それは一本のメールから始まりました。
「ディスコキッド・ファンサイトの管理人様へ」というメールには
こう書かれていました。
(前略)
今回、メンバーの熱い希望により、ディスコ・キッドをプログラムに入れることになったのは、
今年の1月頃でした。公演が近付くに伴い、プログラム・パンフレットの印刷準備をするにあたり、
ノーツを書くべくインターネットで情報収集をしましたところ、貴サイトを見つけ、
それにより、恥ずかしながら、改訂版が作られていたことを始めて知りました。
私達は、サイトをご覧いただければお分かりの通り吹奏楽団ではなくブラスアンサンブルなので、
楽譜は当然、吹奏楽コンクール当時のものを引っ張り出して来て、
メンバーの一人がトランスをいたしました。
手前味噌ではありますが決して安易なアレンジではなく、
原曲の魅力を損なうものでは、決してないと自負しております。
(中略)
私達も、メンバーそれぞれの世代において、ディスコ・キッドをオン・タイムで演奏した
者、その演奏に憧れを募らせていた者、伝説のように語り継がれる“その曲”の素晴らしさ
を後年思い知った者、皆この曲をいろいろな形で愛しております。
よろしければ是非、私達の公演にもお越しください。お待ち申し上げております。
サイトの管理人にとって、このようなメールほど嬉しいものはありません。
これが、トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスの代表
黒沢ひろみさんからのメールでした。
東海林修先生も、プロの方から楽譜の申し込みがあったことと、
ディスコキッド世代ではない方達がディスコ・キッドに引き付けられているというお話を
最初から大変お喜びになっていらっしゃいました。
さて。吹奏楽経験のない管理人。
早速トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスさんのHPでプロフィールを拝見すると
トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスは、1999年の早春に結成された、
ブリティッシュ・スタイルから発想を得た金管アンサンブルです。
そうか!ブリティッシュ・スタイルから発想を得た金管アンサンブルなのだわ!
……ぶりてぃっしゅ・すたいる???
「ブラス・バンド=吹奏楽」でOKだとばかり思っていたのですが、
「ブラス・バンド」と「吹奏楽=ウインド・アンサンブル、シンフォニック・バンドetc」は
違うものなのだということを、今回恥ずかしながら初めて知りました。
詳しい方には今さら、ですが、私と同じようにご存知ない方があるかもしれないので、
簡単に説明させていただきたいと思います。
ブラスバンドの発祥は英国で、炭坑に働く人たちの楽しみとして広まりました。
興味のある方は映画 ブラス! をご覧になると
時代背景や、実際の音がどのようなものかが手軽におわかり頂けるかと思います。
(東海林先生もこの映画で奏でられる音がとてもお好きだそうです)
そして、英国式の「ブラス・バンド」は、金管楽器だけを用いますが、
金管といってもトランペットや普通のホルンは使わず、その代りに
コルネット(小さいトランペットという感じ)やアルトホルン(縦型の細長ホルンのような)
を使うのだそうです。
楽器の種類は、たとえばこちらを参考になさってください。
http://www.yamaha.co.jp/product/wind/brass/index.html
そして、いよいよ10ピースブラスですが、
E♭ソプラノを含む3本のコルネット、フリューゲルホーン、
アルトホルン(テナーホーン)、バリトンホーン、ユーフォニアム、
テナー・トロンボーン、バス・トロンボーン、テューバの10本の金管楽器
そして打楽器
のアンサンブルだそうです。
大編成のバンドからのピックアップではなく、独自のスタイルということにご注目ください。
このスタイルでは、日本で初めてのバンドだそうです。
トレイルブレイザー・テンピース・ブラスのHPはこちら
http://www.ticktuck.com/trailblazers/index.html
そのプロの精鋭たちの金管10ピースのディスコ・キッドを
東海林修先生ご夫妻もご一緒に鑑賞してくださることになりました。
ステージには10脚の椅子と、たくさんの打楽器。
ディスコ・キッドは、第二部の最初。
第一部が終り、休憩中に見まわすと、
会場には、制服姿の善良な中学・高校生や、
美しい銀髪のご婦人がたのお姿もたくさん見うけられました。
教え子さんや、演奏者のご家族もたくさんいらっしゃっていたようです。
お客さまの年齢層の幅が広く、このような場で
