La Marche De L'empereur 〜皇帝ペンギン

 南極に住む皇帝ペンギンの生き様を2000時間をも密着し撮影したドキュメンタリー作品。しかし、ドキュメンタリーでありながらも、ペンギンに台詞を付けたりしていて非常にユニークな形をとっている。しかし、変に擬人化することなく、淡々と皇帝ペンギンの生態を撮影している為、彼らの過酷な生活ぶりがよりリアルに伝わってくる作品でもあった。


  皇帝ペンギンはある時期になると、別々の場所から一つの場所を集まってくる。それは本能的なもので、次々と皇帝ペンギンが海から上がってくると、一斉に列をなして無限に続くと思われるような氷の道のりを延々と行進して行くのだ。そして、ある場所で他の集団と合流し、ある者は再会を喜び、ある者は新しい恋を求め、様々な出会いをする。そして、一つの新しい生命を宿し、オスとメスが交代しながら極寒の中、その生命を守る。その中で、ある者は道に迷い仲間からはぐれ、ある者は極寒の寒さに負け、ある者は飢えに負け、ある者は天敵の餌食になり…そういう過酷な試練を生き延びた者だけが、新しい季節を迎えることができ、再び集団からバラバラになっていき、1年後にまたこの場所に集う。それが、極寒の地に生まれ育つ皇帝ペンギンの宿命。

 …という、正にドキュメンタリー作品。1組のカップルに焦点を当て、台詞をのせて進行させていく展開は、昔放送されていた動物番組『わくわく動物ランド』を彷彿させるが、本当に淡々と撮影している映像をそのまま見せているので、皇帝ペンギンの置かれた運命は過酷だが、非常に「静か」な作品でした。妙にドラマチックに演出しようとはしていないし、環境問題などを押し売りなどもなく、飽くまで皇帝ペンギンの生態をそのまま伝えている。
 まぁ、フランス映画なだけに、ペンギン同士の求愛ダンスのシーンは、とても美しく濃厚に撮影してはいたけど、実際ほんとうに美しいダンスの姿なんだろうなぁと思わせた。

 南極で暮らすというのは生易しいもんじゃないと想像はついていたけど、皇帝ペンギンがこんなにも過酷な生き方をしているのか…!と驚きの連続だった。極寒の寒さで卵を産むということは、絶対に外へ卵を出してはいけないということで、メスがオスに卵を預ける時もスピードが勝負になるとか、片方が遠く離れた餌のある場所まで行っている間、もう片方は寒さと飢えに耐えながら卵を守っていなくちゃいけないというのも過酷だ。しかも、片方が帰って来たら、飢えた状態で餌のある場所まで行かなくちゃいけない…。人間だったら、絶対に生き残れないような過酷さである。

 そんな様々な試練を乗り越え、極寒の地で生き抜いていくペンギン達の姿は、まさに「皇帝」と呼ぶにふさわしい立派な生き様でした。とても静かな作品だけど、そこから受ける衝撃や感動はかなり多いです。まさか、ペンギンから人生を学ぶことになろうとは…思ってもみなかった。

 とにかく皇帝ペンギンは大変だよ。特にオスが大変かも。メスから取り合いにされるわ、メスが孵した卵を責任持って温め(その間にメスは餌を食べに行く旅に出る)、メスが帰って来るまで直立不動で卵(及び雛)を守り続けなければならない。例え、飢えがきても守らなくちゃいけない。そして、やっとメスが戻って来たら、今度は自分が飢えた状態で餌を求める旅に出なくちゃいけない。子孫を残すためとはいえ、過酷な運命だよなぁ。



 …で、こっから印象に残ったシーンの羅列。

 仲間の行進の列からはぐれてしまった1頭のペンギンが、悲しい泣き声を響かせながら雪原に取り残されていた後姿。そこまでしか映していなかったけど、このペンギンがこの後どんな運命を辿るのが想像できるだけに、とても辛いシーンだった。

 他の集団を合流したペンギン達が繁殖の為にパートナーを探すシーン。すぐに2頭の世界を作り出す熟練カップルもいれば、オスの数の方が少ないだけにメス同士で激しい取り合いのバトルをしているグループもあり、残されたオスがただオロオロしていた姿は、人間社会と被ってしまった。

 やっとの思いで孵した雛が寒さによって死んでしまったのを目の当たりにして、発狂した母親ペンギンが他のペンギンから雛を奪おうとしたシーン。

 強烈なブリザードが吹き荒れる中、押し競饅頭のように互いの身を寄せ合う姿。一番外側にいたペンギンは、優先的に中に入るようにしたり、ペンギン同士でちゃんと暗黙のルールができている。

 水族館では人気者のアザラシは皇帝ペンギンにとっては天敵で、まさにジョーズのような存在。やっとの思いで餌のある海辺に辿り着いても、アザラシが待ち構えて犠牲になってしまうペンギンもいるのだ。ペンギンの視点から見たアザラシの存在が非常に恐ろしかった。




 先にも書いたけど、とても静かな作品で終わり方も淡々としている。だけど、あとからジワジワと感動というか衝撃が込み上げてくる作品でもあります。やはり「現実」を、なんの小細工なく「真正面」から撮っていたからなんでしょうね。

 すごい弱っちぃ感想かもしれないけど、人間に生まれてきて幸せだな〜と見終わった後に感じました。もし、自分が皇帝ペンギンとして南極に生まれていたら、卵から孵ることができたかどうかも怪しい。



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