感想・批評(花村萬月『王国記』)

 

   花村萬月『王国記』シリーズ(文學界)

 現在までには「青い翅の夜」が単行本になっていると思います。王国記第一章は芥川賞も受賞した「ゲルマニウムの夜」ですが、「ゲルマニウムの夜」本編だけでは足りず、「王国の犬」「舞踏会の夜」まで読まないとわけが解りません。実際選評を見ても、そうしたコメントがいくつかあったように思います。
 さて、この花村萬月――。一部では文章力がダメだとかそんな話しもありますが(笑)、私は好きですね。小難しく書けばそれで文章力があるという訳でもないと思いますし、それで文章力が左右されると思うなら、それは“読み”がまだまだシロウトなのだ。初期の頃はまだ確かに拙い面もありましたけれども、今は随分と巧くなったものです。全編を通して、非常に読みやすいリズムが活きていますので、あまり小説の得意でない人にも良いのではないか。
 内容は大変尾籠な話であったり、セックスやりまくりだったりしますが、この人の文体ですと、それほど気にはなりません。グロテスクな表現に少しばかり胸焼けが来ることもありますが、案外すらっと通り過ぎてくれますし、また、段々慣れてきます。(笑) こう、悪趣味でわざと書いているのではなく、日常的に自然と書いているからでしょうね。
 一人称によって書かれた小説なのですが、話によって各登場人物の視点へ移ります。主人公である朧の視点が何よりも面白い。文学は屁理屈だとでも言わんばかりです。(笑) 他の登場人物の視点というのはその朧の視点と比較しながら読んでしまいますし、それを狙って書いているのだと思います。
 昨今の(特に日本の)空虚な文学の中で、際立った作品作りをなさっていると思います。「皆月」が映画化されているようですし、それなりに売れているのにもそうした理由があるのでしょう。

 余談ですが、私はミッション・スクールの出身で、カトリック・キリスト教に対する疑念というのをいつも抱いていたのですが、そういった人には打って付けかも。カトリックの世界が欲望と堕落の温床であるという認識は決して間違いではないと思います(だからどうといういうわけでなく、彼らがおきれいな人のふりをしているのが気にくわないな)。告発文学としてもいいんじゃないか。


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