KING KONG〜キング・コング

 『LotR』シリーズのピーター・ジャクソン監督が、「絶対にリメイクしたい作品!」と公言していた映画『キング・コング』。私はむか〜しのモノクロ作品をテレビでちょこっと観た程度で、「大きなゴリラがビルのテッペンに登って金髪美女を抱えて暴れている」という印象しかありませんでした。正直、好みのジャンルではなかったんですが、なんせ「神」と崇めたPJ監督の最新作だったので、「これは」観るしかないだろう!」と、意地で劇場に足を運びました。


 舞台は1930年代のNY。野心家だが落ちぶれの映画監督カール・デナムは、 史上最大の冒険映画を撮影するため、親友の脚本家ジャック・ドリスコルと売れない女優アン・ダロウを騙して海図にも載っていない伝説の島「スカルアイランド」を目指した。そして奇跡的にも島に漂着したものの、島の原住民達によってアンが攫われてしまう。島の神である「コング」の生贄になってしまったアンを救う為、ジャックやカール達は救出に向かうが、このスカルアイランドには原始の時代から生息する巨大生物や未知の生物が棲み、彼らを危機に陥れていくのだった。

 …という話で、「アドベンチャー・アクション」の要素が強いですが、キング・コングとアンが出会ってからは「美女と野獣」の要素も加わり、上映時間約180分という長さにも関わらず最後まで飽きることなく見入ってしまいました。

 正直言って、冒頭部分は登場人物たちの性格描写がメインなので淡々とした内容でちょいと中だるみぽい感じなんですが、スカル・アイランドに漂着してからは怒涛の展開!原住民の攻撃やら、恐竜の襲撃やら、キング・コングとの戦いや巨大な虫たちとの死闘などなど…これだけで一つの作品になるくらいの凄さでした。つーか、個人的には虫がダメなので辛いシーンが多かったわぁ。

 またアンとコングのやり取りがいいのだ。最初は恐怖の余り逃げることだけを考えているアンと、捕らえていることに執着するコング。しかし、アンが自分の言うことを聞かないと悟るなりコングはアンを放置。当然、アンは逃げるんだけど恐竜V-REXと対面して大ピンチ。彼女の悲鳴を聞きつけ颯爽と登場したコングは命懸けでアンを守り、少しだけお互いが解り合うことができるようになる。しかし、助けに来たジャックにアンを奪われたと思い込んだコングは2人を追跡し、「コングを生け捕りにして見世物に!」と考えていたカールの餌食になってしまい、NYに連れて来られてしまう。これでアンとコングは引き離されてしまうんだけど、NYで見世物となったコングは力付くで逃げ出し、街を暴走してアンとやっと再会。再び穏やかな一時をお互いが感じることができた…と思いきや、軍の攻撃によってコングは追い詰められてしまう。なんとかコングを守ろうとするアンに、どんなに攻撃を受けながらも最期までアンを守り見続けたコング…。これって、すっごい純愛映画だと思います。先にも書いたけど、まさに「美女と野獣」。
 初めてアンとコングが解り合えた時、島から見た夕陽の美しさにアンが「Beautiful」て言って胸を押さえて感動をコングに伝るシーンがあったんだけど、NYでコングがビルの屋上まで追い詰められた時、そこから見えた朝陽に対してポンポンと胸を叩いて、アンに「Beautiful」て気持ちを伝えるのだ。もうそのシーンにただ、ただ涙っすよ。本当がお互いに解り合えたのに、悲劇的なラストしか残されていないって観客は判りきっているからね。


 PJ監督は「ラスト9分間にリメイクをしたかった意味がある」と公言していたけど、本当にラスト9分間は涙、涙でした。NYに連れて来られてしまった時点でコングの運命は悲劇的な結末しか待っていなかったけど、なんとかその流れ阻止しようとするアンの姿が〜…。そして、そんなアンの姿に最期の「安らぎ」を感じてたコングの姿が〜…。
 コングを金儲けの為に勝手に島から連れ出した人間、コングを見て面白がる観客、コングの遺体を前に大喜び&大騒ぎする人間…コングが至って純粋だった分、人間達の言動はまさにエゴの塊のようにしか見えませんでした。コングの純粋な部分が強調されていただけに、人間の薄汚い部分が目立つ作品でもありました。だから、ラストは後味悪いっていうか切なかった。

 コングが力尽きて落下し、一人ビルの屋上に取り残されたアンは追って来たジャックと抱き合っていたけど、彼女がどれだけジャックから愛されたとしても、本当に心から癒されることはないんじゃないかって感じてしまいました。元々、アンとジャックの恋愛描写やアンとコングに比べて弱かったからね。アンは冒頭で、カールからスカウトされた時に、「私は愛なんて掴めない女なの」みたいなことを言っていたけど、本当にそういう女性になってしまったな。


