※この感想はblogからの転載になります。

Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street
       〜スウィーニー・トッド−フリート街の悪魔の理髪師

  Tim Burton監督とJohnny Deppによる黄金コンビの最新作、『Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street(邦題:スウィーニー・トッド−フリート街の悪魔の理髪師)』を観て来ました。
  このコンビの作品は個人的に好きな作品ばかりなんですが、その中で一番衝撃を受けた作品になりました。今までのJohnny Depp作品の中で、一番“凄い”彼が存在しているんじゃないでしょうか。私は「退廃的な雰囲気」や「陰のあるキャラ」が好きなので、この作品はかなり気 に入ってしまっています。Tim&Johnnyコンビ作品の中ではMy Bestと断言してもいいかも。

 舞台は19世紀のロンドン。美 しい妻と可愛い赤ちゃんと幸せに暮らしていた理髪師の男が、判事の陰謀に嵌って無実の罪を着せられ妻子と離れ離れになってしまう。だが、15年の歳月を経 て男は再びロンドンに戻って来た。目的は愛しい妻子との再会。過酷な生活のせいで男の風貌は変わり果ててしまったが、Sweeney Toddという異名を名乗り自分を陥れた街ロンドンに戻って来た。しかし、かつて理髪店を営んでいた店の大家であるMrs. Lovettと再会したSweeney Toddは、彼女から妻子の行く末を知らされ激しい悲しみと怒りと憎しみにかられ、自分や家族を陥れた判事や街の者たちへ復讐を誓うのだった。

 …という内容で、哀しい男による残酷な復讐劇です。
  過去にも映画化された有名なミュージカルですが、私は去年公演された市村正親さんと大竹しのぶさん主演の舞台を観ていたので衝撃の結末も知っていました。 けれど、内容を知っていても、ラストまでの怒涛の展開の「見せ場」は最後まで惹き込まれました。Tim Burton監督は何か独特のアレンジをしてくるかと思っていたんですが、文字通り舞台通りに作品を映画化していたと感じました。

 私は舞台版を 観ていたから比較的冷静に観られたのかもしれませんが、この作品をなんの情報も入れずに「復讐劇」だという認識だけで観たら、ラストは物凄い衝撃を受ける と思います。正直言って、ナーバスな気分になっている時に観る作品ではないと思います。相当の覚悟を持って観た方がよいかもしれません。「復讐をする」と いうことで、一体その者は何を得るのか…それを悲しく、そして時に美しく、残酷に描写しています。

 そして、この作品の特徴でもある、わ ざとモノトーン調にした暗い画面に鮮やかに彩る血の色というコントラストは、Tim Burton監督ならではの映像美が光っていました。あと、回想シーンなどはカラフルになっているところも、現実の物悲しさを引き立てていたように見えま した。だから、かなり残酷な描写もあるんですが、スプラッタ系のホラー映画を観ているような感じにならなかったです。
 特にラストシーンなんて、残酷ながらも見惚れてしまうような美しさがあり、それが登場人物の心情とリンクしているようにも見え、なんとも言えない虚しさを味わいました。

 Johnny Deppはこの作品で歌声を初披露していますが、歌うというより台詞を語るような節回しも多く、彼のような俳優だからこそ歌いこなせるというか、様になる歌いっぷりでした。特に“友”を手にして、復讐を誓うシーンなんて本当にカッコよかった!

  他のミュージカル作品と違って、耳に残るようなインパクトのある王道な楽曲はほとんど無くて、かなり難しい楽曲ばかりなので、その楽曲を感情を乗せて歌い 上げるキャスト達は本当に素晴らしかったです。特にHelena Bonham Carter演じるMrs. Lovettはわざと音程や調子を外したような曲もあるので、彼女の歌唱力と表現力の素晴らしさに圧倒されました。サントラ盤は買って損はないと思いま す。

 とにかく「凄い」としか言いようのない作品でしたし、ショッキングな内容でもありました。エンドロールが流れている時に嗚咽を堪えて泣いている人もいらっしゃいましたが、見方によってはそれぐらい「衝撃」の結末が待っている作品です。





【注意】以下、ネタバレを含んだ感想になります。


 この作品は復讐劇なので誰もが満足するようなハッピーエンドないだろうと、観る前からなんとなく感じることができますが、この作品は想像以上に、復讐に とり憑かれた男の破滅ぶりをとことん描いていると思います。復讐をすることでToddの心が満たされるどころか、「救い」のない行動に出てしまって、最終 的には「全て」を失うことになるという結末は、悲しいと言うよりも、言葉に表現のしようのない虚脱感を生みます。観終わった後に無言になってしまうって、 こういう状況を言うんじゃないでしょうか。

 Sweeney Toddは最後に取り返しのつかない失態を犯すことで、ある「真実」を知ります。そして、本当の「復讐」を達成します。正に「負の連鎖」としか言いようの ない悲惨な展開ですが、彼がMrs. Lovettと組んで復讐劇を始めた時点で、もうこれ以外の結末は無かったんじゃないかとも思え、一人の男として見ても非常に哀れに見えます。だから、復 讐に燃え、達成し、そして全てを失いながらも、愛しい人を抱きながら迎えた死は、やっと訪れた「救い」だったのかもしれません。そう考えると、ラストのあ の表情は唯一彼が見せた安らかな表情だったんじゃないかと感じました。

  Mrs. Lovettの関係も皮肉が効いていましたね。Mrs. LovettはSweeney Toddと再会してすぐに、「あなたは美しい人だった」とか、「帰って来るのを待っていた」とか、彼に対して猛アピールをします。復讐に加担して商売繁盛 となると、Sweeney Toddに具体的な未来像を語って自分達は夫婦になるべきだとまで言いますが、判事への復讐で頭がいっぱいのSweeney Toddは話半分どころか、彼女への愛情は微塵も感じません。Mrs. Lovettは復讐さえ果たせば自分へ愛情を向けてくれると思っていたようですが、一番重要な「真実」を隠していたことで、その愛を得ることができなかっ た。

 ある意味、Mrs. LovettもToddを一途に愛しただけの哀れな女性に過ぎないんですが、Sweeney Toddのように憐れむことができないのは、彼女がフリート街に住む「悪魔」だったからなんじゃないかという印象を受けたからかも。彼の為に「真実」を告 げなかったと言い訳をしていましたが、自分の為だったんじゃないのかな…と思えてならなかったです。

 登場する人物たちがここまで「救い」がない物語も珍しいですが、これこそが「復讐の代償」なのかもしれません。




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