男たちの大和〜YAMATO

男たちの大和 観たい作品の一つだったけど、なかなか映画館に行けなくて「このままビデオリリースなってから観ることになるかな〜」なんて思っていたんですが、タイミングよく劇場招待券を入手した友達に誘われて観に行くことができました♪やはり、こういう作品は劇場の大スクリーンで観てこそ良さが解る作品ですよね。

 この作品は、1945年4月7日に東シナ海沖で沈没した「戦艦大和」の生存者や遺族の方々に、辺見じゅん氏が取材をして書いた「男たちの大和」を映画化したもので、約6億円をもかけて原寸大で再現された全長200m近い「大和」の巨大なセットは撮影時から話題になっていました。個人的に、久しぶりに邦画界か渾身の力を入れて製作した映画という印象が観る前からありました。

 ストーリーは、2005年4月、鹿児島県枕崎までやって来た内田真貴子は、「大和が沈んだ場所まで船を出して欲しい」と頼み、彼女が戦中時代の自分の上官である内田守の娘であると知った神尾は、真貴子と15歳になる弟子の前園敦を乗せた小型船で大和が沈没した場所まで向かった。そして、そこに向かう途中で神尾の脳裏には60年前の出来事が脳裏に蘇り、真貴子たちに話していくのだった。


 というもので、仲代達矢演じる神尾が当時を振り返れることで、「戦艦大和」とその船と共に命を落としていって戦友たちの思い出が回想されるというものでした。

 真貴子が戦艦大和が沈んだ場所に案内して欲しいと懇願した理由は、父親の「自分が死んだら遺骨を大和が沈んだ場所に撒いて欲しい」という遺言があったから…というのことが最後に明かされるのですが、上官である内田守を尊敬していた神尾は、内田守二等兵の為にということで、終戦してから60年一度も行こうとしなかった大和沈没の場所へ赴き、口を閉ざしてきた戦中の悲劇を語ることで、弟子に当たる15歳の敦にも大きな影響を与えていきます。

 ストーリー上、若かりし神尾青年の視点で物語は進むので、観る前までは反町隆史や中村獅童が主人公だと思っていた私は肩透かしのような感覚になりましたが、二人とも15.6歳が中心になった若い見習い隊員の良き先輩…尊敬すべき上官という役柄がハマッていて、年若い青年兵達よりも「日本の現実」が見えている分、すごく切なかったです。何より、神尾老人と神尾青年の現在と過去のバランスがよくて、重くなりがちな戦争映画の冒頭をすんなりと見入ることができました。


 終戦間際の話なだけに、無謀な作戦ばかりが立てられ、客観的に観ると「無駄死に」にしか見えないのですが、当時は「そうするしかない」という流れがあり、その為に年若い者の多くが無残にも命を落としていったのかと思うと、悲しさよりも虚しさが先行します。
 それだけ、最後の大和の激闘は凄まじいものがあり、残酷な場面を鮮明に描写していました。たぶん、現実はこんなものではなかったんでしょうけどね。

 多くの登場人物が出て、それぞれににエピソードがあるのですが、共通して「愛する人が居る国を守りたい」というのがあり、死を恐れている者も居るものの、「こういう状況で死は必然」と捉えている者が多くて、今の同世代の若者が同じ立場になったら、ここまで潔い態度を取れるのか?とも思うくらい、当時の若者は覚悟を決めていました。それが「戦時中」だから、当たり前ということだったのかもしれませんが、戦争を知らない世代にとっては衝撃的な態度でした。
 「死ぬ」という意味を本当はどういうことは知らないのに、「死ぬ」ということを恐れてはならないと考えることは、ある意味「狂気」にも近いことだと思います。だけど、こういう気持ちでいなければ、戦争を切り抜けられないのかと思うと、いかに「戦争」というものが人間を狂わせるものかを痛感させららます。

