トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラス 第4回公演   

於 東京 四谷区民ホール

曲    目

◇第一部◇     
  リムスキー=コルサコフ   歌劇「ムラーダ」より『貴族達の行列』
  ワーグナー   ジークフリート牧歌
  小山 清茂   木 挽 歌
       
◇第二部◇    
  東海林 修   ディスコ・キッド
  ジョン・ゴーランド   カンティレーナ
  ガーシュイン  

パリのアメリカ人

       
◇アンコール◇   昭和38年放映開始のロボットメドレー
      懐かしのテレビ番組主題歌メドレー
       
       
出 演
Soprano Cornet    

星野

Cornet   平林
Cornet  

平林

Flugel Horn   奥野 儀光
Tenor Horn   古田 儀左ヱ門
Baritone   山戸 宏之
Euphonium   黒沢 ひろみ
Tenor Trombone   岸良 開城
Bass Trombone   石井
Tuba   佐野 日出男
Percussion   小田 もゆる
Percussion
  奥田 真広


会場の四谷区民ホール入り口


新宿区役所出張所などが入った建物の9階にあります。
新宿御苑(八重桜・つつじの名所)のおとなり




それは一本のメールから始まりました。
「ディスコキッド・ファンサイトの管理人様へ」というメールには
こう書かれていました。

(前略)
今回、メンバーの熱い希望により、ディスコ・キッドをプログラムに入れることになったのは、
今年の1月頃でした。公演が近付くに伴い、プログラム・パンフレットの印刷準備をするにあたり、
ノーツを書くべくインターネットで情報収集をしましたところ、貴サイトを見つけ、
それにより、恥ずかしながら、改訂版が作られていたことを始めて知りました。
私達は、サイトをご覧いただければお分かりの通り吹奏楽団ではなくブラスアンサンブルなので、
楽譜は当然、吹奏楽コンクール当時のものを引っ張り出して来て、
メンバーの一人がトランスをいたしました。
手前味噌ではありますが決して安易なアレンジではなく、
原曲の魅力を損なうものでは、決してないと自負しております。
(中略)
私達も、メンバーそれぞれの世代において、ディスコ・キッドをオン・タイムで演奏した
者、その演奏に憧れを募らせていた者、伝説のように語り継がれる“その曲”の素晴らしさ
を後年思い知った者、皆この曲をいろいろな形で愛しております。
よろしければ是非、私達の公演にもお越しください。お待ち申し上げております。

サイトの管理人にとって、このようなメールほど嬉しいものはありません。
これが、トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスの代表
黒沢ひろみさんからのメールでした。

東海林修先生も、プロの方から楽譜の申し込みがあったことと、
ディスコキッド世代ではない方達がディスコ・キッドに引き付けられているというお話を
最初から大変お喜びになっていらっしゃいました。

さて。吹奏楽経験のない管理人。
早速トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスさんのHPでプロフィールを拝見すると

 トレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスは、1999年の早春に結成された、
 ブリティッシュ・スタイルから発想を得た金管アンサンブルです。

そうか!ブリティッシュ・スタイルから発想を得た金管アンサンブルなのだわ!

……ぶりてぃっしゅ・すたいる???


「ブラス・バンド=吹奏楽」でOKだとばかり思っていたのですが、
「ブラス・バンド」と「吹奏楽=ウインド・アンサンブル、シンフォニック・バンドetc」は
違うものなのだということを、今回恥ずかしながら初めて知りました。

詳しい方には今さら、ですが、私と同じようにご存知ない方があるかもしれないので、
簡単に説明させていただきたいと思います。

ブラスバンドの発祥は英国で、炭坑に働く人たちの楽しみとして広まりました。
興味のある方は映画 ブラス! をご覧になると
時代背景や、実際の音がどのようなものかが手軽におわかり頂けるかと思います。
(東海林先生もこの映画で奏でられる音がとてもお好きだそうです)

そして、英国式の「ブラス・バンド」は、金管楽器だけを用いますが、
金管といってもトランペットや普通のホルンは使わず、その代りに
コルネット(小さいトランペットという感じ)やアルトホルン(縦型の細長ホルンのような)
を使うのだそうです。
楽器の種類は、たとえばこちらを参考になさってください。
http://www.yamaha.co.jp/product/wind/brass/index.html


そして、いよいよ10ピースブラスですが、

E♭ソプラノを含む3本のコルネット、フリューゲルホーン、
アルトホルン(テナーホーン)、バリトンホーン、ユーフォニアム、
テナー・トロンボーン、バス・トロンボーン、テューバの10本の金管楽器
そして打楽器