「ディスコ・キッド」を演奏していただくのはとてもうれしいことでした。
休憩中に前の中学生と思われる坊やたちが、譜面を見ていました。
書き込みのたくさんしてあるその譜面は、まぎれもなくディスコ・キッド。
楽譜を押さえながら、なにやら確認の相談でしょうか。
作曲なさったご本人が、後ろから、にこにことのぞいていらっしゃったとも知らず(笑)。
第二部では、男性は第一部のタキシード姿から、黒いシャツとベストにお色直し。
管楽器紅一点の黒沢さんはロングドレスがとてもお似合いでした。
さて、ご存知の通り、「ディスコ・キッド」はピッコロのソロから始まります。
ピッコロは木管楽器ですから、当然10ピースブラスにはありません。
どんな演奏?というのも楽しみですが、どんな楽器で?と考えるのもまた楽し。
さあ、イントロです。
ピッコロのソロパートは、ソプラノ・コルネット。だいたい予想通りでした。
ちょっとオトナの雰囲気のディスコ・キッドが始まりました。
その迫力はとても10人の音と思えないほどでした。
慣れ親しんだ曲ですが、違和感全くなく聴けるというのは、
メンバーの星野究(きわむ)さん(ソプラノ・コルネット)のアレンジの妙でしょう。
しかし、驚いたのは後半。
メロディが転調する一番の山場で、
普通のフォルテッシモでは考えられないような音が聞こえました。
それは、滝つぼ近くに下りていったときの、体で感じるあの大きな音に似ていて、
音に圧倒的な迫力があるのだけれど、細かく聞き分けると
一つ一つが繊細な水の音であるかのように、
パアーーーン!という大きな音ではなくて、サーーーーッという音にきこえました。
とにかく、演奏なさるおひとりおひとりの両肩に楽器を持った天使が下りてきて
音が3倍になったような印象、これは、初めての体験。鳥肌が立ちました。
ここで使われる楽器は、音が上方向に出る楽器が多いので
ばらばらに耳に来て、耳の中で合わさるのではなく、空気の中で融合してから届く
そういうことなのですね。
バンドのプロフィールの紹介にある、「華やかで柔らかな音」。
それをそのまま体験できました。
華やかで柔らかなディスコ・キッド。
それはもう、一度は皆さまにも体験していただきたいものです。
ファンの感想(掲示板より)
祇谷蘭さん
編曲も改訂版を元にしていて楽しい仕上がりでした。
イントロのピッコロは、当然(?)ソプラノコルネット。
ミュートつきというのが、アレンジの面白いところですね。
ただ、後の曲でピッコロトランペットに持ち替えしていたので、
スリルを味わうなら、ピッコロトランペットで
high-Aから始めて欲しかったです。
残りの部分も原曲の響きやノリがうまく移植されていて、
非常に楽しい演奏でした。
ブリティッシュスタイルの金管バンド編成で聴けたらいいな、
と思ったことがあるんですが、あれだとチューバが4本(Es、Bb各2)だから、
かなり重いイメージになりそうで、
そういう意味ではトレイルブレイザーズの編成が
この曲にはベストマッチかな、という気もします。
クラリネットソロ、金管バンドにアレンジするなら、
フリューゲルあたりに普通振りそうですが、
ぱっと見どの楽器も構えてなくて、ソロが始まると、
あっと驚くという仕掛け。これはバラさない方がいいですね。
ということで、これも音源化希望!!!!ですね。
そう、クラリネットのソロ。これは、みなさんがおっしゃるように意外な楽器でした。
メンバーの誰も、ソロ直前まで構えないのです。
ということは???
「いつも構えているかのような」そう、右端テューバの佐野日出男さんでした。
お見事でした!
ドラム、パーカッションも、その他すべてのパートも、休む間もなく熱演でした。
どうもありがとうございました。
演奏が終わり、大拍手の中で、黒沢さんがマイクを持ってお話をはじめました。
「今日はようこそお越しくださいました。
第2部の始めはディスコ・キッドをお聴きいただきました。
今日は、本当に夢のような、信じられないことに、
これを作曲なさった東海林修先生が会場にお越しくださっているのです。
東海林先生、おそれいりますが、ご起立願えますか」
すっとお立ちになって、拍手におこたえになる先生。
前の楽譜少年たち、振り向いて3センチほど椅子から飛びあがらんばかりに(◎ワ◎)
よかったですね!
拍手をお受けになったあと、今度は演奏者に向かい拍手をなさる先生。
テューバ氏をジェスチュアでたたえ、会場に温かい笑い声が溢れました。
シエナ・ウインド・オーケストラの演奏会でもそうでしたが、
先生はぐっとその場の雰囲気をつかまれ、なごやかになさいます。
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