THE ISLAND〜アイランド

 試写会で観て来ました。苦手なマイケル・ベイ監督作品でしたが、「クローン」を扱ったテーマと、主演陣(ユアン・マクレガー、スカーレット・ヨハンソン、ショーン・ビーン)が好みだったので、かな期待していたサマー・ムービーでした。


 話は、大気汚染により地球上の生命はほぼ絶滅した世界の中、大気汚染から人命を守り清潔に保たれた都市空間が存在し、そこには奇跡的に汚染世界から救出された人々が徹底した管理のもと平穏に暮らしていた。規則正しい単調な生活の中で彼らの唯一の楽しみは、一日一回開催される「アイランド」行きへの抽選会だった。地球上にたった一つだけ残されているという緑豊かな楽園の島「アイランド」に誰もが行きたいと願い、抽選で自分が選ばれる時を心待ちにしていた。
 この都市空間に来て3年になるリンカーンもアイランドに行けることを望んではいたが、いつも海に溺れるという同じ悪夢を見て日々悩むようになっていた。しかし、そんなリンカーンには密かに気になる女性ジョーダンの存在があり救われていた。しかし、排気口の中から迷い込んだ「既に死滅しているはずの虫」を見つけてしまったリンカーンは、都市空間の存在や自分自身の存在に疑問を持つようになり、密かに管理されたエリアを抜け出して都市空間の裏側を探索してみると、既に「アイランド」行きに旅立って行った仲間が臓器移植や代理出産の為に殺されている姿だった。そして、リンカーンは自分は「元の人間」の以来によって「創られた」クローンであると知り、「アイランド」行きは「自分の死」だと確信し、既に「アイランド」行きが決まっていたジョーダンと共に都市空間を抜け出し、自分達の生きる道を探しに旅立つが、商品(クローン)の脱走を知った都市空間管理者のメリック博士は、特殊部隊に所属した経歴を持つ凄腕のローレントにクローンの追跡と回収を依頼するのだった。

 …という話で、お金持ちの人間が将来の為に自分のクローンを作っておいて、万が一の時はそのクローンで臓器移植なりをするという、未来的に絶対にないとは言い切れない内容なだけに見応えがありましたが、もの凄くスリリングに展開していった割には、ラストだけ予定調和的で(さすがマイケル・ベイ/笑)ちょっと物足りないというか納得いかない印象を受けてしまいました。

 この話の面白いところは、クローンを依頼した人間は、自分のクローンは「植物人間状態」でいると思い込んでいること。会社側もそう説明している。しかし実際は、実験の結果「植物人間状態」だと臓器の具合が良くないことが判り、依頼者を含む一般の人々や政府には隠して「普通の人間どおりの生活」をさせているところ。当然、人間らしい感情も持っているし、社会生活にも適用している。ただ、あくまでの「依頼者のコピー」であることは変わりなく、教育も15歳程度までしかせず、面倒だからと性教育は一切していない。見た目は大人でも、中身は何も知らない15歳の子供のままなのである。そんなクローンが自分の本当の存在を知り、都市空間を抜け出し、普通に存在する現代社会の中に飛び込み、「自分はクローンだけど一人の人間として生きている」ことを、自分のクローンを依頼した本人の元へ行き助けを求めるのだ。しかし、元の人間は「クローンは植物人間状態になっている」と説明されているので、目の前に現れた自分のクローンの姿に混乱するのだ。
 もし、ある日突然、自分の目の前に自分のクローンが現れ「助けて欲しい」と訴えてきたらどうするか?自分は自分の将来の為に大金を払ってクローンを作ったというのに…。第一、世界に自分は2人以上存在しても意味がない。

 しかし、人間のリンカーンはクローンのリンカーンに嵌められて射殺されちゃうし、人間のジョーダンはクローンのジョーダンが脱走しちゃったから移植手術が間に合わず幼い子供を残して死んでしまうし、自分のエゴの為にクローンを作った人間て結局は助からないよ…て戒めだったのかしら。
 それに、赤ちゃんを出産したクローンが赤ちゃんを抱かせてもらえないまま殺され、その赤ちゃんは依頼した人間のもとへ届けられ、満面の笑みで喜ぶ人間の姿がちょっと怖いような切ないような感じになってしまった。2人が脱走後、残されたクローンにも「与えていない知識や感情」が出始めていることに気付き、「欠陥商品」としてリコール(廃棄処分)しようとする展開なんて残酷だもんなぁ。「人間は自分が生きるために何でもする奴だ」て台詞が何度か出てくるけど、純粋なクローンの姿を通して人間の醜い部分というかエゴを見せ付けられた感じだった。

 前半のリンカーンが自分がクローンであることを知るまでの展開はスリリングで非常に見応えがあり、脱走して追跡隊に追われる身となった後半はアクションの連続でとにかくド派手に展開していく。特に後半のアクションは、さすがマイケル・ベイだけあって、「どうして、あんな目に遭って助かっているんだろう?」という超ご都合主義が貫き通らせているが、主演がユアン・マクレガーとスカーレット・ヨハンソンなだけに、そういうご都合主義アクションをしている姿が新鮮に見えてしまうから不思議。これはキャストの勝利かも。あと、この二人はアクション大作に出ていない為、「中身は15歳の子供」という無垢な雰囲気がよく出ていて、クローンとしての説得力があった。