のアンサンブルだそうです。
大編成のバンドからのピックアップではなく、独自のスタイルということにご注目ください。
このスタイルでは、日本で初めてのバンドだそうです。
トレイルブレイザー・テンピース・ブラスのHPはこちら
http://www.ticktuck.com/trailblazers/index.html

そのプロの精鋭たちの金管10ピースのディスコ・キッドを
東海林修先生ご夫妻もご一緒に鑑賞してくださることになりました。



ステージには10脚の椅子と、たくさんの打楽器。

ディスコ・キッドは、第二部の最初。
第一部が終り、休憩中に見まわすと、
会場には、制服姿の善良な中学・高校生や、
美しい銀髪のご婦人がたのお姿もたくさん見うけられました。
教え子さんや、演奏者のご家族もたくさんいらっしゃっていたようです。
お客さまの年齢層の幅が広く、このような場で
「ディスコ・キッド」を演奏していただくのはとてもうれしいことでした。

休憩中に前の中学生と思われる坊やたちが、譜面を見ていました。
書き込みのたくさんしてあるその譜面は、まぎれもなくディスコ・キッド。
楽譜を押さえながら、なにやら確認の相談でしょうか。
作曲なさったご本人が、後ろから、にこにことのぞいていらっしゃったとも知らず(笑)。


第二部では、男性は第一部のタキシード姿から、黒いシャツとベストにお色直し。
管楽器紅一点の黒沢さんはロングドレスがとてもお似合いでした。


さて、ご存知の通り、「ディスコ・キッド」はピッコロのソロから始まります。
ピッコロは木管楽器ですから、当然10ピースブラスにはありません。
どんな演奏?というのも楽しみですが、どんな楽器で?と考えるのもまた楽し。

さあ、イントロです。
ピッコロのソロパートは、ソプラノ・コルネット。だいたい予想通りでした。
ちょっとオトナの雰囲気のディスコ・キッドが始まりました。

その迫力はとても10人の音と思えないほどでした。
慣れ親しんだ曲ですが、違和感全くなく聴けるというのは、
メンバーの星野究(きわむ)さん(ソプラノ・コルネット)のアレンジの妙でしょう。

しかし、驚いたのは後半。
メロディが転調する一番の山場で、
普通のフォルテッシモでは考えられないような音が聞こえました。
それは、滝つぼ近くに下りていったときの、体で感じるあの大きな音に似ていて、
音に圧倒的な迫力があるのだけれど、細かく聞き分けると
一つ一つが繊細な水の音であるかのように、
パアーーーン!という大きな音ではなくて、サーーーーッという音にきこえました。
とにかく、演奏なさるおひとりおひとりの両肩に楽器を持った天使が下りてきて
音が3倍になったような印象、これは、初めての体験。鳥肌が立ちました。

ここで使われる楽器は、音が上方向に出る楽器が多いので
ばらばらに耳に来て、耳の中で合わさるのではなく、空気の中で融合してから届く
そういうことなのですね。
バンドのプロフィールの紹介にある、「華やかで柔らかな音」。
それをそのまま体験できました。
華やかで柔らかなディスコ・キッド。
それはもう、一度は皆さまにも体験していただきたいものです。

ファンの感想(掲示板より)

祇谷蘭さん

編曲も改訂版を元にしていて楽しい仕上がりでした。

イントロのピッコロは、当然(?)ソプラノコルネット。
ミュートつきというのが、アレンジの面白いところですね。
ただ、後の曲でピッコロトランペットに持ち替えしていたので、
スリルを味わうなら、ピッコロトランペットで
high-Aから始めて欲しかったです。

残りの部分も原曲の響きやノリがうまく移植されていて、
非常に楽しい演奏でした。
ブリティッシュスタイルの金管バンド編成で聴けたらいいな、
と思ったことがあるんですが、あれだとチューバが4本(Es、Bb各2)だから、
かなり重いイメージになりそうで、
そういう意味ではトレイルブレイザーズの編成が
この曲にはベストマッチかな、という気もします。

クラリネットソロ、金管バンドにアレンジするなら、
フリューゲルあたりに普通振りそうですが、
ぱっと見どの楽器も構えてなくて、ソロが始まると、
あっと驚くという仕掛け。これはバラさない方がいいですね。


ということで、これも音源化希望!!!!ですね。


そう、クラリネットのソロ。これは、みなさんがおっしゃるように意外な楽器でした。
メンバーの誰も、ソロ直前まで構えないのです。
ということは???
「いつも構えているかのような」そう、右端テューバの佐野日出男さんでした。
お見事でした!

