ムンク「思春期」
Edvard Munch (1863-1944)。Puberty――画像はこちらで。
描かれている少女の視線にグラッと来ました。何も惚れた腫れたのというわけではなく、強烈なパンチが来たのですよね。
初期のムンクでもこういう普通の(?)絵も描いてたんだなーって意味では逆に珍しかった。晩年の明るい色遣いの作品を除けば、頭抱えていたり苦しんでいたり死んでいたりするような絵の多い中で、異質の存在と言えるかも知れません。ある意味では代表作の「叫び」なんかよりもずっとパンチが強い。
子供と大人の中間に位置する少女からは愛も悲哀も感じない。ただ漠然とした――≪思春期≫のような――とらえどころのない不安を、見る者に抱かせる。それは背後に影となって現れる。
細かく見るなら、ベッドや壁から確かに貧しさも感じさせるものがありますが、そういう具体的な力よりも少女の眼の力の方が圧倒的に勝っている。この眼は何も訴えてはいない。
この少女は、ムンクの姉ヨハンネ・ソフィエのイメージもあるのかもしれない。結核病みのソフィエは、まさに思春期のただ中で病死してしまう。しかも一つしか歳が違わないのだから、その思いはどんなに痛切だったことだろう。それは「病める子供」という作品で強烈なほどに描かれている。『死と少女』のテーマをはじめとして、ある意味で思春期の少女を描かせれば、ムンクに勝る者はいない。
画家ムンクは少なくとも三十八歳まで孤独だった。神経症にも随分と悩まされていたようだ。それがもって生まれた性質なのか、それとも辛い記憶がそうさせたのか――。恐らくは後者である。その記憶という病から解き放たれた時、ムンクは本来あるべき姿へと戻ってしまう――姉ソフィエは発病前までは快活な少女だった。
或いはこの少女はムンク自身かもしれない。芸術は苦悶――別の言い方をすれば欠落の上にある。それをここまで体現した画家は他にあるまい。
参考資料:
中山 公男「ムンクへの旅(とんぼの本)」新潮社
鈴木治雄・長谷川智恵子「世界の名画100選」求龍社(おすすめ)
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