機械鳥喜び勇んで飛び回り 主の思惑水泡に帰す


 わわわ〜!?
 な、なんですか〜!?
 と、鳥?
 いえ、でも今のは機械に見えましたが…あ、分かりましたよ〜犯人が〜。
 マルセル、後ろです〜っ
 捕まりましたね〜
 駄目ですよゼフェル、盗み聞きなんて〜。


 チッ
 見つかっちまったぜ。
 ぞろぞろいやがるから新作メカチュピで脅かしてやろーと思ったのによ。
 あ?
 ち、違うぞ、操縦方法を間違えただけだぜ。
 おっ、うまそ〜じゃん、一つ貰うぜ。
 全然甘くねぇんだな、うん、これくらいなら旨いぜ。
 何だよ、俺も話すのかよ。
 ここまでクラヴィスのことで来たんなら、他の奴のことなんてしゃべれねーじゃねーか。ったく、ないわけじゃねーけどよー。
 でもよー、あれもかなり前の話だぜ?
 んーっと、三年くらい前かな。
 あ、まだ聖地にいたころの話だぜ。
 あのころ、俺、下界に入り浸りでさ。
 ま、大体行き先は決まってたんだけどな。あ、オリヴィエに見つかって一緒に帰って来たこともあるぜ。
 けどあんときは驚いたぜ、まさか下界にいるなんて思わなかったからな。
 
