おださがに雑記帳という喫茶店があった。おぜき家のおださがコーナーでも紹介しているが、今は休業状態になっている。店のマスターが本厚木に新しい店をオープンし、いまはそちらにかかりっきりになっているからである。
雑記帳の歴史は長い。僕がおださがに越してきたより遥かに前から20年以上営業していたそうだ。マスターの鈴木さんや店の常連客に話を聞くと、オープンしたては一年中休み無しで、鈴木さんも店に寝泊まりしながら営業していたそうだ。実験的な試みもしたらしく、そういう昔の話を聞くのも楽しかった。
店は枕木をふんだんに使った内装で、広いカウンターに小ぶりのテーブル席が2席。入り口にデンと焙煎機が置いてあった。アンティークのランプや調度品に囲まれ、カップはジノリやヘレンドを惜しげなく使って、暗めの照明の中でとても落ち着く雰囲気だった。常連客が深夜まで鈴木さんを囲んで談笑していることも珍しくなかった。
カフェ鈴木のオープンは2000年9月。有名デザイナーによってしつらえられた内装は一見の価値がある。背の低い一枚板の引き戸を入ると正面に劇場の舞台よろしくキッチンカウンターが中心に据えてある。そこから左右にこれもブビンガという材質の一枚板でできた長テーブルが2列並ぶ。壁の照明は間接照明。テーブルの上から手元を照らす照明が、客のプライバシーを守っている。雑記帳とは違い緊張感のある雰囲気の店である。雑記帳が居酒屋だとすれば、カフェ鈴木はショットバーというところだろうか。通ってくる客層も場所柄の違い以上に変化した。雑記帳は鈴木さんと話しに来る一人客が多かったのが、今はグループで来る客が増えたような気がする。
いずれの店も飲み物はエスプレッソ珈琲が中心。バリエーション珈琲とケーキの類いが数種類ある程度。そしてこのエスプレッソが素晴らしい。珈琲の味はなんといっても豆が決めるが、自家焙煎ならではの新鮮さと鈴木さん独特の焙煎方法が他の追随を許さない味を生み出している。エスプレッソマシンもイタリア製の大型のもの。珈琲の値段こそスタバの2倍以上するが、この味を知らずしてエスプレッソを語って欲しくない。
一日も早く、おださが雑記帳の再開を願ってやまない。