THE PHANTOM OF THE OPERA〜オペラ座の怪人

 アンドリュー・ロイド=ウェバーの有名過ぎるミュージカル『オペラ座の怪人』。物語をよく知らない人でも、白い仮面で顔を隠した怪しい男の姿や、「ジャ〜〜ン♪ジャ、ジャ、ジャ、ジャ〜ン♪」で始まるテーマソングは一度は聴いたことがあるはず(車のCMソングにもなっていたし)。私はミュージカル(舞台)では観たことはないんですが、むか〜しBSで『オペラ座の怪人』(昔の映画か海外TVドラマだったと思われる)を観たことがあったので、話の内容はそれとなく把握していました。最初はさほど映画の方には興味がなかったんだけど、主要キャスト3人の美声やファントム役のジェラルド・バトラーの前評判が素晴らしく良かったし、予告がとにかく美しかったから、「観てみよう!」と、2005年初の映画鑑賞となりました。

 話は「オペラ座」に棲む謎の人物「ファントム」と、彼を亡くなった父が送り届けてくれた「音楽の天使」と信じている歌姫クリスティーヌと、彼女の幼馴染で婚約者となる公爵でオペラ座のスポンサーであるラウルの三角関係が基盤となった愛憎劇です。舞台は19世紀のフランス、独特の絢爛豪華な世界が眩しくも美しい世界で、その映像美が余すと来なく表現されています。
 そしてなんと言ってもジェラルド・バトラー(ファントム)、エミー・ロッサム(クリスティーヌ)、パトリック・ウィルソン(ラウル)の歌声は素晴らしく、特にファントムとクリスティーヌが歌うテーマソング『オペラ座の怪人』の素晴らしさったらありませんっ!また、予告などもで使われていた名シーン「仮面舞踏会」のシーンの美しさと迫力に圧倒されました。それに所々を吹替えにしているとはいえ、カルロッタ役のミニー・ドライバーの存在感もさすがでした。

 まずOPからしてやられてしまいました。物語はモノクロで全てが過ぎ去った後の古びたオペラ座から始まります。そこで、かつてのオペラ座の栄華を支えた関連の品々がオークションにかけられています。その中でメイン商品として紹介されたのがシャンデリア。「あのオペラ座の怪人の事件の時に関わったとされるシャンデリアです。もちろん、修理をして当時と同じ美しさと輝きを再現できます!」と司会者は囃し立て、床に置かれていたシャンデリアが天井へと釣り上げられ灯が灯されます。と、同時に、あの『オペラ座の怪人』のテーマ『Overture』が流れ、画面がカラーになり魔法をかけられたように古びたオペラ座が当時の姿に戻っていき、「ファントム」が存在した時代の物語が一気に動き出していくのです!…もう、このOPのカッコ良さったらないですよ!画面がカラーになって音楽に合わせてにオペラ座が本来の美しさを取り戻していくシーンなんて鳥肌モンの感動でした。単純かもしれないけど、このOPシーンを見て「この映画作品OK!」て思ってしまったほど。
 物語の半分は劇中劇なだけに歌が溢れているのですが、どれも素晴らしいくいい!ただ、観ていて感じたのは「せっかくミュージカル(舞台)ではなく映画なんだから、会話のシーンは普通に喋っても良かったんじゃ?」ということ。物語の9割は歌って進行しています。普通に会話しているシーンですらミュージカル調。これはミュージカルが苦手な人には相当苦痛な演出だと思われますが(微妙に字幕が歌詞と合ってなくて変なところもあったし)、そこさえ乗り切ればもうパーフェクトと言っても良いんじゃないでしょうか。だって、キャストのあの素晴らしい歌声を聴いたら、ほとんどをミュージカル調にした演出も判らないでもないですもん。