ドラム、パーカッションも、その他すべてのパートも、休む間もなく熱演でした。
どうもありがとうございました。


演奏が終わり、大拍手の中で、黒沢さんがマイクを持ってお話をはじめました。

「今日はようこそお越しくださいました。
 第2部の始めはディスコ・キッドをお聴きいただきました。
 今日は、本当に夢のような、信じられないことに、
 これを作曲なさった東海林修先生が会場にお越しくださっているのです。
 東海林先生、おそれいりますが、ご起立願えますか」

すっとお立ちになって、拍手におこたえになる先生。
前の楽譜少年たち、振り向いて3センチほど椅子から飛びあがらんばかりに(◎ワ◎)
よかったですね!


拍手をお受けになったあと、今度は演奏者に向かい拍手をなさる先生。
テューバ氏をジェスチュアでたたえ、会場に温かい笑い声が溢れました。
シエナ・ウインド・オーケストラの演奏会でもそうでしたが、
先生はぐっとその場の雰囲気をつかまれ、なごやかになさいます。



観衆の大拍手にこたえる東海林先生。
ジャンルを問わず、先生の作品のあとの
本気の大拍手には、いつも感激です!




「ありがとうございました。今日私は、もう、中学生のような気持ちなのです」
と黒沢さん。「おいおい!」「老けた中学生だネ〜」とメンバーから突っ込み(笑)。

でもわかります。
音楽は、時にタイムマシンのようにその頃の自分に確実に戻らせてくれます。
そこには、部室や音楽室や体育館や帰り道の空気も流れていたことでしょう。



さて、終演後、東海林先生を囲んで写真撮影。


撮影前のひととき



撮影が終って、団員さんたちと談笑なさる東海林修先生。(右端)

「『指揮者がいない演奏』は素晴らしい。まさに阿吽(あ・うん)の呼吸でしたね。」
(東海林先生)



団員さんたち全員の熱いまなざしに注目!
これはシエナの時にも感じたことです。

パーカッションのお嬢さん(小田もゆるさん=青いベストの方)が
「『怪獣のバラード』が私のテーマソングなんです」と言ってくれました
(東海林先生)




淡いベージュのダブルのスーツ、
茶色にドット柄のネクタイ、同じ色のポケットチーフ。
いつもながら、お洒落な装いでいらっしゃいます。

当日初めてお袖を通されたそうです。
とてもよくお似合いでした。

左端 バンマスの黒沢ひろみさん。お世話になりました。
うれしそすぎ!(笑)



公演が始まる前、東海林先生から興味深いお話を伺いました。

ヨーロッパの狩猟民族は、一旦外に出たら、どんな動物に出会うかわからない。
それこそトラが出るか、クマが出るか。
だからいつも相手の出方に応じた行動が要求される。
それで、危険を乗り越えて一家の主が家に帰ると、
ハグしてキスして大騒ぎで無事を喜び合う習慣もできた。

農耕民族は、毎年、決まったことの繰り返し。
決められたとおりにしていればいい。
殻を破ったり、あたらしい冒険をする必要がないから、できない。
喜びをあらわすのも苦手といわれる。


なるほど、と思いました。

先生の真の国際性といってもいい、柔軟な発想から生まれた名作なのですね。


発表当時は、「美空ひばりの『東京キッド』じゃあるまいし」などと
批判もあったというディスコ・キッド。
吹奏楽界に衝撃を与えた課題曲。
26年という歳月を経て、その曲の真価を、「もはやスタンダード」という言葉が語ります。


ところで、この日のアンコール(と書いて『第三部」』と読むらしい(笑))
の演奏で、昭和のテレビ番組の主題歌をたくさん聴かせていただきました。

昭和38年放映開始のロボットメドレー   アトム、エイトマン、鉄人28号
懐かしのテレビ番組主題歌メドレー   チロリン村とクルミの木、ひょっこりひょうたん島、おはなはん
    新日本紀行、ビッグX、キャプテンウルトラ、
今日の料理、宇宙人ピッピ、ジャングル大帝


すみません。管理人はとても若いので、
「チロリン村と
クルミの木」なんて知らない世代です。
♪ちんちんちろりん 野菜村♪ なんて、歌えません。

♪つーきも宇宙もはるかにこーえーてー♪(キャプテンウルトラ)
なんて知りませんってば。(追記:↑実は火星をこえるのだそうです。)
とっても懐かしくなかったです((笑))。


