※この感想はblogからの転載になります。

おくりびと

 第32回モントリオール世界映画祭でグランプリを受賞して以降、第81回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品に選ばれ、圧倒的な評判の良さで話題の『おくりびと』を観て来ました。さすが口コミで評判が広がっただけに、レディースデイということもあってか客席は満席でした。

 主人公の小林大悟(本木雅弘)はプロのチェロ奏者だったが、所属していた楽団が経営難で解散となり無職になってしまう。チェロ奏者の腕前はそこそこでしか なかったのを自覚していた小林はチェロの道を諦め、妻(広末涼子)を連れて故郷の山形に戻ってやり直すことを決める。しかし、山形へ戻って職探しに出た小 林は、ひょんなことから遺体を棺に納める"納棺師"の仕事に就くことになってしまい、初めて遭遇する世界に戸惑いを感じながらも、この仕事の素晴らしさを 次第に自覚していく。

 という話で、納棺師の視点を通して人間の死や家族の絆を描いている作品であると同時に、現代の日本人には馴染みが薄い「納棺師」という職業の素晴らしさ、美しさを伝えている作品でもありました。
  私は母方の祖父母の時の納棺に立ち会っていますが、納棺師という方はいらっしゃらなかったので、映画で初めて観た納棺師の儀式というか作法の美しさに能な どを観ている時のような感動を覚えました。故人を敬い丁重に扱っている仕草は美しく、それだけで心を打つような何か言葉では表せない力があります。

 納棺師の存在によって「人の死」とはどういうものなのか、それを取り巻く「家族」との関わりはどういうものなのか、考えさせられるところも多く、現代の作品ですが、古き良き日本の風習を見ているようにも感じました。

  死を扱った作品だけれども、妙な湿っぽさは無く、むしろ時にユーモアも散りばめられていたり、話が淡々と進む中でも飽きることはありませんでした。日本人 らしい喜怒哀楽の表情や、四季の移り変わり、その映像に重なるように流れる久石譲さんの音楽がマッチしていて、目にも耳にも優しい作品だったな。

 後半は少しお涙頂戴的な流れを感じましたが、主演の本木雅弘さんの納棺師ぶりは一見の価値ありです。エンドロールでは納棺師の儀式での一連の動きを披露しているんですが、芸術作品のような美しさでした。

  どんな台詞よりも、納棺師の真摯たる姿勢だけで涙を流すことができる、心を洗われるような気分になる素晴らしい作品でした。人の命の重さや尊さが蔑ろにさ れ、家族間の絆が希薄になっていることを痛感させられる今の時代だからこそ、できるだけ多くの日本人の方に観て欲しい作品でもあります。




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