■□■ 梅ちゃん ■□■
梅の歴史

[1]梅の基礎知識

 梅はバラ科サクラ属の木で、原産地は中国を含むアジアの東部。日本へは奈良時代以前に、朝鮮半島経由で中国から渡ってきました。現在の品種は観賞用を含めると約350種類もあるらしい。う〜ん、考えただけでもすごい数ですねぇ。
 何でこんなに品種が増えてしまったのかと言うと答えは簡単で、梅は雑種性が強いからだそうです。その土地に適したように変化を遂げていったものから、梅の近縁にあたる杏とかけ合わせたり梅の別種同士をかけ合わせたりという人工的なものまで色々な品種改良ができるんだって。
 まぁ簡単と言っても素人には品種改良なんてできませんが。ここでいう簡単とは、研究者さんたちレベルの話しなのだわ f(^-^;;;
でも、私たちが普段食用にしている梅は、各地で品種改良されたブランド梅を省くとだいたい次の3種類に分けられるようです。

先ず1つめは『南高/なんこう』
南高は、和歌山県南部川村が原産の大粒種で、皮が薄く、実は肉厚で、種が小さいのが特徴。梅干しにするのに最適で、紀州の梅干しとして人気が高い梅。

2つめは『白加賀/しろかが』
白加賀は、江戸時代から栽培されてる大粒種で、生産量も梅の中で最も多い梅。この梅は肉厚だけれども繊維質が少なめなので、梅干しでも梅酒でも何にでも加工しやすいポピュラーな梅のもよう。

そして3つめは『甲州最小/こうしゅうさいしょう』
甲州最小は読んで字のごとく、小粒タイプの梅。熟すと真っ赤になるのが特徴で、小梅漬けなどに加工されたりしてる梅です。
‥‥と、ここまで読んで、あれ?『青梅』は? と思った方もいるのではないかな? しかし、残念。青梅とは品種の名前じゃないのであ〜る。
梅の実は、用途によって、粒の大きさや熟し加減を使い分けるのが一般的。なので、青梅とは、梅酒用などに適した熟成度‥‥つまり、まだ未熟な青々とした梅の実を総じて『青梅』というでした。

なるほど〜。用途によって、粒の大きさや熟成度を使い分けるのね。と梅についてちょっと分かった所で、元祖の加工梅が気になったりしませんか? 元祖、とはもちろん中国の事。日本へ梅を伝えた古来中国では、どのような方法で梅を加工していたのでしょう。
え‥‥みなさまは気にならない。
でも私は気になちゃったのよん (^ー^;;
そしてやっぱり今回も、ねちっこく梅について調べたのでありまする(笑)

[2]古代の梅は黒かった?

 日本へ伝えられたのが奈良以前‥‥大和時代の話しとなると、中国の古墳で梅が発掘されてる可能性がある。どこかにないかな?と思ったら、案の定ありました。中国は湖南省。長沙にある馬王堆漢墓(まおうたいかんぼ)という前漢時代の古墳から、梅の化石が発掘されているようです。ここで見つかった梅の用途は、食用ではなくてお薬(漢方薬)。どのように加工して薬にしていたのかと言うと、梅を摘んで篭か何かに入れ、火で炙って燻製にしたというもの。
 梅は中国の古名では『烏梅/うばい』と書きますが、この烏(カラス)という字は、「真っ黒」という意味合いなので、古来中国で梅と言えば、真っ黒に燻された燻製梅を指していたことがわかります。
では、中国から梅が伝わってきた古代日本では、梅をどう書いていたのか‥‥と言うと、やはり『烏梅』と書いて「ウメ」と読んでいたようです。
万葉集(759年以降に成立)に出てくる歌に、こんなのがありました▼
『むつきたち春の来たらばかくしこそ烏梅を折りつつ楽ぬしきをへめ』
ね。烏梅でしょ(笑)
 この歌に出てくる文字からもわかる通り、日本でも当初、梅は真っ黒に燻製してお薬に使っていたようです。それは、遣唐使(630年〜)が中国から漢方薬の「烏梅/うばい」を持ち帰り、薬用として「烏梅/ウメ」の効用を伝えたからではないか、と考えられています。
ここまで読んで、「梅」=「漢方薬」=「真っ黒に燻した丸薬」として伝えられたと分かったと思いますが、 それでは、燻製した漢方薬ではなく、梅が食品として利用されるようになったのはいつぐらいからの話しなのでしょうか。
梅を食品とする為には、燻製梅から進化して、漬けものに加工される必要があります。日本で漬け物‥‥というと塩漬けがポピュラーかつ簡単にできる代物です。なぜならば、日本は周りを海に囲まれた島国なので、古来より塩は安易に入手可能だったので。

