、やや完成度に不満あり。
「亜美ちゃん〜」の方が、好きです。



恩田陸「夢違」

夢が可視化された世界の話。
夢判断という職業があったり、夢札をひく(他人の夢を視る)とか、
独特の世界観が、しっくりはまるよう描かれている。
この辺の空気間をつくるのはあいかわらずうまい。
技術が進化することにより、一見対極にあるかに思える
スピリチュアルな世界が近づく、って以前から作者が
訴えていることですよね。
ヤタガラス等のビジュアルも想像すると興味深い。
ただ、山科早夜香の件がやや尻すぼみだったので、
ラストの盛り上がりのわりにいまいちスッキリしなかった。
でも、好き。おもしろい!



村上春樹「走ることについて語るときに僕の語ること」

マラソンやトライアスロンを通して、
くじけず、逃げない姿勢が伝わってくる。
どうしてこうなってしまうのか?
それを修正するにはどうしたらよいのか?
ということをとことん追究するあたりはいかにも小説家っぽいけど、
それを発動する原動力がマラソンやトライアスロンというのが
村上春樹なんだな、と。
おもしろいバランス感覚ですよね。



近藤史恵「サヴァイヴ」

「サクリファイス」「エデン」に続く、自転車ロードレース界の話。
競技のもつ特性ゆえか、精神的に痛々しい話が多かった。
あと、語り手が変わると、世界観もガラリとかわるなぁ、と。
チカ(白石)と伊庭、それぞれの語り、
どちらもその人物らしい視点&思考で語られていて、リアル。
スポーツってみんなそうなのかもしれないけれど、
気の抜けない厳しい世界。
痛々しいけど、その中で輝き、そして気づきや成長があり、
読んでいて、身が引き締まる思いでした。


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