コーヒーミル

   家庭で珈琲をおいしく飲むための一つのコツとして、飲む直前に豆を挽くことをお勧めする。珈琲豆は焙煎直後から徐々に酸化を始め鮮度が落ちてくる。これは豆の表面積が大きいほど程度が大きく、つまり大きい豆より細かく挽いた粉の状態の方が保存には不利になるからだ。珈琲を淹れる前にミルを使って豆を挽く。そうすることで広がるいい薫りが鼻をくすぐるのも一つの演出だ。

 一口にコーヒーミルと言っても様々な種類がある。例えばドリップ式の珈琲メーカーに付いているミルは、豆を入れる容器の中に十字形の羽が仕込んであって、それが高速に回転することで豆を切り刻む。この形式もそれなりに使えるが、豆の粗さを時間でしか調節できないこと、そして挽いた粉の粗さが均一になりにくいことが欠点だ。

 手でレバーをグリグリ回す臼型の歯を持ったタイプのミルもよくみかける。大きさもデザインも色々あって、挽いた粉の粗さも歯の間隔を調節すればできる。ただし4−5人前の珈琲を淹れようと思うと、分量の豆を挽くのはかなりの重労働になることを覚悟しなくてはならない。しばしば、客に振る舞う珈琲の豆を挽くのを客に勧めるホストがいるが、これは珍しいからやらせてあげようという思いからではなく、疲れるから代わりにやってもらいたいという魂胆に決まっている。おぜき家でも最初は手回しのミルを買った。使ってみて分かった選ぶポイントは、レバーが大きくて滑らかに回ること、豆を投入しやすいこと。そしてできるなら、大きいものを選ぶとよい。挽いた豆を散らかさないためである。

 ほとんどの喫茶店では電動のミルを使っている。これも幾つかタイプがあるが、いずれにしても高速で短時間に挽けることが長所になる。豆を挽くために豆を長時間高熱にさらすのはよくないとされているからだ。特にエスプレッソ向けのミルは豆をかなり細かく挽く必要があるので、家庭用の手回しミルではまず不可能だ。

 おぜき家では、手回しミルを何度か使っただけで、常用は耐えられないと判断した。そこで考えたのは電動ミル。セラミックの臼歯を重ね合わせるタイプか、喫茶店でよく使われている足の長いペリカンのようなシルエット(分かります?)のカットミルがよさそうだった。そこで値段とサイズを考えて、一旦は手ごろなセラミックタイプを買って帰った。しかし早速豆を挽いた途端、何故かセラミックの歯があえなく欠けてしまった。小石が混ざっていたということもない。すぐに買った店に連絡して交換してもらうことにした。しかしこんな偶然は何かを暗示しているのかもしれない。高いほうを買う運命だったのだ。と考えて、差額を払って結局カリタのナイスカットミルを購入してしまった。

 ナイスカットミルは喫茶店でも使っているところがある。家庭用には十分な性能を持つ。使ってみた感想としては、業務用とはモーターの能力が違うので豆を挽くスピードが思ったより遅い。さらに小さい割にかなりでかい音を出す。またできないことはないが、エスプレッソ用に細かく挽くのは得意ではない。以上のような気になる点はあるが、おおむね気に入っている。何と言っても気軽に珈琲を楽しめるようになった効用は大きい。買ってから10年近くが経つが、今のところ故障知らずで動いている。これからも活躍してもらうつもりだ。

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