んー♪
 窓から見える青い空!
 きれいな白い雲!
 うん、今日もいい天気。
 女王様のお力ってすごいのねー。
 わたしなんかに務まるのかなぁ。
 あ、わたし?
 わたしはアンジェリーク・リモージュ。
 ただ今女王試験の真っ最中よ。
 んー、でもやっぱりお休みの日が晴れっていうのはいいなぁ。
 あ、今日はね、ロザリアとお菓子を作るの。
 何でそんなものを、とか言ってたけど…。
 ロザリアの性格くらい、わかってるもん。
 え、そのあと?
 う〜ん、まだ決めてないの。
 あ、来たみたい。
 どうぞ、入って。



 全く、どうして私が朝早くからこんな子と、お菓子なんか作るはめになったのかしら?
 せっかくの休日だというのに。
 何よ、その嬉しそうな顔。見てるこっちが…付き合わなくちゃ行けないような気がしてきちゃうじゃない、もう。
 でも…スモルニィにはこんな顔をする友人はいなかったわ。
 ま、この試験の間だけかもしれないけど、悪くないわね。
 きゃっ
 何、今のドンガラガッシャ〜ンは!?
 んんまぁアンジェリークったら、そんなにたくさんもって来ようとするから落とすのよ!
 ほら、半分貸しなさい、持ってあげるから。
 さ、行くわよ。ディア様にお願いして、キッチンを開けていただいたから。
 ああもう、どうしてそうコロコロ道具を転がすの!?
 お願いだから、卵だけは転がさないでね…ってだからって小麦粉を落とさないで〜!
 ああああああああああ
 絨毯の掃除がどれだけ大変なことか…!
 私じゃなくてお掃除してくれる方に後でちゃんと謝るのよ。
 ほら、下でばあやがオーブンを用意してくれてるから、早く行くわよ。


 や〜ん、粉塗れになっちゃったぁ。
 ごめんねごめんねロザリアごめんねごめんね。
 いつもはこんなんじゃないんだけどな〜。
 やっぱり疲れてるのかもしれない。
 あ〜ん、もう、今はそんなこと気にせずに、早くお菓子作りに専念しなきゃ。
 ロザリアってば、もう材料を量り始めてる。
 え〜と、こっちの生クリームを泡立てて…と。
 え、何を作るのかって?
 クッキーとシュークリーム。
 難しいって言うけど、簡単なんだから。
 きゃっ
 ロザリア、大丈夫!?


 わ、私としたことが粉塗れになってしまうなんて。
 あ、い、いいのよ、ばあや、大丈夫。また汚れるかも知れないし、着替えは後で良いわ。
 それより、オーブンをお願い。二〇〇度で、天板には油を忘れないでね。
 え〜と、薄力粉が四〇グラムに卵が二つと…半分?
 …半分ってどういうことかしら?
 あ、そうだわアンジェリーク、これ本当に薄力粉でしょうね?
 え、知らないの?
 他のお料理にも使える薄力粉は中力粉に近いのよ。上手く量を見極めないと、後が大変よ。
 あら、それが袋?
 そうね、お菓子専用薄力粉。これなら大丈夫ね。
 あら、紛らわしい?
 それはそうね。でも、パウンドケーキみたいに中身が沈んで欲しくないときは中力粉がいいし、そういうお菓子のときは中力粉や薄力粉を使うのよ。
 ま、失敗を繰り返してどっちでも作れるようになるのが一番ね。
 ほかのものの分量を変えれば、だいたいは上手く行くわよ。
 まあいいわ。えっと卵をしっかり解きほぐして…と。
 薄力粉はふるいにかけるのね。
 それから…四〇gのバターと、お水六〇t、お塩を小匙に五分の一…きゃ、多すぎたかしら?
 おナベに入れて火に掛けて…あ、もう沸いてきたわ。バターを溶かさなくちゃ。
 完全に溶けたわね。小麦粉を入れて、強火にしてシャモジで一気に掻き混ぜる!
 ふう、まとまったわね。あら、簡単じゃない。何よ、その顔。もう、ばあやまで。
 え、このあと濡れぶきんに乗せるの?
 そんな物用意してないわ、ばあや、ばあや〜…あら、アンジェリーク、あ。ありがとう。
 え、卵?
 あ、そうよ三分の一だけ、まず入れるのよ。ここで滑らかになるまで混ぜて、もう3分の一。
 そうね、そろそろ残った分を入れてちょうだい。
 え?
 そうよ、絞り袋に入れて上手くまとまるくらいに柔らかくするの。…あら、まだ堅いわね。じゃ、卵をもう一つ入れましょうか。
 そうね、このくらいかしら。ばあや、絞り袋は用意してあったわね、貸してちょうだい。熱いうちに絞るんだから。
 そうね、直径は3センチくらいかしら。あら、でもそれだとすくないわね。そうね、プチシュークリームにしましょう。
 オーブンの下段で綺麗な焼き色が着くまで…そうね、一五分くらいかしら。その後一八〇度で五分乾燥焼きするの。
 でも出力が違うに決まっているから、見ていないと失敗しそうね。
 …アンジェリーク、そっちはいいの?
 手伝ってる余裕があるようには見えないんだけど。