 そして、何よりもファントム!ジェラルド・バトラーが演じたファントムは本当にカッコ良過ぎ。歪んだ顔の右半面を白い仮面で覆っているんですが、その姿だけでもカッコ良く見えてしまう渋さと魅力があります。あのテーマソングと共に彼が登場する度にワクワクしてしまうほど。だから、クリスティーヌに対してやっていることは今でいうストーカーと変わらず偏狂者なのですが、ファントムの生い立ちのエピソードもあったり演じるジェラルドの存在感や美声もあったりで、中途半端に感情移入してしまうのです。特に、生まれながらに歪んだ顔をしていた為に見世物小屋で人々の笑い者になっていた幼少時代(まるで『エレファントマン』のよう)、逃げ出したいが為に主人を殺めてしまい、偶然居合わせた少女(後のオペラ座の劇団女主人)に助けられオペラ座の地下道の洞窟で暮らすようになり、建築や舞台の才能に長け、オペラ座に素晴らしい脚本の数々を提供していくようになったという独特のエピソードが良かったです。物心を付いた頃からどれだけ自分の顔が醜いかを嫌なほど認識していることや、人生のほとんどをオペラ座の地下道の洞窟で過ごしているので、「オペラ座」で起きる世界が彼の全てになってしまったというのも、妙にファントムに感情移入してしまった要因かも。
 クリスティーヌとファントムの関係も、男と女というより父と娘のような感覚に近かかった。ファントムはクリスティーヌが全てだから女性として見ている部分もありましたが、クリスティーヌにとっては音楽の天使であり父代わりという感覚。だから、初めてファントムが目の前に現れて連れ去られても恐怖をほとんと感じていない。お互い想い合っているようで実は一方通行だったというのも悲恋だったのかもしれません。それに、クリスティーヌの恋人役のラウル(パトリック・ウィルソン)が嫌味なくらいカッコいい。お金持ちなだけの男ではなく、誠実で勇敢な青年でもある。外見も美しいし、ファントムとは正反対。だから、最後にファントムの狂気を目の当たりにしたクリスティーヌがラウルを助けファントムを置いて2人で去っていくシーンは、正当な判断なのだけれど(私がクリスティーヌでもそういう決断をしたが)何故か離れて行くファントムとクリスティーヌの姿が悲しく感じてしまうのです。決して嫌い合い憎しみ合っていた2人ではなく、ミュージカル(音楽)という世界では結ばれていた2人なだけに、もう二度とは会えない最期の別れのシーンが切なかったのかな〜。

 先にも書きましたけど、ファントムはストーカーです。クリスティーヌの部屋をマジックミラーにしていたり、彼女そっくりの花嫁人形を作っていたりしたのだから変態と言っても過言じゃないかもしれないけど、そこまで彼を追い詰めたのは彼の顔を嘲笑った人間達なだけに、彼らが自分を恐れる人間達に脅迫めいた態度を取るのも理解できてしまうし、むしろカッコいいと思えてしまうから不思議です。終盤でクリスティーヌに「歪んでいるのはあなたの顔ではなく心だとわかっていた」と言われたときのファントムの顔が切なかった。なにより、一人残された洞窟の中、「私の音楽を羽ばたかせられたのは君一人、君への愛はこの奏で続けた夜共に永遠だ!」と歌い叫びながら、自分の醜い顔を写した鏡を次々と割って行く姿に涙がボロボロと出てきてしまいました。あの鏡を割という行為は、クリスティーヌとの別れの決意だけではなく、「ファントム」として生き続けた自分との決別でもあるんですよね。なんか、ファントムとしてだけではなく、この男の人生は一体何だったのか?と思うと、切なくて悲しくて虚しくて…。あれだけの才能があるにも関わらず認められることもなく、最初で最後の恋も実らず…、自分の為に平気で人を殺すような男だけれど憎いともおぞましいとも思えず、何故か感情移入して泣けてしまった。

 ラストシーンは、猿のオルゴールを落札した老紳士…現在のラウルが、愛妻のクリスティーヌの墓にそのオルゴールを届けるというものでした。ファントムが大切にしていたオルゴールでもあるし、そのメロディをクリスティーヌが歌っていたというエピソードもあるだけに、このシーンだけでもラウルがクリスティーヌとファントムの愛をどこかで認めていたんだな…というのが知れてジーンときました。そして、なんと言っても、クリスティーヌの墓の横にファントムの赤いバラと誓いの指輪が置かれていたのにはラウルじゃないけどハッとしました。「ファントムはまだ生きていたのか?」、「ずっとクリスティーヌを見守り続けていたのか?」て、最後の最後でやられた〜!って感じでした。
 ファントムは失望して自殺してしまったんじゃ…と思っていたので、ファントムはまだ生き続けていて人知れずクリスティーヌを見守り続けていたというラストが意外でしたし、相変わらず狂気じみてはいるけど光りのあるラストというか明るい終わり方だったと感じました。私の知っていた『オペラ座の怪人』のラストはファントムがクリスティーヌに自分を銃で撃つようにしむける悲しいラストだったので、余計に意外に感じたし「光りのあるラスト」と感じたのかもしれません。むしろ、ファントムの存在を最期まで消さなかったラストが、監督のファントム=オペラ座の怪人に対する愛情を感じましたね。




 …で、こっからミーハー感想。

 何度も書いてますがファントムがカッコいい!『Sma-STAITION』の「月イチゴロー」で吾郎ちゃんが、「このファントムだったら攫われたい!」なんて問題発言していましたが、その言葉も理解できるくらい魅力的です。ハッキリ言って、仮面を外して醜い顔を曝け出しても、そんな目を背けるほど酷い顔には見えませんでした。変な言い方かもしれないけど、「もっと醜い顔でも良かったんじゃないか?」て思いましたね。寂しげが眼差しといい、セクシーで渋い美声といい、「魅惑の怪人」と呼びたいくらいです。演じたジェラルド・バトラーは『トゥルームレイダー2』でアンジェリー姉さんの尻に敷かれていた印象が強かったので(笑)、ジェラルド=ファントムて聞いた時は上手く結びつかなかったんですが、映画を見て「こ、こんなファントムにハマリ役の俳優さんだっただなんて!」とかなり衝撃を受けました。
 ファントムにはアントニオ・バンデラスやヴィゴ・モーテンセンなど美声の持ち主が候補に挙がっていたようですが、どことなくロックちっくな楽曲の『オペラ座の怪人』の雰囲気にはジェラルドが一番合っていたのかもしれないですね。『オペラ座の怪人』の曲自体、エレキギターやドラムが入っているのでロックぽくてカッコいいし、ジェラルドの歌い方はオペラ歌手寄りというより、情熱的なロック歌手寄りな声だと感じたのも、私が好きになった魅力の一つかも。オペラ歌手寄りだったらアントニオ・バンデラスの方だったかもしれませんね。

