二度あることは三度ある哀れな生け贄若年寄

 じゃ、僕にもお菓子ちょうだいね。
 あっ…こら、チュピ!
 駄目だよ、ロザリアの髪の毛で遊んだら!
 あ〜ん、絡まっちゃうじゃないか。
 ごめんね、ロザリア。
 あれ、アンジェ?
 どうして怒ってるの?
 ねえ?
 リュミエールさまぁ…?
 言ってくれなきゃわかんないよ〜
 あ、あのターバンは!


 あー、話し声が聞こえると思ったら、ここにいらしたんですか。みなさんおそろいですねー。
 優雅ですねー、こんなところでお茶会なんて。いいですねー。
 あー、私、クラヴィスを探しているんですが、何処かで見かけませんでした?
 え?
 あー、そうですか、今日はもう帰ったんですか。あー、いえ、クラヴィスが読みたいといっていた本が見つかったものですから、渡して置こうかと思ったんですよ。
 そーですか、帰ってしまいましたかー。残念ですねー。
 でもまあ、明日渡せばいいですからね。
 ところで何を話してらしたんですか?
 あー、昔のことを候補の方々に…。
 それは面白いですね。後で聞かせてくださいね。
 じゃー、私は書庫の整理の途中なんで、失礼しますー。
 あ、あのー、リュミエール…、袖を引っ張らないでもらえませんかー?
 あー、オリヴィエまで
 どーしてチュピまでくるんですかー?
 あ、マルセルもいたんですね。
 え?
 だって、私は…あー、他人事じゃないんですか。
 そーですか、私も話すんですかー。
 うーん、話すことですかー。
 私が守護聖になりたてのころの事をお話ししてもよいのですが、うーん、お話しすること言っても、取り立ててないですねー。
 執務室にいつもいましたからねー。
 あー、ところで、皆さんは、どんな話をされたんですか?
 おや、クラヴィスのことが中心ですか。
 彼もわりと面倒見がいいところがありますからねー。
 え、信じられませんか?
 そうですね、候補のお二人はあのクラヴィスしか知らないでしょうからねー。
 そうですね、そしたら、私もクラヴィスのことをお話ししましょうか。
 うーん、あまり長い話というわけでもないんですが、私が話すとなると、長くなってしまうかもしれないですね。
 よろしいですか?
 あー、いえね、私、この間から本棚や書庫の整理をしてましてねー。
 そしたら、古い日記が出て来たんですよー。
 あー、たぶん、守護聖になったばかりのころのものだと思いますけど。
 いやー、ついつい読んでしまいましてね、日記って、おもしろいものですよね、もう忘れてしまったころのことが書いてあったんですから。
 あー、あれはですねー、ディアたちが来る、ずっと以前のことでしたよ。
 だから、誰も知らない話だと思いますねー。


 あー、私の部屋となった執務室の蔵書の山はすごいですね。
 前任の方が、もう読んでしまったからって、置いていかれたんですけれどね。
 守護聖になりたての私は、まだほとんど読めずにいましてね。
 一国の図書館でもそろっていないような、古代文字の文書がかなりありましてね。なかなか進まないですねー。
 あー、それで今日も読んでたんですよ、朝から一日中執務室にいまして。
 仕事がないときは、一日中読み耽ってますよ。
 