 大丈夫、だってまだ分量量っただけだもん。
 ロザリア、呆れないで〜。
 だって、一五個しか作れないなんて、少なすぎると思わない?
 ほら、たくさん量ってセットにしてあるんだから。ね、ロザリア切りついたら手伝ってね。
 あ、ばあやさん。
 え、手伝って下さるんですか?
 わ、ありがとうございまーす。
 小麦粉は一五〇グラムをふるっておくのね。え、三〇〇グラム?
 2倍の分量じゃないですか、いいんですか、そんなに一気にやっちゃって?
 あ、そうですか、よくやるんだ。
 え、次ですか?
 は、はい、え〜とバター一〇〇グラムを柔らかく練って…あ、これも2倍ですね。じゃ、二〇〇グラムで練って、お砂糖を五〇グラム×2で一〇〇グラム入れて、ふわふわのクリーム状になるまで混ぜま〜す。手で混ぜた方がうまくいくみたい。
 混ざったら卵黄を1×2=2個の黄身を入れてすり混ぜます。
 ではここで小麦粉を混ぜて…って、ボールに入り切らない〜!
 きゃ〜、ばあやさんってば強引〜。
 あ、多いからって練り過ぎないでくださいね。少ない分も練り過ぎちゃだめよ、ロザリア。
 じゃ、ラップに包んで冷蔵庫に入れて三〇分寝かしま〜す。
 ロザリア、シュークリームのほう、そろそろ良くない?


 あら、そうね、忘れていたわ。そうね、これくらいで良いでしょう。ちょうど良い具合にふくらんでるわ。じゃ、外に出して冷ましましょう。
 アンジェ、クリーム作るの、手伝って貰うわよ。ばあやもね。
 もう材料は分けてあるから、いうとおりにやってね。
 おナベに牛乳とグラニュー糖を半分入れて強火に掛けて。絶対噴きこぼしちゃだめよ。
 ボウルに卵黄を入れてほぐして、残ってるグラニュー糖を入れたら泡立て器で軽く混ぜるの。そしたら薄力粉を混ぜてね。大丈夫、ふるいに掛けてあるからダマはないはずよ。そう、粉がなくなるまで混ぜるのよ。
 ほらほら牛乳が沸騰しかけてるわ、降ろして降ろして。あ、火を切ってもいいわよ。少しずつボウルに混ぜてね。泡立てないように混ぜるのよ。
 あら、アンジェ上手いじゃない。
 あ、そうしたら厚手の別のおナベに濾しながら入れるのよ。残しちゃだめよ、綺麗に濾して全部入れてね。やっぱりばあやも上手ね。そうだわ、後で紅茶を入れてちょうだい。
 火は強火よ。木ベラで底を掻き混ぜながら煮るの。
 あら、もう泡立って来たの?
 手早くヘラを動かすのよ。鍋底も鍋肌もこそげとるようにね。
 そうね、クリーム状になったら火をとめて良いわ。すぐにまた別のボウルに移して、バターを落とすのよ。
 今はまだ駄目よ、熱いうちに混ぜたら粉っぽくなってまずくなるから。
 冷めたら洋酒を入れるの。小匙2杯くらいね、香りづけだから好きなものを入れると良いわ。
 え、日本酒?
 もう、洋酒って言ったでしょ!
 苦手なら入れなくてもいいわ。
 さ、次はクッキーよ。


 あ、ちょっと時間がたっちゃってる。でも、大丈夫ね、これくらいなら。
 じゃ、打ち粉をふりま〜す。生地が台や麺棒に着かないようにね。あんまりたくさん降ると生地がまずくなっちゃうから、気をつけてね。
 生地は3ミリ位の厚さで延ばすの。大体厚さが揃ったら、型で抜くだけ。
 わ、たくさんある〜すご〜い。
 うん、抜いたらね、水で溶いた卵黄を表面に塗るの。
 そしたら一七〇度のオーブンで一五分くらい、焼いてね。
 え、焼けなかったら?
 そうね、大体五分刻みで生地とにらめっこしながら焼き続けるといいんじゃないかな。
 焼き上がったら金網かケーキクーラーで冷ますのを忘れないでね。
 あ…あれ?
 ど〜しよ〜、オーブンに入り切らないよ〜。


 まあまあ、お嬢様がこんなに楽しそうにお友達と遊ばれるなんて…。
 なまじ大きなお家でお嬢様もそれにふさわしい気品の持ち主ですから、お友達とお遊びになることなんて、滅多になくて、心配しておりましたけれど…ああ、安心しましたわ。
 ええ、きっとお嬢様たちがこれ程頑張って作られたんですもの、おいしくできあがるに決まっております。
 さ、お茶をお入れしましたよ。
 お菓子が随分出来ましたけど、見目の良い分は守護聖様にお持ちしてはいかがですか?
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