王様とみなし児


 昔々、あるとても豊かな国でのことです。王様は大きなお城でくらし おいしい料理を食べ、沢山の家来たちに囲まれて、だれの目にもしあわせそうでした。でも、王様には、あるなやみがありました。王様には、お妃様がいなかったのです。
 ですから、王様は『お妃となるものをもとめる』と、たて札をだしました。多くの女の人がおとずれましたが、なかなかいい人とめぐり会えません。そのせいで、国の仕事に専念できなくなってしまいました。
 そんなある日、一人のみなし児が、お城の前でたおれているのを、家来がみつけました。みなし児は、五歳の女の子でした。王様はそのことを耳にし、思いつきました。
「そのむすめを、わし好みのお妃にそだて上げよう」
 そこで、王様は第一の家来に相談しました。第一の家来はこたえました。
「王様のお妃様となろうお方ならば、美しく、そしてなにより、かしこくなければなりません。しかし、げせんなみなし児が、はたしてそれにふさわしいでしょうか」
「安心せい、わしによい考えがある」
 王様は、みなし児をに、沢山の難しい本と、鏡と、化粧道具をあたえました。さらに、ほかによけいなことを考えないように、部屋に閉じこめて、鍵をかけてしまいました。
「あと、十年すれば、すてきな妃になっておるだろう」
 王様は安心して、国の仕事に専念することができました。
 それから、十年がたって、王様はわくわくしながら、部屋の扉を開けました。でも、中からでてきたのは、きたならしい言葉をつかう、乞食のような女の子でした。
「これは、どうしたことだろう」
 王様は、あっけにとられています。その側で、第一の家来が言いました。
「読み書きと化粧のしかたをおしえるのを、おわすれだったのでしょう」

 王様は、また元のように、国の仕事に専念できなくなってしまいました。
 そんなある日、今度はお城の前に赤ん坊が捨てられているのを、家来の一人が見つけました。赤ん坊は女の子でした。王様はそのことを耳にし、思いつきました。
「その赤ん坊を、わし好みのお妃にそだて上げよう」
 そこで、王様は前と同じように、第一の家来に相談しました。第一の家来はこたえました。
「王様のお妃様となろうお方ならば、美しく、そしてなにより、かしこくなければなりません。そのためには、よい教育がなくてはなりません」
「安心せい、わしによい考えがある」
 王様は赤ん坊を教育係にあずけ、女神のように美しく、どんな学者よりもかしこくそだてるように、命令しました。
 教育係は必死になって赤ん坊を育てました。その様子を見た王様は安心しました。
「これなら大丈夫。あと、十五年すれば、すてきな妃になっておるだろう」
 王様は安心して、国の仕事に専念することができました。
 それから、十五年がたって、王様はわくわくしながら、教育係を呼びました。一緒についてきたのは、とても美しい女の子でした。王様は喜んで、女の子をわらわせようとしました。でも、まるでお人形のように、ぴくりとも顔をうごかしませんでした。
「これはどうしたことだろう
 王様は、あっけにとられています。その側で、第一の家来が言いました。
「笑い方をおしえるのを、おわすれだったのでしょう」

 それでも、王様はその女の子をお妃様にしました。女の子は笑わないことをのぞけば、とてもすばらしかったのです。
 王様はお妃様とくらしはじめました。でも、いっこうにこどもができませんでした。二年たっても、三年たってもだめでした。
 そうして十年がたちました。ある日突然、お妃様は病気になってしまいました。高いねつが出て、ベッドの上に苦しそうによこになっています。お医者様はいいました。
「お妃様は、お笑いにならないと、一年とせずにおなくなりになってしまいます」
 王様は、『お妃を笑わせたものには、千金をつかわす』というたて札を出しました。どうけしや、だいどうげいにんや、れんきんじゅつしまでも、いろんな人たちが、いろんなところから集まってきました。でも、だれ一人として、お妃様を笑わせることはできませんでした。
 そのまま、お妃様は死んでしまいました。

 王様は、ついに年寄りになってしまいました。今までじぶんかってに決めてしまったのがいけなかったと反省し、第一の家来にまかせてみることにしました。すると、第一の家来は、一人の女の赤ん坊を抱いてきました。
「わたくしめが、この赤ん坊を立派なお妃様にそだててみせましょう。あと、十五年おまちくださいませ」
 王様は、第一の家来にまかせて、安心して国の仕事に専念しました。
 第一の家来は、赤ん坊を田舎の農家に、こっそりあずけてしまいました。
 十五年がたちました。王様は、ついに寿命で死んでしまいました。
 第一の家来は、自分のむすこを新しい王様にして、農家にあずけていた女の子と結婚させました。とても美しく、かしこく、そして笑顔のはえる、すてきな女の子にそだっていました。
 新しい王様とお妃様は、なかむつまじく、しあわせにくらしました。

(終)


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