 神尾は戦艦大和乗組員の中の貴重な生き残りの一人ですが、自分だけ生き残ってしまったことで、この60年間見えない十字架を背負い続けてきました。だけれど、大和から生還し11人もの養子を受け入れ人生を全うした内田守の生涯を知ることで、自分が生き抜いた意味を痛感することになります。これは、戦争体験者でなければ判らない「重さ」であり、「救い」なんだと思いますが、同時に私達「戦争を知らない世代」にとっては「忘れてはならない過去」であり「現実」なんだと実感しました。


 冒頭から戦艦大和が沈んでいる映像が紹介されるので、戦艦大和がいつどこで沈没したか最初の時点で判っているだけに、沈没してしまう日に刻々と近付いていく描写はとても胸が詰まる思いでした。
 兄に先立たれた若者、家族を失った若者、母を残さなければならない若者、仲間を失った若者、死ぬことが判っているのに命令しなければならない大人たち…それぞれに「救い」はないけれど、いつか終わることを信じて、勝利を信じて戦う様は本当に虚しかったです。でも、これ以上の現実が60年前にあったのかと思うと、「戦争とは一体何だったのか?」と思うし、戦死していった人たちの為にも、「二度と繰り返してはらない」と感じました。




 本来ならミーハー語りとか、キャラ語りとかするんですが、そういうことができるような内容ではありませんでした。そうするには、あまりにも重すぎます。


 本当に豪華キャストで、「え?これだけの人がこんな僅か役?」と感じるシーンも多々あるくらいでしたが、それだけ、この作品に込めた「想い」が強かったんでしょうね。

 一番印象に残ったキャラクターは、物語の中心人物でもある若き日の神尾克己でしたが、先にも書いたけど、それぞれの登場人物に物語があり、その多くが戦争によって悲劇的な幕を降ろさなければなからなかったというのが切なかったし悔しかったです。
 ただ、神尾の若い見習い船乗りである敦が、神尾の話を聞くことで「自分自身」と「時代」というものに真正面から向き合おうという決意を見せたラストシーンには「救い」を見ました。


 まぁ、重箱の隅を突くようなことを言えば、日本軍を随分と美化した描写しているなというのと、海軍特別少年兵のエピソードがどれも「母と子」という似たようなエピソードだったことと、妙に戦闘シーンが多いというのが若干不満というか、飽きてしまう部分でもありましたが、出演者が本当に「熱演」していたので、その世界に入り込むことができました。
 反町隆史さんも中村獅童さんも、それぞれ威圧感というか風格がありましたからね。あと、長嶋一茂さん演じる大尉が、すごく良い所取りというか、印象深い台詞が多いなぁ〜と思いました。


 あと、200m近い巨大セットで再現された「戦艦大和」。さすがに迫力でしたが、思ったよりも全体像というか、巨大セットならではの映し出されませんでした。その辺はちょっと残念だったかな。ただ、一番「戦艦大和」の全体像を一番長く見られたシーンが、米軍による爆撃を受けて破壊されていくシーンというのが切なかった。
 日本人の多くが「世界最大で最強の戦艦」と信じた「大和」が、日本に勝利一つもたらすことなく海の底に沈んでいく姿は、日本が起こした戦争の結果を見ているようでした。




 個人的には、戦艦大和の援護戦闘機も付けることすらできな状況だったならば、無理に戦艦大和を沖縄に推進することはなかったんじゃないか!若い命を多く落とさずに済んだんじゃないか!と思ったのですが、長嶋一茂演じる臼淵大尉が、「日本は進化を間違えたのかもしれない。我々が敗れることで目覚めることがある。そして目覚めることで救われることがある」と言った台詞にハッとしました。日本が進んだ道が間違っていたけど、それを正す道は我々が敗れるしかない…と悟っていた姿は、本当にジーンときたし、自分は狂気満ちた環境の中であれだけ冷静に物事を語れるだろうか?とも思いました。


 戦後60年、「平和ぼけ」という言葉も出るほど日本は平和な国である方だけれど、私達がそういう生活を出来ているのは、こういう人たちの犠牲があってこそなんだと思いました。
 戦争を知らない世代…日本が敗戦国であることを知らない若者に、是非観て欲しい作品です。



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