Arsene Lupin 〜ルパン

 モーリス=ルブラン原作の『アルセーヌ=ルパン』を映画化したこの作品。「怪盗紳士ルパン」はあまりにも有名ですが、特に日本では「ルパン3世」の方が有名だったりするので、「ルパン」と聞いて「フ○子ちゃ〜ん♪」と言うアニメの「ルパン」を連想した人も多いかもしれない。私も、『アルセーヌ=ルパン』シリーズは読んだことがほとんどないので、どちらかというとアニメの印象が強いです。だから、最初はこの映画作品の存在を知った時にピンとこなったんですが、「バカだなぁ、あの『ルパン3世』のおじいちゃんになるんだよ。こっちが原作なんだからっ!」と教えてもらい、「ほほう、じゃ、『金○一少年の事件簿』みたいなもんだったのかぁ!」と納得(笑)。
 …なんか、論点がズレまくりましたが、私の『ルパン』の知識というのはその程度でした。それでも、スタイリッシュな予告編を観たりして、「かなり観てみたいかも!」と思うようになり、劇場に足を運んだしだいです。


 モーリス=ルブランの原作なだけにフランス作品なのですが、フランス作品でこういう娯楽大作を観るのは初めてだったので、どんな感じになっているのが全く想像ができませんでしたが、「娯楽大作」てある意味万国共通かも…と観終わった後に感じました。あのハラハラ・ドキドキ感の表現方法は、フランス作品でも面白さは同じっ!

 話はアルセーヌ=ルパンの半生を大胆に描いています。幼少のルパンは公爵夫人の妹である母と泥棒を稼業にしている父親に育てられ幸せに暮らしていたが、泥棒として面が割れた父親はお尋ね者となり逃走。しかし、その直後にアルセーヌに公爵夫人の首飾り(マリー・アントワネットの首飾り)を盗ませ、それを持ってアルセーヌの前からも姿を消してしまう。だが翌朝、顔の判別も付かないほど痛めつけられた亡骸として発見され、アルセーヌはショックから母親の前から姿を消してしまう。そして十数年後、異名を使って生活し続けたアルセーヌは父親譲りの金持ち貴族から宝石を奪うスマートな怪盗になっていた。しかし、病に臥していた母親は死んでしまい、アルセーヌは本当に孤独になってしまう。そこへお互い想いを寄せていた従妹のクラリスが力を貸してくれ、彼女のお陰で公爵に武術を教える職を得るが、ある夜、ふとしたことから公爵が他の名士たちと謎の会合をしているところに遭遇し、彼らが隠されたフランス王家の財宝を狙っていることを知ってしまう。そして、そこで出会った謎の美女カリオストロ公爵夫人を助け、彼女と共謀してフランス王家の財宝を得ようとするが、彼女が自分を利用しているだけでなく、父の死の謎にも関与していると気付き、彼女から離れ一人で財宝の隠し場所を探し当てる為に大胆な賭けに出た。

 …という感じで、非常に簡潔に説明するのが難しいです。全部書いちゃうとつまらないからね。要は「父の死(父を殺した犯人は誰?)」と、「王家の財宝の隠し場所」の謎が同時進行していて、なかなか内容についていくのが大変です。次々と怪しい人物が登場するので、その度に「こいつが父を殺したのでは?」という悪夢にうなされたりします。また、恋愛も重要な部分を占めていて、ルパンは従妹のクラリスと相思相愛の仲になるものの、魅惑的な美貌を誇るカリオストロ公爵夫人の誘惑を抗うことができず、クラリスの元を去って彼女と共に共謀していくのですが、カリオストロ公爵夫人の「真の姿」を知ったルパンは彼女から離れ、クラリスと共に生きることを選ぶのですが、ルパンそのものを愛してしまっていたカリオストロ公爵夫人は執拗なまでにルパンを追い求め恐ろしい行動に出たりして、ドロドロとまではいきませんが三角関係の独特の愛憎劇も見応えがありました。

 もうね、カリオストロ公爵夫人の本当に狙いというか姿が怖かったし(見事なストーカーぶり)、殺されたと思った父親は生きていて、自分の過去を消し去る為に息子であるアルセーヌ=ルパンまでも殺そうとするし、良い家庭を築き始めたクラリスは嫉妬によって殺されてしまうし、かなり人間不信になりそうな展開でした(苦笑)。
 でも、ラストのクラリスを失い、我が子を奪われたルパンが、過去の自分を捨てて「怪盗紳士」として生き抜いていく道を選んだ姿はなんか切なかったわ。しかも、旅の先でカリオストロ公爵夫人と彼女に育てられた我が子との偶然の再会した時の緊張感はたまらなかったわ。カリオストロ公爵夫人の命によって爆破テロを起こそうとした我が子を阻止したルパンが、無言で我が子と視線を交わすシーンは悲しかったなぁ。「俺の息子だ」て言えないんだよね。しかも、ルパンの存在に気付いたカリオストロ公爵夫人は驚きながらもどこかに「彼が生きていた」という喜びが垣間見られて、彼女なりに本当にルパンを愛しているだと判って怖いような悲しいような気分になりました。このシーン、一切台詞がないけど、「目は口ほどにモノを言う」を体現していました。