これも楽しかったのです。
でも、ディスコ・キッドは、ただ楽しいだけではないなあ、と思いました。

それは演奏してくださった皆様の高度な技術によるとも思いますが、、
いつもCDで聴いているのとは違う音で聴いて、
ただ「明るく元気が出る曲」ではなく、作品に、「気品」と「風格」を感じました。
曲がよく、演奏がすばらしく、心が豊かになりました。


演奏会終了後、先生ご夫妻にファン全員お招き頂いたお席で、
よく先生がおっしゃるお言葉をまた伺いました。

「作曲家は、曲を作り終えた瞬間に、もう手を離してしまいますから…」

星の数ほどの名曲を世に送り出してくださった先生。

「言いたいことがあったけど、まぁ、ちょっと遠慮した」
「どんなことですか?」

 せがれよ、ひさしぶりだなぁ

 あ、おとっつぁん。



お洒落で都会的なのに、突然落語の世界にもなる、先生とのひとときでした。

そうですね、今年26歳のディスコ・キッド。
ほんとにおりこうに育ち、まだまだ可能性を秘めています。

ディスコ・キッド大会はもちろん、
先生指揮によるスタジオ録音のCD、海外での演奏など、
夢は果てしないのでした。


「トレイルブレイザーズ」は、「新時代を切り拓く者たち、先駆者」という意味なのそうです。

今回、10ピース・ブラスでの演奏をしていただいたことにより、
確実に「新しいディスコ・キッド」が誕生したと思います。

金管バンドによる演奏なども併せ、ディスコ・キッドの演奏機会は
これからますます増えることでしょう。
また演奏したい。一度演奏してみたい。聴いてみたい。もっと聴きたい。

ディスコ・キッドはそういう曲なのですね。

是非次回は、今回欠席だったみなさまともご一緒に鑑賞できることを願いつつ……。


お世話になりました黒沢さんはじめ、トレイルブレイザーズの皆様、
本当にありがとうございました。

そして東海林修先生、素敵な曲をありがとうございました。

2003.07.06 ディスコ・キッド愛好会 はつよ@管理人


公演プログラムより

◆ディスコ・キッド◆

全日本吹奏楽コンクールの歴代の課題曲の中で、
この作品ほど、時代を越えて愛され続けている曲は、
これまでに(もしかしたら今後も!?)類を見ないのではないでしょうか? 
つい先日、インターネットの某検索サイトでヒットした件数は670件! 
その中には、ありました!『ディスコ・キッド愛好会』!! 
とても細やかにかつ愛情込めて作られているページですので、
ご覧いただくのも興味深いかと思います。
   http://www6.airnet.ne.jp/oumesan/discokid.html 

 作曲者の東海林修氏の手掛けた音楽は、
1959年放映開始のフジTV『ザ・ヒットパレード』や62年のNTV『シャボン玉ホリデー』、
中尾ミエのヒット曲「可愛いベビー」のシングルレコードの編曲をはじめ、
梓みちよ、伊東ゆかり、ザ・ピーナッツ、坂本九、沢田研二といった歌手の皆さんへの
数え切れないほどの作編曲、76年の『デンセンマンの電線音頭』、
81年公開の『さよなら銀河鉄道999〜アンドロメダ終着駅』の映画音楽、
最近ではシンセサイザー作品の自作自演によるCDアルバム多数などなど、
スタジオワークを中心にまさしく多岐に渡り、世に送り出された作品は数知れません。
この作品は1977年(昭和五十二年)、氏の作品群の中では異色の
“吹コン課題曲”として書かれたものですが、
その作曲背景については、それを彷佛とさせるご本人のお言葉
(2002年6月ディスコ・キッド改訂版初演時の演奏団体へのメッセージの一部)を
引用させていただく事にいたします。

   世のなかには沢山の基準があってその範疇で行動すれば至極気楽で安全です。
   ところがこれを裏返すと旧い因習に囚われて身動きがとれない世界です。
   暗黙の安全世界を壊そうとするものが現われると一斉に削除に走ります。
   こんな状態に挑戦すべく「ディスコ・キッド」は25年前に大胆にも
   ソニーのディレクターの後押しもあって   発表することが出来ました。
   既存の範疇から著しく逸脱したこの作品は賛否両論で話題になりましたが
   いまだに支持して下さる方が大勢いらして感謝の念でいっぱいです。(後略)
 

えぇ、東海林先生、私たちは皆この曲が、これからもず〜っと、大好きですよ!

【文責/黒沢】




♪ ご協力くださいましたトレイルブレイザーズ・テンピース・ブラスの黒沢様、祇谷蘭さん、H9さん ゲンさん ありがとうございました。♪