[3]漢方薬から漬け物へ

 保存に適した漬け物自体は、塩と器さえあれば簡単に作る事ができるので、有史以前の土器が登場した時代から漬け物の原型は登場していたと想像できますが、記録上、漬け物が始めて登場したのは奈良時代の天平年間(729〜749年)の木簡になるそうです。その木簡には、瓜や青菜の塩漬けが記されていました。
 その後、奈良時代を経て平安時代へ時代が進むと、漬け物の記録は頻繁に文献に登場するようになってきて、平安初期の宮中の年中行事を記した『延喜式/えんぎしき』という書物では、醤油漬け、粕漬け、酢漬け等々、様々な漬け物シリーズが紹介されています。
 でも、当時の食用漬け物の主流はカブや青菜、茄子に冬瓜etc‥‥という嗜好品系だったもよう。しかし、薬餌効果を狙った漬け物については、万葉集十六巻にニレという薬餌効果のある樹木の皮を使って作るカニの干物と乞食の長唄が紹介されているので、薬餌効果目的の漬け物は、平安時代以前から作られていたはずなんです。
 そしてやっぱり、梅も薬餌効果を狙って塩漬けにされてたみたいです。時代はちょっと進んで平安時代中期になりますが、村上天皇が病で床に伏せていた時、梅干し(塩漬け)とコンブ茶を飲んで病気を治した、なんて話が残っていました(笑)

[4]特別な薬から常備薬へ

 更に時代が進み鎌倉時代(1200年〜)になると、梅の塩漬けは僧侶たちの食卓へ上がるようになったみたいです。ここらへんの時代から、梅はやっと普段の食生活へ登場してきた事になるのかな? ただし、日常に食べたと言っても現在のような嗜好品の意味合いではなく、食薬としての役割なので、今で言うサプリメント(健康補助食品)に近いけど(^-^;;
 僧侶たちが常用した塩漬け梅は、解毒作用があるという事で、次第に武家社会の中へも普及し始め、武家でも梅の塩漬けを食膳に乗せて普段から食べるようになりました。室町時代(1392年〜)の書物には、酒やご飯の時に咽せてしまわないよう梅干しを食膳に添えた、という記録が残ってます。
 しかし、一般庶民の食卓には、まだ塩漬け梅は出回ってません。一般庶民が塩漬け梅の味を覚えたのは、更に時代が進み戦国時代(1476年〜)へ突入してからだと想像できます。
 なぜならば、戦国武将は、戦になると臨時兵士(駆出された農民たち)へ梅漬けが支給していたようなので。
元々は薬用にされてた梅ですから、塩漬け梅は、戦時中の食薬として重宝されていたらしく、戦国系の記録には、梅について書かれたものも残っています。私が戦国時代の梅について調べた書籍「たべもの戦国史/著・永山久夫」の中で紹介されていたケースだと、例えば「武教全書詳解」という兵法の書の中で「息合の最上は梅成り」と、梅は息切れを整えるのに最高の薬だと紹介されていました。ただし、この兵法の書で紹介している梅の用途は携帯薬につき、梅を果肉をすりつぶして日干しした乾燥梅のようですが。
ついでに、戦国武将の中で、最も梅を活用していたのは、北条早雲という人だそうです。彼は戦へ出陣する折りは必ず、各兵士に梅干しの携帯を義務づけていたようです。
このようにして、戦争の度に支給されるようになった塩漬け梅は、庶民の間でも薬餌効果のある食べ物だと認識されるようになってゆき、戦国時代が終わりを告げて江戸時代に入ってくると、一般庶民の各家庭でも薬用目的で梅の塩漬けが作られるようになりました。
塩漬け梅が常備薬から常備食品へと移り変わっていったのは、江戸時代の中期に入ってからの話し。江戸時代中期になって、梅は始めて赤シソで着色され、今で言う梅干しの誕生となった訳です。

[5]嗜好品としての梅干しへ

 江戸時代に発明された赤しそ漬けは、現代のスタイルと同じ手順で作られていたようです。『四季漬物塩嘉言/1826年刊行』で紹介されている手法はこんな風に記載されてます。(現代語訳:川口はるみさん)

 梅のよく熟したものを一時水に浸して洗う。梅一斗に塩三升、紫蘇の葉をみはからって漬ける。始めは押しを強くする。14〜15日から20日たった頃、晴れの日を選び簀(す)に並べ干す。当座食べるには、1日干しては夜梅酢に漬けておき、また翌日干す事を繰り返し3日して、4日〜5日干しあげて、からからに乾ききったら壺へ入れる。こうすると、たとえ十年二十年たっても味は変わる事がない。梅干しの艶も良く、風味は別格である。

 ね。今現在の梅干しの作り方と同じでしょ?
 こんな風に梅干しを作っていた江戸時代の人々ですが、彼らは梅干しをそのまま食べていたのかと言うと、やっぱり加工して食べたりもしていたようです。
 加工については色々な料理本に記載されたものが残っているのですが、今回は、代表的な加工方を1つだけ紹介したいと思います。
 それは『梅が香あえ/うめがかあえ』という調理アレンジ。梅が香の調理法は『料理網目調理抄』の例でいうと、「かつお節をうすくかき末(粉)にして酒にて煮詰めた後に醤油で味付けし、陳皮、梅にん、山椒の粉を加える」というもの。いわゆるカツオ節と醤油に梅の果肉を混ぜたなめもので、今で言う梅キュウに近いかな???

と、言う事で、やっと紫蘇漬け梅干しにたどり着いて、めでたしめでたし♪
今回の追求はお終いだよん(^-^)/


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作成:2001年6月
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