 おや?
 今、何か聞こえたような気がしましたが…気のせいでしょうか?
 おや、と思って耳を澄まそうとしたんですが、それは必要なかったですね。
 珍しい人の声が聞こえたんですよ。しかも焦ってますね。
「ルヴァ?」
「クラヴィスー? 開いてますよー」
 あー、珍しいとは言っても、クラヴィスはよく私の部屋から書物を借りて行きましたからね、それほど珍しくもないですね。
 いやー、でもその時は驚きましたねー。
 入って来たクラヴィスはですね、泥まみれで、衣装もぼろぼろだったんですよ。
 しかも、腕に何か動くものを抱いてましてね。そっちも泥まみれだったんですが。
「ク、クラヴィスー、どーしたんですかー、その姿はー?」
「私はいい。それより、こっちの手当を頼む」
 そう言って、腕に抱いてたものを差し出されたんですけどね、山羊だったんですよー。
 しかも大人になるかならないか、っていうところの。
「あー、足が折れちゃってますねー。でもあとは、擦り傷くらいですねー」
 大きな怪我はそれだけだったので、クラヴィスを座らせてから手当したんですが、それでもすぐにすみましたねー。
 あー、でもあまりにも泥まみれだったので、ついでにきれいにしちゃいました。
 真っ白な、かわいい仔山羊が出来ましたよ。
 あー、この言い方は誤解を招きますね。
「はい、すみましたよー」
 来客用のソファで、ずっと私のほうを見てましたクラヴィスに声をかけましてねー、そのときに、彼もかなり傷がひどいことにきづきましたよ。
「すまなかったな、執務中に」
「いえいえー、お礼はまだ早いですよー」
 放っておける性格だったら放っておいたんですけどね。
「ん? おいおい、ルヴァ、私はいい」
「そうはいきませんねー、この仔ほどじゃないですが、随分ひどいじゃないですかー」
 最初のうちは彼も抵抗してましたがねー、故郷では暴れん坊の面倒を見てましたからね、慣れたものですよー。
 途中で諦めてくれましたしね。
「はい、これでおしまいです」
 それから私は薬を片付けて、お茶を出しました。
 あー、クラヴィスは結構お茶が気に入ってるみたいですねー。時々飲みにくるくらいですからー。
 そうそう、時々聖地に来る商人さんがいるじゃないですか。あの人の話だと、急須や湯飲みを揃えたみたいですー。
 でも、彼は物を大事にしますからねー、今更、受け取ってはくれないでしょうねー。
 うーん、彼の部屋でお茶を飲むのもいいんですけどねー。
「でもクラヴィス、どうしたんですかー?」
「いや、崖の近くで何か落ちたような音がして」
 出して置いたお茶をゆっくりとすすってますね。
 うーん、違和感があるようなないような…面白い光景ですねー。
 あー、いえねー、クラヴィスの膝には、さっきの山羊がいるんですよ。
 すっかりなついてますね。
「あー、あのー、崖って、聖地の端の、あの崖ですかー?」
「ああ。行って見たら、落ちて動けぬようだったから連れて来た」
 なるほどー、そうだったんですか。
「あ…でもクラヴィス、あなた飛行手段なんて、もってましたっけー?」
 たしか天駆ける馬を乗りこなせるのは炎の守護を持つ者だけのはずですし…あの崖って、かなり高かったような気がするんですがーそれほどでもなかったんでしょうかねー?
「あればこんな姿になるわけないだろう?」
 あー、なるほどー…って。
「お、落ちたら死んでますよ?」
「…下が湖だったから、その心配はなかったぞ」
 湖ですかー。
 あー、大雨が降ってましたからねー、一時的に出来たんですね。
 いやー、それにしたって、普通やりませんけどねー。たいして深いわけじゃないですからねー。
 彼のやることは時々心臓に悪いですねー。
「大人だったら、放っておいたがな。子供が登れる高さには思えなかったから」
 そうなんですよねー。クラヴィスは動物の子供には優しいんですよねー。
 前にも怪我した子鹿を連れて来てましたしねー。
 でもどうして女王補佐官のところに行かないんでしょうね。
「じゃー、もう一つ聞きますけど」
 私も席に着きましてね、一緒にお茶を飲みつつ、聞いてみました。あー、お茶受けはお煎餅です。
 クッキーもいいですがー、やっぱりこのお茶にはお醤油味がいいんですよー。
「何しにそんなところへいったんですかー」
「いや、なんとなく。見晴らしが良いと聞いたことがあったから、暇つぶしに」
「執務中に何してるんですか、あなたはー」
「執務といっても、ほとんどやることがなかったからな」
 悪びれませんねー。
 確かに私も仕事がなくて暇ですけどねー。
 あー、でも、そういえば、この間まで何か落ち込んでたような気がしますねー。立ち直ったんでしょうかねー。
 だったらいいんですけど。
 
 いやー、このころのクラヴィスは面白かったんですけどねー。
 時々ですけど、ぼけてくれましたしねー。
 だって、私が突っ込めたんですよー?
 私がこういう性格だからでしょうかねー。私の、前では気を抜いていることが多かったんですよ。
 でも随分変わってしまいましたよねー。
 あー、私、クラヴィスが落ち込んでたって言いましたけどね、理由は知らないんですよ。
 そうそう、最初にも言いましたけど、この時の女王補佐官は、ディアではないですよ。ディアが来たのは、これよりかなり後ですからねー。
 あー、このときの山羊さんですかー?
 あれー、守護聖の皆さんご存じないですかー?
 女王候補のお二人は知らないかもしれないですねー。
 でもほら、聖地の庭園にいるじゃないですかー。
 あの子なんですよー。
 クラヴィスによくなついてますからねー。
 クラヴィスが行くと、すぐに寄って来るんですよー。
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