 巨大生物がメインの特撮系てあまり好きではないんだけど(『ゴジラ』は別格)、PJ監督の情熱に圧倒されたような印象を受けました。
 上映時間は確かに長いと思ったけど、あのラスト9分間のコングの表情や行動に辿り着くまでの過程としては必要な時間だったと思います。それよりも、上映前に20分近くトレイラーを流すのは止めてくれ(笑)。ただでさえ上映時間が長い作品なんだからさぁ。観たい作品のトレイラーは観られなかったし、さっさと本編を見せて欲しかったぞ。




 …で、こっからミーハー語りというかキャラ語り。

 主役のキング・コングは『LotR』シリーズのゴラムに続き、アンディ・サーキスがモデルを務めたそうです。CGに取り込みやすい顔なのかな(笑)。でも、ホントにコングの表情はリアルだった。特に、アンと初めて島の夕陽を眺めた時に照れた表情とか、クロロホルムを嗅がされ意識朦朧となっていく中でアンを縋るように見つめる表情とかたまらなかった!
 NYのビルの上で美しい朝陽を見てアンと解り合えたコングは、全てを悟って攻撃してくる飛行機に立ち向かう姿は正に「王者」だったし、悲劇的な中でも唯一心を通わせた人間に看取られていった姿は、本人も納得した死だったのかもしれない。

 ヒロインのアンを演じたナオミ・ワッツは「金髪の美女」という言葉がピッタリの美しさでした。コングと出会ってからは悲鳴ばかり上げていましたが、本当に大変な目にばかり遭っていた。
 人間と一緒にいる時よりも、コングと一緒にいる時の方が綺麗に見えたのは気のせいだろうか?コングとは言葉ではなく心で分かち合っていたので、言葉が少ないながらも表情豊かで素敵でした。

 ヒーロー役ぽかったのは、脚本家のジャックを演じたエイドリアン・ブロディ。最初はカールに騙されて船に乗りこむハメになったし、アンとの初対面の印象がイマイチでしたが、少しずつ惹かれ合うようになって、アンが原住民に攫われて以降は一番勇敢に立ち向かって行きましたからね。パッと見は一番頼り無さそうに見えるんだけど(笑)。
 一番関心したのは、ボロ船の底で檻に入りながら脚本書いていたこと。あの揺れはハンパじゃないと思うんだけどなぁ。ゲテモノ料理にリバースしていたのに、意外に逞しかったです。

 悪役ぽかったのは野心家の映画監督カールを演じたジャック・ブラック。『スクール・オブ・ロック』の印象が強かったんですが、それを払拭させるくらいのエゴの強い人間を演じていました。たぶん、登場人物の中で一番浅ましい人間だったんじゃないかな。驚異的な映像撮影の為なら、火の中水の中って感じで、周囲の不安や恐怖を他所に撮影する根性は凄い。しかも、撮影フィルムがダメになってしまっても、コングを生け捕りにできれば金儲けが出来る!と考えられる計算高さはハンパじゃない。
 多くの人を不幸に巻き込みながらも、自分はちゃっかり生きているタイプでしたね。かなり憎々しい性格及び行動だったので、最後にはコングにやられないかなと思っていたんですが最後まで生き延びていました。しかも、コングの遺体を前に「野獣(コング)は飛行機に殺されたんじゃない。美女に殺されたんだ」って、更に嫌悪感を募らせる台詞を吐いてくれましたわ!最後の最後まで、ホントに憎たらしいキャラでした。

 あと、コングの顔モデルにもなったアンディ・サーキスは船のシェフのランビーという人間の役としても登場していました(笑)。船上ではゲテモノ料理を作るくらいでしたが、密かに「スカル・アイランド」の秘密を知っているぽかったし、島ではホラー映画並みに壮絶な死を遂げました。一番凄い死に方したんじゃないかな?これもPJ監督の愛情の表現?

 彼ら以外に印象に残ったのは、スカル・アイランドまで向かうベンチャー号の船長であるイングルホーン。トーマス・クレッチマンが演じていましたが、2度もカール達をピンチから救出したり、コング生け捕りに貢献したりと良いところ取りでした。しかも、NYでのコング見世物のシーンなどには登場しなかった為、エゴめいた部分が少なくてカッコいいキャラという印象が強く残りました。

 他にも、船員の中でも一番若いジミーくんとか、サバイバルのプロぽい黒人さんとか、魅力的なキャラクターも多かったです。そうそう。見栄張り俳優の逃げ足の速さ、危険察知度の鋭さにも感動しました(笑)。




 最初は「早くキング・コング出て来ないかな〜」て思ったんだけど、後半になるにつれ、「ああ、捕まるな!ビルに上るな!」て気分で観てしまっていました。判っているラストシーンを目の当たりにするのが辛かったなぁ。

 とにかく、劇場の大スクリーンで観られて良かった!と思える作品でした。冒頭部分をもう少しコンパクトにまとめてくれた方が良かった気がするけど、PJ監督の拘りが随所に観ることができたし、正にエンターテイメントの王道を行っています。何より、これだけ長い作品を飽きさせずに一気に観させる手腕には圧巻です。年明けの一番最初にこの作品が観られて良かったです♪



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