藪をつついた吟遊詩人若き少年哀れなり 


 ああ、そんな拗ねないで下さい、お二人とも。
 かけないではありませんか、そんな膨れっ面をしていたら。
 描いちゃいますよ、そのままの顔で。
 ああもう、オリヴィエ、なんとか言って下さい、お願いですから。
 あ、あの鳴き声はチュピ?
 ああ、あの金色の髪の天使は。
 ああ、まさしく天の助け……。


 あれ、アンジェリーク!
 こんなところにいたの?
 あ、リュミエールさまにロザリアも。
 オリヴィエさままで、こんなところで何してらっしゃるんですか?
 あ、何か飛んで来たよ。写真?
 わー、かわいいい。
 あ、アンジェリークだね、これ。こっちはロザリア?
 わー、いいないいな、写真って。
 え、僕?
 僕の星ではね、写真って、なかったんだ。みんな肖像画だったんだよ。
 そういえば、ルヴァさまのお家でお食事してるときに、ゼフェルのメカに隠し撮りされちゃったんだ。
 ひどいよね、隠し撮りなんて。しかも、写真館に展示されてるっていうんだ。
 ゼフェルの写真は、普通の格好なのに、僕はあんなのなんて、ずるいと思わない?
 あ、このお花?
 きれいでしょ、花壇の花が咲いたんだよ。とってもきれいだから、みんなに見てもらおうと思って持って来たんだよ。
 そうだ、ちょうどいいからここへ飾っちゃお。僕、ちょっと花瓶とって来ます。
 え?
 いらないって、オリヴィエさ…あーっ!
 だ、だってこれ、お茶用の水差しですよね、リュミエールさま…いいんですか?
 花瓶にしちゃって…。
 いえ、リュミエールさまがそれでいいなら、僕はかまわないんですけど。
 リュミエールさま、か、顔が引きつってる。
 あ、僕もいいんですか?
 ありがとうございます。
 わー、おいしい。
 やっぱりハーブティーはリュミエールさまのが一番おいしい。
 ね、思い出って、みんなで何話してたの?
 え、クラヴィスさまのこと?
 あの方って、ちょっと怖いけど優しい方だよね。
 僕、あの方のこと嫌いじゃないよ。もっと仲良く慣れたらいいなって思ってるんだ。
 え、僕もクラヴィスさまのことを話すの?
 アンジェリーク、よっぽどクラヴィスさまが気になるんだね。
 でも、僕もそうだったよ。
 
 僕が聖地へきて、やっと3ケ月が過ぎたかな。
 カティスさまがいるうちはいろいろ教えてもらえたけど、いつの間にかいなくなっちゃって、まだ、少し不安があるけど…大丈夫だよね。
 今日は仕事も早く終わっちゃったし、お散歩しながら帰ろう。
「あ、チュピ」
 チュピって目ざといんだよね。僕が執務室を出てくると、すぐに寄って来るんだ。
 あ、チュピは聖地へ来る前からの友達。
 仲間がいなくなっちゃうから、置いてくるつもりだったけど、ついて来るってきかなかったから、連れてきちゃった。
 寂しくないのかな、仲間がいなくて。
「あれ? チュピ、なに持ってるの?」
 クチバシに、何かくわえてる。
 チュピが近づくと、それが紫色の耳飾りだって事がわかったよ。手を出したら落としたから、よく見てみるとどこかで見た気が…する…
「あーっ!」
 これってば、クラヴィスさまの飾りじゃないかっ!
「チュピってば、駄目だよ、こんなことしたらっ。もう、返しに行かなくちゃ!」
 僕は仕事がおわっちゃってるけど、クラヴィスさまなら、まだ仕事終わってないよね。
 執務室へ行けばきっと間に合うはず…!
「チュピ、おいで!」
 あー、もうっ。
 チュピったら、逃げていっちゃったよ。ちゃんとしからなきゃ駄目なのかなぁ。
 あ、そんなこと言ってる場合じゃないや。
 はやくクラヴィスさまのところ、行かなくちゃ。
 
「あ…れ?」
 聖殿まできたのはいいけど、クラヴィスさまのお部屋、明かりが消えてる。まだ他の方はいらっしゃるみたいなのに。
 お部屋につながるインターホンを鳴らしてみたけど、いらっしゃらないみたい。
「どうしました、マルセル?」
「あ、リュミエールさま」
 どうしてかわりにリュミエールさまが出てくるんだろう…だからオリヴィエさまに怪しい噂を立てられるんだよね、きっと。
「お仕事は終わられたんですか?」
「いえ、まだなのですよ。今日は残業しなければならないようです」
 そうか大変なんだ、リュミエールさま。
 そうだ、クラヴィスさまと仲のいいリュミエールさまなら、知ってるかも。
「あの、クラヴィスさまにお会いしたいんですっ」
「クラヴィスさまに?」
 そんなに不思議なことかなぁリュミエールさまが、すごく驚いた顔をされたんだよ。
「あの、あのチュピがこれを持ってきちゃって、それでお返ししようと思ってっ」
 あわててクラヴィスさまの飾りを見せたら、リュミエールさまがああ、って微笑ってくださったんだ。
「チュピが見つけてくれたのですね」
「……え?」
「先日、クラヴィスさまが森で落とされたそうで、今日も仕事を早めに終わらせてまで、探されていましたから。でも、もうこの暗さでは、私邸の方へお帰りになられたかと思いますが」
 そうだったんだ。じゃ、チュピが取ってきたわけじゃないんだ。
 怒らなくてよかった…あとでおいしいもの、あげなくちゃ。
「もしよければ、私が預かって、明日にでもお返ししておきますが」
 リュミエールさまはそう言ってくださったけど…そんなに探してらっしゃるなら、僕、仕事終わってるし、早くお渡ししたほうがいいよね。
 そういったら、リュミエールさまはうなずかれて、
「そうですね。そうしましたら、地図を書きますから、私の部屋へ少しお寄りなさい」
「はいっ」
 リュミエールさまって、やっぱり優しい方だよね。
 こんなとき、本当に思うよ。
 