 かなり話がややこしいというか、原作を読んでいない観客には微妙に置いていかれてしまう部分があったり強引に展開する部分もあったんですが、ルパンが宝石で着飾った夫人から巧みな話術と動作でアッサリと宝石を奪ってしまう姿はお見事っ。またカリオストロ公爵と共謀して盗みを働く姿もスタイリッシュでカッコよかったなぁ。しかも、「怪盗紳士」なだけによく警察から追っかけられていて、逃走するシーンが多いんですが、その逃走する姿が『ルパン3世』にも被るのでニンマリしてしまいました。
 また、父親から「相手を欺き通せ。そうすれば決して捕まることはない」という怪盗の教えを受けていたので、ルパンは相手を欺くのが上手いし、他に登場してくる怪盗とおぼしき人物達も相手を欺くのが上手い。つまり誰もが相手を欺いたりしているので、「コイツはホントにルパンの仲間なのか?裏切るのか?」と疑いを持って観ることになるので、ハラハラ感は常に持続していました。

 思っていたよりも長く感じた作品だったけど、とにかく色んな要素が詰め込まれている作品だったので、非常に濃厚な内容でした。登場人物も話も「濃い」です、ホント!大胆な展開、豪華な演出、正に映画らしい映画だと思いました。




 …で、こっからミーハー語りというかキャラ語り。

 主役のアルセーヌ・ルパンを演じたロマン・デュリスはさすがフランスの役者さんだけあって濃かった〜っ。正統派美形ではないけど、フェロモン出しまくり〜。眼はもちろん、眉や髭からもフェロモンが出てそうな感じだった。貴婦人がルパンの話術に引っ掛かってしまうのも納得の佇まいでございました。あと、さすがフランス映画と思ったのは、ルパンがベットから起き上がったシーンがフルヌードだったところ。ハリッド作品だとギリギリのアングルでカットするけど、バックショットとはいえ全部見せてましたよ、思っていたよりも長く(笑)。
 あと、彼が老紳士に変装した姿で『レモニー・スケットの世にも不幸せな物語』に出演したジム・キャリーの姿とちと被りました(笑)。しかし、「誰にも俺だと判らないようにしてくれ」と仲間に頼んで変装してたけど、思いっきりルパンだって判ったんですが…(笑)。

 カリオストロ伯爵夫人を演じたクリスティーン・スコット・トーマスは、本当に魔女的な妖しさと美しさを体現していました。とにかく怖かった…。最初はルパンを利用しているだけなんだろうなぁ…って思ってたんだけど、本当に惚れていたとわ。ルパンが自分の元から逃げた後のストーカーぶりが恐ろしかったわ。しかし、扇子を口元に持って笑顔を隠す姿は色っぽかったですな〜。

 クラリスを演じたエヴァ・グリーンは『キングダム・オブ・ヘヴン』に続き気の強い女性の役でしたが、カリオストロ公爵夫人が怖過ぎたので、気が強いというより健気な女性に見えました。しかも幸薄いよ〜っ(泣)。でも、舞踏会でルパン扮する老紳士を踊っていた姿は美しかった〜。あのカルティエの豪華な首飾りをして宝石に負けないって凄いよね。

 カリオストロ公爵夫人に続いて謎多き人物ポーマニャンを演じたパスカル・グレゴリーは、途中までジョン・マルコビッチに見えていました。しかし、この人がルパンの敵なのか味方なのか、ただ利用しているだけなのか…一番判り難かった。しかも、実は父親だったおいうオチは後半部分で読めたんですが、その発言すらアルセーヌ=ルパンを欺くための嘘なんじゃないかって、最後の最後まで疑っちゃってましたよ。あと、やたら死にかけ状態から復活するので、最後のアルセーヌとの対決でも後でまたどっから出て来るんじゃないか?とすら思ってしまった。


 本当に一癖も二癖もある人達ばかりが登場したなぁ。話も入り組んでいたし、個性的な人達ばかりだし、「濃い」よなぁって思ってしまうんだろうね。




 鑑賞後、「原作のシリーズを読んでいればもっと楽しめたんだろうな」と思いました。私は事前にネタバレしないというか予告編程度のネタバレしか知りたくない派なので、読んだことがある原作の映画化作品ならともかく、原作がある映画作品でまだ読んだことがない場合は映画を観るまでは読まないようにしています。自分で原作のイメージを固めちゃって無意識に比べちゃったり、変に先が読めちゃったりするのが嫌なんでね。でも、今回はシリーズものをかなり大胆にミックスしていたようなので、「読んでおけばよかったなぁ」てプチ後悔。映画観た後に「これの原作を読んでみよう」て思うこはよくあるけど、後悔するのは珍しいかな。

 とにかく、見応えのある作品でした!そういえば、告知ポスターのイメージと作品の内容は随分と違っていたなぁ。



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