 しかし、しかし、問題はラストだ。リンカーンは追跡者をまんまと騙し、本物の人間をクローンと思い込ませて射殺させ、自分は人間(依頼者)として再び都市空間に出向き、ジョーダンと協力してそこを破壊して他のクローン仲間を救出しようとするのだが、なんとか都市空間を破壊してクローンの仲間をみな「本当の世界」へ脱出させることに成功できたのだが、物語はここで終わってしまうのだ。リンカーンとジョーダンは、船で本当の「アイランド」を目指す旅に出るが、他のクローン達は一体どうなるというのだろう?彼らは自分達がクローンであることを理解していないし、脱出をして色んな経験を積んだリンカーンとジョーダンと違い「外見は大人で中身は15歳程度」のままなのだ。現実世界でちゃんと生きていけるのか?こうなったことは本当に彼らにとって幸せだったのか?ちょっと納得ができなかった。中盤までが細かい展開だっただけに、最後の最後でやけに大雑把な展開になったという印象。ちょっと勿体無ようにも感じた。
 「殺される命を救われた」という点は幸いだと思うけど、「それで、この後彼らはどうするの?」て思ってしまう。もちろん、「物語はここで終わりなんだから、ハッピーエンドと捉えてその先は考えるような作品ではない」と言ってしまえばそれまでだが、私は鑑賞後に何か考えさせれられたり余韻が残るような作品が好きなので、観終わった瞬間「…納得がいかないかも」と思ってしまった。まぁ、マイケル・ベイ作品だし、リンカーンとジョーダンがクローンの「アダムとイヴ」になるんだよ、と思えばいいかな?

 とても面白い話だっただけに残念。やはり、マイケル・ベイ作品は自分に合わないらしい。でも、彼の作品の中では一番好きかも。少なくとも、お金を払って観てもいいかな…と思えるレベルでした。



 …で、こっからミーハー語り。

 主役のリンカーン演じたユアン・マクレガーは、「悩める青年」を見事に好演していました。しかも、本物の人間も登場するので一人二役。誠実で純粋なクローンのリンカーンに比べて、人間のリンカーンはかなり横柄で計算高い奴でした。まぁ、そういう人間だからこそ、自分のクローンを作っておこうって思ったんだろうけどね。ユアンの演技が2倍楽しめたな。しかし、この人間のジョーダン、バイク好き(正確には乗り物好き)だったり酒好きだったり、ちょっと昔のユアン・マクレガーをモデルにしていないか?(笑)

 アクション作品というか娯楽大作に出演したのは初めてなんじゃないか?というスカーレット・ヨハンソンは実年齢よりもずっと大人ぽく魅力的な女性を好演していました。ピッタリとした服装が多かったから、スタイルの良さが際立ってましたわ。あと、スカーレットて実際に「カルバン・クライン」のモデルも務めているけど、映画でも本物のジョーダンが「カルバン・クライン」のモデルという設定も面白かった。

 悪役を演じたショーン・ビーンは、ちょっとインテリ入った嫌味で紳士な博士を好演していました。最後のユアンとの対決はアクション娯楽大作の王道であまり新鮮味がありませんでしたが、クールにクローン達を支配している姿は存在感ありました。ラストで「俺が創ったんだから、壊すのも俺の自由だ」って台詞は怖かったな。人間と同じ感情を持ったクローンを、最後の最後まで「商品」として見ていなかった冷酷さが出ていました。

 スティーブ・ブシェミはクローンのリンカーンにまで脅されて情けない役でしたが、リンカーン達にとっては一番良い人間だったと思う。「人間は生きるために何でもする。人間を信じるな」て教えてくれたのは、スティーブ演じる研究員のマッコートだったからね。しかも、彼らを逃す為に殺されてしまうし。ううっ。仕事をサボったリンカーンの話相手になってあげていたり、クローンが実際に生産される場面を見るのを嫌がったり、脱走した2人に判りやすく現実を説明してあげたり、都市空間で働きながらも一番人間らしい人間だったと思う。

 そして、意外にカッコよかったのが追跡隊のリーダーを演じたジャイモン・フンスー。彼は『グラディエイター』でも印象深い役どころだったけど、今回もラストいいとこ取りでしたよ。最初は依頼されたから、執拗に2人のことを追跡して回収不可能な状態になったら処分する(殺す)のも厭わない人だったんだけど、クローンのジョーダンの人間味のある仕草や、メリック博士の本性を知ってラストはクローン側に寝返ってくれるだなんてさぁ!カッコ良すぎるじゃないかっ!



 何度も書くけどキャラクターは魅力的でしたよ。でもね、でもね。やっぱマイケル・ベイ作品なの(笑)。綿密なストーリーの中にも、超大雑把で強引な展開があり(ダンプカーに衝突された車の中にいて、すぐ逃げられるくらいに無事ていうのも凄いし、高層ビルにある看板と一緒に落ちても無事だったり、他にも色々…)、車が爆発したり派手なアクションは欠かさないし、マイケル・ベイ・ワールド全開でした。

 まぁ、扱っているテーマは重いんだけど、適度にハラハラドキドキできてお気楽に観られる感じがあるっていう意味では、娯楽大作の王道を行っています。『アルマゲドン』や『パールハーバー』ほど爆走はしていない分、見応えはあると思いますけど、個人的には今一歩でした。惜しい。



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