感想・批評(吉村萬壱「クチュクチュバーン」「ハリガネムシ」) |
吉村萬壱「クチュクチュバーン」(文學界新人賞受賞作)
文學界新人賞史上稀に見る奇作中の奇作ではないかと思う。しかしこれでなかなか読者に読ませる。内容は下らない。驚くほど下らない。その莫迦らしさときたら、作者の人間を疑いたくなるくらいである。(笑) しかし、よっぽどの人間でないとこれだけのものは書けないのである。もちろん技術や資質だけではなく、悪趣味という点においても、ですが。莫迦な話しであればあるほど、肥えた眼の読者を相手に、何十ページも読ませるのは難しいものだろう。
処女作の壁――吉村萬壱「ハリガネムシ」(芥川賞受賞作)
そして私は不安を増すこととなった。その印象は処女作の比ではない。作者は一転、告白病の私小説家に化けてしまった。いわゆる普通の小説を書いてしまったのだ。人間の裡に棲む「ハリガネムシ」とでも言いたかったのだろうが、しかしそんな使い古されたテーマを持ち出して一体何んになるというのだろうか。既に大作家と呼ばれる人達がやってきたことではないか。今更こんなものをやってどうするんだという気持ちから、途中から流し読んでしまった。私にしてみれば、その程度の価値しかない。技術だけで繋いだ作品に価値なぞ無いのだ。 |