やがて炎は静かになった。
ゆっくりと、そのヴェールを開き、闇を消し去って、捜し求めるものの姿を映し出す。
「イーリス…」
現れたイーリスは動かない。瞳を堅く閉じて。
あの化け物の姿はない。
「間に合った…のか…?」
私は彼をだき上げた。けれど、息があるのかすらも分からない。
『大丈夫…間に合ったの』
少女の声は、ミゾティ。いや、その声は…母の、愛に満ちている。
そして彼女がイーリスに触れて…彼が、瞳を開く。
『この眠り姫はちょっとお疲れ。王子様のキスじゃ、足りないの』
そう言って笑う顔は…とても、優しい。
「レオ…ニス…?」
ようやくのことで、イーリスが私を認める。返事の代わりに、私は彼に唇を重ねた。
「な…ぜ…?」
それが何に対する問なのか、私は知らない。けれど、それの答えを、私は知っている。
「彼女が、助けてくれたんです。…本物の、泣き女(バンシー)が」
「本物…?」
私の示した彼女を見て、イーリスが呟く。
「けれど…彼女は泣いていない…」
そう…彼女はもう、泣いていない。慈愛に満ちた笑顔には、涙のかけらどころかその後すらも見当たらない。
「もう、泣く必要はないんです。取り付いていたものを消してしまったから」
イーリスがこの言葉を理解するのを待って、私は続けた。
「あれは、心の闇に潜む魔物。
貴方を取り殺そうとしていた。遠い昔の恨みのために、貴方の家を滅ぼそうと。
あなたの家を守りたくて、あなたを守れないことが悔しくて、彼女は泣いていたんです。
だから、もう…泣かない。バンシーはいなくなったんです」
そこまで話して…ようやく、イーリスは微笑んだ。
「私の…勘違いだったんですね…。すみませんでした……」
『いいの。ずっと、守れなかったから。
あの人を守れなかったから、ずっと守ろうとしてたのに。
もう、いいの。
今、あなたが守れたから』
晴れ晴れとした笑顔でそう言って、ミゾティは立ち上がる。
『わたし、あの人のところへ行くの。だから』
少女の体が消える…光の粒子になって。
そして辺りを光が満たし、彼女の声だけが響き渡る。
『だから、あなたたちも…元の世界へいきなさい。本当のあなたたちの世界へ』
戻れとは言わない。
新しい未来に向かうための旅立ちだから。