 また、撮影時は若干16歳だったヒロイン役のエミー・ロッサムは驚異的な美声と存在感です。何気にファントムに攫われた時に、チラリと見える太腿がなんてセクシーなんだと同性ながらに感じてしまいました。十代だから厭らしさは全然なくて、チャーミングに近いセクシーって感じて、無意識にファントムを誘惑…魅了しているようにも見えました。歌声は文句なしの美しさだし、十代ならではの若々しさや儚さも出ていて、ファントムを「音楽の天使」と信じて疑わない純粋なところも彼女の雰囲気にピッタリでした。「十代のマリア・カラスだ」と絶賛されているのも納得。さすが7歳の頃からオペラや舞台に立っていただけに、むしろ、あの歌声を聴いて「頼むから、吹替えだと言ってくれ」と驚異的に感じてしまうほどでしたね。あれだけの美人であれだけの演技力と美声…、天は二物以上与え過ぎですな。
 しかし、彼女は『デイ・アフター・トゥモロー』のヒロイン役で先に注目されていましたが、あの時の彼女は可愛いけどさほど魅力的には感じませんでした(元々、話自体が人間ドラマよりも自然現象の脅威をメインに描いた作品なのでしょうがないえすが…)。だから、この『オペラ座の怪人』では水を得た魚のように光り輝いていて、まるで別人のように見えましたね。歴史モノとか合いそうなので、何処かの国のお姫様の役とか見てみたいですね。それも、強気だと尚いい。

 そして、全編通してミュージカル調なところも、あそこまで極めていると逆に潔いです。全体が金銀財宝満載の絢爛豪華な世界で、シャンデリアやゴールドの像が建ち並ぶ劇場とかの雰囲気に、その音楽がマッチしているんですからね。しかも、ミュージカルならではの演出過多な部分も堪らない。ファントムの声に合わせて水面から炎のの灯ったキャンドルが浮き上がってくるだなんて、絶対に「ありえねーっ!」の世界なんですが、もの凄くその場の雰囲気に合っていて違和感がないから凄い。むしろ、そういう演出が出てくると嬉しくなっちゃうくらい、癖になる魅力があります。
 それに、『オペラ座の怪人』のシンボルの一つである総額1億5千万は下らないだろうと言われるスワロフスキー製の超豪華な煌びやかなシャンデリアに目を奪われましたね。ファントムがクリスティーヌを連れ去る時に観客をパニックさせる為にシャンデリアを舞台に落っことすシーンの迫力ったらなかったです。OPからして目を奪われてしまった代物ですから、あの巨大で豪華なシャンデリアが落っこちてしまうということだけでもかなりの衝撃を与えられてしまいました。ああいうセット一つにも決して妥協していないところも、この作品の魅力の一つです。ま、私なんて「あんな高価なシャンデリアを落とすか…」と下世話な方にいっちゃいますが(笑)。




 自分が現実には体験できない、当時の絢爛豪華な世界を音楽と映像美で体現できた…という作品でした。もう、この作品は最高のサウンドを誇る場所で見るに限りますよ!音楽にもすっかりハマッてしまって、サントラ盤を購入してしまったくらいですからね。ちゃんと主演の3人が吹替えなしで歌っているのが嬉しいし、CDを聴くだけで映画で見た印象深いシーンが蘇ります。もうラストのファントムが「私の愛は夜の音楽と共に永遠だ!」と歌っているところは、CDで聴いていても鏡を割るファントムの姿が浮かんできてジーンときてしまいます。このサントラ盤がサントラCDとしては異例の売上を記録しているのも納得さぁ!しかし、通常盤を買った後に2枚組の豪華盤の発売情報を知ったのはちょいとショックだったわ(苦笑)。

 もちろん音楽面だけではなく作品自体、もう一度映画館で観てもいいな!て思ったくらい気に入っているし、「ミュージカルを観てみたいな」って映画を観終わった後に思いました。さすがアンドリュー・ロイド=ウェバーの脚本・製作だけあって、『オペラ座の怪人』の魅力を最大限に伝えてくれたし、「もっと『オペラ座の怪人』の世界を観て見たい!」て気持ちにさせられちゃいましたね。彼のこの作品に懸ける情熱に胸を打たれちゃった感じです。


 


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