国会は、ある審議で紛糾していた。それはA国との協定に関する審議で、野党からは強烈な猛反発が寄せられていたのだ。それは専門家達の間で論議を呼び、あたかも国中で論議を呼んでいるようであった。実際、それは国の命運を定める上で非常に重要な法案だったのだ。
しかし、国民の大多数はただ金勘定と余暇のことばかり考えて、見向きもしなかった。国民とは金とセックスによる汚職以外にはなかなか政治に目を向けないものなのである。
ある意味、それは普段通りの光景といえた。野党はだれかれ構わず吼えたて、与党は数で押し切ろうとし、国民はそっちのけで自分のことを考えるか、或いは時々思い出したかのように国会中継を観て批判を述べるか、であった。
しかし、国会中継を観ている人々も、一向に展開のない審議に本心ではつまらないと思っているのだが、少しばかりの見栄もあるし、もしかすると何か新しい展開があるかと思えばこそ、とあくびをしつつ、ふいに先の見えたサスペンスドラマのことを思い出し、半ば空想にふけっているのである。その国会中継を撮影しているカメラマンも、やはり下手な漫才のような答弁に飽きてあくびをかみ殺していた。しかし、その日は違った。普段ではあり得ないようなことが起こったのである。
「クーデターだ!」
けたたましい銃声が響き、黒い眼だし帽を被ったライフルで武装した男達が何十人も国会議事堂に乗り込んできた。一人だけ眼だし帽を被っていなかったが、どうやらその男がトップのようだった。彼らは瞬く間に国会議事堂を制圧してしまった。機動隊と衝突するかとも思われたが、機動隊はいつまで経ってもやってこなかった。もちろん、自衛隊もである。
国会中継を撮影していたカメラマンは、血が沸き立つ思いがした。自分が国営のテレビ局でカメラマンを志願したのは、後世まで貴重なフィルムとして残さるような歴史的映像を収めたいと思ったからこそである。今まさに目の前では歴史的な事件が起こっているのである。
「おい、カメラマン、こちらをしっかりと撮せ! これから重大な発表を行うからな」
カメラマンは張り切って男を撮影し、男は腕を振り乱し、雄弁に語った。飛び散る汗が美しく光った。演説の内容は廻りくどく、抑揚と感動詞が過多で、左翼の活動家を思わせたが、内容の方は左翼どころの話しでは無かった。
何しろ、彼らは宇宙からやってきたというのだ。何んでも、彼らの星の議会で決定した指針によれば、このまま地球上でA国の躍進を許していては、そのうち地球は核戦争に突入し、人類は滅亡してしまうであろうから、正義の観点からA国を阻止すべきだということになったのだというのである。そこで彼らはA国ととりわけ癒着が深い上、平和国・島国・位置的に都合の良い……と三拍子揃ったこのJ国に目を付け、そこを基点に反A国運動をすることに決めたらしい。しかも、普通に制圧したのでは流血の事態も免れないかもしれないので、敢えてクーデターの形を取ったというのである。もう既にこの国の主要機関は全て制圧してしまったという。一向に機動隊が来ないのも納得が行く。
カメラマンは時代の変化を皮膚にピリピリと感じた。
一方、A国のある有力な官僚の男は、慌てて地下の秘密基地に駆け込んだ。その秘密基地は、A国がある宇宙人達と共同で製作したものであった。この事実は大統領ですら知らないものであった。
「おい、あれは一体どういうことだ。我々と協力関係にあるはずの宇宙人が、どうして我々を抑圧しようというのだ!」
男が汗を拭いながら詰ると、宇宙人は振り向いて答えにくそうに言った。
「あれですか。あれはね、我々とは違う星系の住人ですよ」
「だったら、君たちから言ってやってくれ。宇宙協定だってあるだろう。地球のことは地球でやる。まったく、酷い内政干渉じゃないか」
「それは無理ですよ」
「なんでだ! あんな理不尽な行動は糾弾されて然るべきものじゃないか。少なくとも地球ではそうだ。宇宙というのは無法地帯なのか?!」
男が青筋を立てて怒鳴ると、宇宙人はにやにや笑うようにして言った。
「あれは丁度宇宙で言うところの、あなた方A国と同じような星の人達なんですよ。迂闊に意見でもしようものなら、我々は経済制裁されてしまいますからね」
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