 チッ…ドジったな。
 ちょいと遊び過ぎたみたいだ。
 気がついたら人気のない裏通りで、しかも何人か、回りを囲んでやがる。別に博打とかやってたわけじゃないけどよ、領地だとか何とか、うるせー奴らでよ。
 そんなに強そうな奴らじゃないってのはわかるけど、さすがに五人いや、もっといるか。この人数相手にする気には、なれねーよな。
 とは言ってもなぁ…下手に走って、逃げ切れるとも思えねーし、聖地へはかなりあるし……。
 今日は早めに帰るつもりだったがまずいな。
 このままじゃ広場に出ちまうことに、やっと気づいた。
 広場に出ちまえば、こいつらも遠巻きなんて悠長にやってるわけがない。
 やりあえねえこともないが、怪我せずにはすまねーよな……。
 あー、そーいや、明日ルヴァに呼び出されてんだよなぁ…怪我はやっぱまずいよなー。
 どーっすっかなー。
 俺は何げなくウエストバッグに手を伸ばした。
 結構いろんなもんが入れてあるんだが…今役に立ちそーな物ってーと……。
 お、発煙筒じゃん。お、発光筒もある。
 よしよし、光でめくらましかけて、煙の中で逃げ切ってやっか。  
 ン、爆竹もあるな…ライターもまだ十分なはずだし。
 あれ、でもとりあえず、バッグん中にはないからポケットか?
 手を突っ込めば、どんぴしゃり、でライターもうまく出てきた。
 これなら問題なさそうじゃん。
 まぁ、人数次第だけどよ。
 ああ、広場に出ちまった。
 けどまだ奴らとは少し遠いな。
 もう少しひきつけてからじゃねーとやばい。
 タイミング勝負だ…うまく粘れよ
 俺は息を整えて、チャンスを待った。
 少しずつ、奴らが俺を囲みはじめる。
 まだ、早い…まだ。
「情けない奴らだな」
 不意に、聞き覚えのある声がした。
 いや、それが振り向いた先にいた、広場の記念樹の側にいた人影の声で、とんでもなく背が高くて、真っ黒な長髪が地面にすれすれになってることから、それが誰かはすぐにわかった。
 わかったけど!
 おい!
「子供一人に数人がかりか。物陰にも、まだ何人かいるようだな」
 ちょっとまてよ、おい、何だよその格好は。革ジャンにジーンズだぁ?
 ……けっこう似合うじゃねーか。
 トレーナー…じゃさすがに似合わねーな。あ、でもこれでベースなんか持たせたら結構はまる…じゃなくて!
「あんたが出て来てどーするってんだよ!」
 聖地で暴れてるところなんて、見たことも聞いたこともねぇあ、そーいや、聞いたことはあったな。
「お前一人で相手出来る人数でもないだろう」
 軽く言い切って、一瞬のうちに俺と背中合わせになる。
 げ、こいつ、け、喧嘩慣れしてやがる。
 左で防御整えて、右は攻撃出来る状態、完璧な姿勢だぜ?
「どうする?」
「どうするって…」
 やばいな、人数がふえてやがる。
 いくら喧嘩慣れしてるかは知らないが、やっぱ二人じゃ無理だ。
「跳べるか?」
 そう、聞いてみる。せめて、人の頭を飛び越せるぐらいの力があれば、とっととトンズラできる。
「すぐそこの屋根くらいなら、わけはない」
 俺とたいしてかわらねーよ、その跳躍力。
 ま、ちょうどいい。
「くるぞ」
「回りの七人倒す」
「了解」
 答えがあった次の瞬間には、もうあいつの前の一人が倒れていた。
 うちかかってくる一人を軽く左で防御しつつ、向かいの奴に蹴り入れてはえぇ、二人とも倒しちまいやがった。
 負けるかってんだ。
 俺も続けざまに三人倒す。その間に、あいつはさらに一人、倒していた。チッ…負けちまった。
「余裕だな。また来るようだが?」
 どうするって、そりゃこの場合は。
「目ぇ閉じろ。光いくぜ」
 発光筒を地面にたたきつける。
 光は一瞬それで十分!
「跳ぶぞ。屋根の上だ!」
 近づいて来る奴らの動きが止まった瞬間に跳ぶ!
 後はもう後ろも見ずに屋根伝いに逃げるのみ!
 で、しばらく話もせずに屋根を跳んで(一回やってみると分かるけどよ、しゃべりながら跳ぶってのは、まず無理だぜ)とにかく逃げた。
「降りるぞ」
 不意に声がかかって、先にいた影は飛び降りた。あわてて俺も飛び降りる。
「うわっ」
 だ、段差があるなんてフツー思わねーよ、教えろよ、バカやろう。
「夜更けに追いかけっこはするものじゃないな」
 かなりの暗闇だが、微笑っている事くらいはわかる。
 ってこいつの笑ったとこなんて、見たことねーよ、俺。
勝手に加わってきたんだろーが」
「放っておく理由もあるまい?」
 ちっ助かったけどよ。
「で、どーしてあんたがここにいるんだ?
 闇の守護聖が?」
 そーなんだよ、これが。クラヴィスだぜ?
 想像つかねーだろ?
 ったく、まさかよりによってこいつが下界にいるとは思わなかったぜ。
「時々は降りて来ている。…この数ケ月だから、誰も気づかないようだがな」
 それから、付け加える。ジュリアスでなくて、よかっただろう、と。
「まー…な」
 あんなのに見つかったら、小言の山ですめばいいよな…きっと。
「って、ちょっと待った、まさかあいつも降りて来てるのか!?」
「ああ。私よりすくないがな。もっとも、数ケ月に一度だから、出会うとは思わないが」
 げやっべぇ…。
 これからは相当慎重に行き先選ばねーと。
何笑ってんだよ」
「いや。考えてることがわかっただけだ。ところでゼフェル、お前呑めるか?」
 へ?
「んーまあ甘いものでなけりゃ、たいてい呑めるぜ。あんま、量はいけねーけどよ」
「そうか」
「何、連れてってくれるっての?」
 冗談だろ、とか思いつつ聞いてみる。
「ああ。適当にうるさくて、いい店がある。今から行くところだが、来ないか?」
「……おごり?」
「当たり前だ。誘っておいて相手に払わせられるか」
 へえ拗ねたのかな?
 俺だっておごってもらうほど、金がねーってわけじゃないけどよー。
 ジュリアスもまず来ないぞ、と妙な太鼓判を押されてたいして遠くないらしいし、クラヴィスについてったんだ。
「お前、ここへはどうやって来た?」
 どうって…。
「歩いて来たけど」
聖地からか?」
 なんだよ、そんなに驚くことねーだろ?
 たかが二時間の距離で。あれ、でもクラヴィスはどうやって来たんだ?
「…ああ、通路は知らないのか」
 通路?
「次元通路と似たようなもの…かな。町外れの巨木があるだろう?」
「巨木ってーと、あの親子杉?」
「そう、それの間に通路が固定されている。私の屋敷からな」
「知るわけねーって」
 こいつ…喰えねー野郎だぜ。下手すると俺よかこの辺きてんじゃねーのか?
「使い出したのは最近だ。扉の開け方がわからなかったからな。前任の守護聖が作った仕掛けだ」
「前任……って、あんた、守護聖になって長いんじゃなかったのか?」
そうだな。かなりたつ」
 いつ作られた通路だよ、それって……。
「お前の屋敷にもあるはずだが今度、探してみるといい」
 へぇじゃぁ、全部の守護聖の屋敷にあるってことか。面白そうだな、探してみるか。
「ああ、ここだ」
 そう言われてついた先は、…おい、オリヴィエの気に入りの店じゃねーか、これって。
「あれぇ、クラヴィスじゃん、久しぶりィ」
 一瞬オリヴィエかと思ったその声は、れっきとした女だった。悪い、オリヴィエ。
「あれ、だぁれその子? 似てないけど、弟?」
「いや、同僚だ。ああ、店主、いつものを二人分頼む」
 クラヴィスの声に、奥の方から答えが返った。
「こっちだ」
 そう言われて、カウンターに座ると、すぐにワイングラスで出て来た。
「お、うまいや」
「酔いが後を引くことはないが、飲み過ぎるなよ?」
 もう一杯目を飲み干したクラヴィスが言う。でもこれ、うまいぜ。
「これを頼んだことってないもんなぁ」
 2杯目を頼んでから、クラヴィスを見れば別のを飲んでる。早いって、お前。
「何だ、来たことがあったのか?」
「ああ、オリヴィエのお気に入りだって、連れて来られた。あ、サンキュ」
「ああ、オリヴィエか」
 一人で納得してるクラヴィスを見ながら、2杯目をさっそく飲む。ほんと、うまいぜ。
 そのあとは、酒の話や裏話をしながら、どれくらい飲んだかな?
 かなり飲んだけど、何か異常なくらいクラヴィスの奴ハイでよなんとなく気になったな。
「まるへるにものまへてやいてーなぁ…あへ?」
 げ、ろ、ろれつがまわんえ…。
「だから言っただろう、飲み過ぎるなと。ったく」
 うるせー、あんたがおごるってゆーから飲み過ぎたんだー。
「わ、わるかっららー」
 うーだめだ、ねみー…。
 言い帰せね〜……。
 
 で、気がついたら部屋にいたんだ。どーもよくわかんねーけど、どうもクラヴィスが連れて来てくれたらしいんだな、話を聞いてると。
 別に二日酔いも残ってない。
 しっかし、二人で瓶二本以上開けて顔色一つ変わらないなんて、呆れたぜ。
 それからもちょくちょくその店に行くようになったけどよ、クラヴィスとよく会ったぜ。
 いつも妙にハイだったせいもあって、いろんな裏話も仕入れたしよ。
 まぁ、最近はあの調子だから、会わねーけどな。
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