 その後で僕、地図をもらってクラヴィスさまのお家までいこうとしたら、遠いみたいだったから、馬車を使ったんだけど。
 もう、すっごく遠いんだよ。
 リュミエールさまの地図は分かりやすかったからよかったけど、きっと、地図がなかったらどこかで道に迷っちゃうよ。
 やっと見えて来たと思ったら、それはリュミエールさまのお家だったし。
 あ、薔薇がとってもきれいに咲いてるんだよ、リュミエールさまのお屋敷って。
 だから、一目でわかるんだ。
 僕の庭にも、薔薇の花、入れようかなぁ…青いのとか、虹色のとか。
 そこを過ぎてしばらく行ったら…やっと、見えて来たんだ。
 あれ、でもなんか、リュミエールさまのお家に随分近いんだ。
 僕は御者の人に少し待っててくれるように頼んで、呼び鈴を鳴らしたんだ。
 そうしたら、クラヴィスさま本人が出てらして、ちょっとびっくりしちゃったよ。
マルセルか。どうした、こんな時間に」
 ちょっとわからなかったのかな。
 もうかなり真っ暗で、明かりがないと相手の顔がわかりにくいんだよ。
「あの、チュピがこれ持って来て、あの、クラヴィスさまがお探しだって、リュミエールさまにきいて、それで…っ」
 あわてて差し出して、僕、しどろもどろになっちゃった。
 だって、クラヴィスさまってすっごく背が高いし、少しこわいくらいの雰囲気があるんだよ。
「…ああ…では礼を言わねばなるまいな」
 え?
「この数日、探していた…大切なものだ。ありがとう」
 そう言って微笑まれたクラヴィスさまがとっても綺麗だったから、ぼく、ちょっと見とれちゃった。
 ぐうぅぅ
 って、わっ、うわーっ!
 やだもう、こんなところでっ。
 恥ずかしいよー。
「ああ、まだ食べていないのか」
 うわー、やっぱり微笑われちゃったし。
「ここから帰ったのでは遅くなるだろう。食べて行かないか?」
 えクラヴィスさまのお家で?
「ちょうど先客もいることだしな。連れて行こうかと思ったところだぞ」
 え?
 あーっ。
「チュピ!」
 なんでこんなところにいるの、もうっ。
 クラヴィスさまの肩に、チュピが乗ってるんだもの。びっくりだよ。
「御者に言付けて、帰すといい。一人や二人は泊められるから」
 え…っ…?
「嫌か?」
「え、あ、ち、違いますっ、あ、あの、じゃ、ちょっと待っててくださいっ」
 えーっ?
 僕、泊まってちゃっていいの?
 クラヴィスさまのお家に?
 でもいいよね、たまにはっ。
 
「おいしー」
 最初はちょっと…じゃないや、かなり代わった外見のお料理にびっくりしたけど、すっごく美味しいんだよ。
 なんかね、一つの国のお料理じゃないみたい。いろんな味が交ざってて、すごく楽しいんだよ。
 あれ…でも…。
「クラヴィスさま、いつもはお一人なんですか?」
 おいしいけど誰もいない。
 それほど広い食堂でもないから、確かに、人数は入らないはずだけど…。
「…前は…というか、一時はそうだったが。今はまぁ、3日に一度は誰かがいる。それほど寂しくはないな」
 毎日では反対に疲れる、って付け加えられたけど僕は、にぎやかな方が好きだな。
「ああ、そうだな。この静けさには慣れない方がいい。光の元へ、出られなくなってしまうからな」
 比喩それとも、ご自分のこと
 聞きたいことではあるけど…多分、聞いちゃいけないことなんだよね。
 ううん、聞かない方が…いいこと。きっと。
「ああ、デザートはアイスクリームでいいか?」
「は、はい」
 えー、このうえデザートまで出るんだ、すごーい。
「うわぁ、大きいー」
 アイスクリームじゃないよー。
 これじゃフルーツパフェだよー。
「特製だぞ。まだ他の誰も食べてない」
 えーすごいすごーい。
 おいしそー。
「いただきまーす」
 回りの果物はいろんなのが飾ってあるんだ。僕が見たことないようなものまであるんだよ。
 オレンジ色した、ミカンみたいな…でも、味が違うし。なんだろ?
「ああ、それか。名前は知らないが、私の屋敷の聖地にしかない木の実だ。いい香りだろう」
「はい、とっても。それにすごくおいしい」
 これだけがデザートでもいいくらい、美味しいんだよ、これ。
「ああ、食べ終わったら部屋へ案内しよう。湯浴みも出来る部屋だから、ゆっくり休んで行くといい。着替えも用意しておくから」
「はーい」
 でも、いいのかな、こんなに甘えちゃって。
 
 でね、結局クラヴィスさまのお家に泊まって、次の日は一緒にお仕事に連れていってもらったんだ。
 みんながびっくりした顔みるのは、ちょっと楽しかったよ☆
 ちょっと短いかもしれないけど、僕の話はこれでおしまい。
 ちょっとはおもしろかったかなぁ?
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