私と妻は、何度目かの結婚記念日を祝って、居間で乾杯をしていた。
「たまにはテレビでも見てみない？　ここのところ、ずっと消しっぱなしだったでしょ」
　テレビには十二歳以下の少女しか出なくなった。ニュース番組のアナウンサーも子供がやっている始末。
「歌は叫んでいるだけだし、演技はまるで学芸会だ。アナウンスはつたなくて聞き取りにくいし、堪ったものではないな」
　結婚も女性は十二歳からできるようになった。五十歳や六十歳といった人々がこぞって彼女たちと結婚しはじめた。
「開けてびっくり玉手箱だ。世の中、こんなにペドだらけだったとはな」
「そういう言い方ってないでしょ。やっぱり皆んな若い娘さんがいいものなんじゃない」
「幾らなんでも、ありゃ若すぎるというものだ。それはそうと、数少ない大人の女性から見たらどうだい？」
「あら、私は少し羨ましいわ。もう、ああはなれないのだから。できることなら、私もずっと若くいたかったものよ。ま、無い物ねだりってとこね」
「そうか。無い物ねだりだった頃はまだいいさ。誰もがそう望んだから。いつまでも若くいたい。いつまでも責任を負わされることなく、子供のままでいたい、と。だからそんな風に進化したんだろうな」
「進化という言い方が適当かどうかは知らないけど、明らかに私たちとは違うわね」
「そうだ。昔、新人類なんて騒いでいたことがあったが、あれの比ではない――。これぞまさしく新しい人類だ。そういえば、生物学上、人間の子供は成人とは違う生き物だそうだ。普通、動物の子供は親のミニチュア版だが、人間の場合は体型のあらゆる面で異なる。だから、全くではないにしても、違う生き物としても認識していいはずだ」
「でも、成長して大人になってくれれば――」
「そう、成長すればな。そこが完全に種を異にするところだ。我々はどんどん老いていくというのに、彼女達は十二歳であらゆる成長が停まり、決して大人になることが無いのだから」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　《了》