敬称略。
去る11/10(fri)、両国国技館にてダライ・ラマ14世の東京講演がありましたので、予告通り拝聴しに行きました。
ダライ・ラマもユニークですが、聴衆も実にユニークでした。浪人武士のコスプレをしたおじいさん(渋すぎ)とか、全身金ずくめの女性とか。それで一つのカップルなのが、驚きに拍車をかけます。
会場の運営は在日チベット人などで構成されており、プロのイベント屋がやっているわけではないそうです。事実、私もチケットの半券を切られずに入場してしまいました(切る意味もほとんど無いのですが)。
講演開始は7分遅れでした。ダライ・ラマが控え室を使わずに直接ステージへ来る、ということででしたが、案の定遅刻。
ステージに着くと、突如赤いサンバイザーを被る。爆笑が……。何事かと思えば「照明の眩しい会場では愛用している」とのこと。そうそう、眼が悪いんでした。いっそのこと、照明をいくつか落としてしまえばいいのに。
アリーナ席の前には報道陣がびっしり。一番前の人は報道陣の尻しか見えなかったことでしょう。しかもこれがなかなかいなくならない。(笑) ご愁傷様です。
講演はチベット語ではなく、ダライ・ラマが直接英語で行いました。英語と、日本語の通訳とではだいぶニュアンスが違いましたが、
通訳さんが喋っている間も、ダライ・ラマは鼻を噛んだり、笑いをとるのに大忙しでした。
前置きを要約すると、以下のようになります。
- 私はチベット仏教徒だが、仏教徒として日本の皆さんに話すのは、意味がないと思う。
- 今日はあくまで皆さんと同じ立場で、情報を共有していきたいと思う。
- 私はあくまで皆さんと同じ、一人の人間です。特別なことは何もない。
- 宗教とは関係のないごく一般的な倫理観こそが、人類に全てにとって幸福の鍵だと思う。
- ほとんどの人は実際には宗教に属していない。家でキリスト教や仏教を信じているといっても、大抵の人は真面目にお祈りに通ったり、修業に取り組んでいるわけではない。
問題の講演内容ですが、当日に風邪をひいていたことと、当日はテレコの持ち込みが禁止でしたので、あいまいなところがあります。
また、広島講演と内容は実質変わらないと思いますので、そちらの記事もご参照下さい。
- 爬虫類や、魚のような生き物は、子供を育てることがなく、生まれた子供は自然に育っていく。
- しかし、哺乳類や鳥類――特に人間は生まれて間もなくは本当に無力で、母親(または父親)となるものの庇護が無ければ生きていくことができない。
- 人間というものは相互依存と愛の生き物だ。愛が無ければ生きていくことはできない。
- また、幼い頃に愛を受けて育った人は、他の人にも愛を与えることができるが、押さない頃に愛を受けられなかった人は、愛を与えることが難しい。
- 人が生きる上で最も必要なのは、愛だ。
- 最も愚かな人はお金が必要だと考えるかもしれない。
- しかし愛をもって接していれば、困ったときには他人から助けてもらえるし、何より自分自身の気持ちがよく、健康にもいい。
- 古代の人達は精神性を非常に重視した。それは宗教という形などで現れた。
- 永年、人は物質的豊かさが幸福の鍵だと信じて、それを追い求めてきたが、そうではなかった。
- 現在、物質的に豊かな時代となったのに、幸福を感じていない人が多いのはなぜか。
- 人はどれだけ物質的に充たされていても、幸福になれるとは限らないことにようやく気づいた。
- 人は、精神性というものを置き去りにしてしまったが、本当の幸福はそこにあったのではないか。
- 日本では、子供が自殺したり、悲しい事件が起きていると聞く。日本の皆さんは仕事をしたり、テレビを見たり忙しいが、内面に眼を向ける時間も必要だ。
質疑応答編
もちろん全ては覚えていないので、記憶にある分だけを要約します。
○背後霊や守護霊は存在するだろうか?(中年男性)
- It's mystery...
○人生に迷ったとき、どうしたらいいですか?(壮年女性)
- なぜ失敗したか、どんな努力が足りないのか、自己分析が大事だ。
○私は何者かから操られる病気に罹っています。私は治るんでしょうか、また、私を操る何かとは何者なのでしょうか。(壮年男性)
- I don't know....(会場は大爆笑と拍手)
○法王の仰る思いやりが相手に理解されない場合、どうしたらいいですか。
- それは大変難しいことだが、(註:ほとんと忘れてしまいましたが、多分)それで相手を憎んだりしては、何の解決にもならない。(ということだったような)
○世界平和のためにはどうしたらいいですか?(若年女性)
- ドイツとフランスが一つの軍隊を共有しているように、二つ以上の国で軍隊が一つしか無ければ、少なくともその国同士では戦争にならない。
- 日本も近くの国――中国、韓国、北朝鮮などと一つの軍隊を共有すれば、戦争なんて起こらない。
- 世界中が一つの軍隊だけで済むようになるのは難しいが、世界規模でこうしたことが拡がっていけばいいと思う。
○法王が何か実践している健康法はありますか?(若年男性)
- 食べることと、寝ること。
- 私は仏教徒なので、夕食は摂らないが、その分だけ節約になる。つまり30分は長く睡眠をとっていることになる。
○日本でもカラチャクラを授与してください(中年男性)
- カラチャクラを授けるのは、とても時間のかかることです。日本の皆さんは忙しいから、途中で寝てしまうかもしれない
○法王さまの光パワーをわけてください(若年女性)
- 残念だが、私は光パワーなんてものは持っていない。
チベットに関する質問はなし。やはり聴衆も気を遣ってのことでしょうか。記者会見ではないので、そういうことには意味がないですしね。
ただ、広島公演にて、ラサへの青蔵鉄道建設に関しては、肯定的な意見を述べていたようです。
チベットハウス;ダライ・ラマ14世 チベットの経済発展に一定の評価
来日中のチベット仏教の指導者、ダライ・ラマ14世はこのほど、広島市内で記者会見し、今年7月に青蔵鉄道が開通し、チベット自治区のラサと上海、北京など大都市を結ぶことで、「チベットの経済発展が促進される」と述べて、同自治区の経済開発に一定の評価をみせた。また、ダライ・ラマは歴代の中国共産党指導者の中でも、トウ小平氏について触れ、「中国の改革・開放を推進し、現在の経済繁栄の基礎を築いた」などと語り、その経済運営の手腕を高く評価した。ダライ・ラマが中国の経済発展を肯定的に評価するのは異例。
歴史の転換点ですね。
今は、強硬に出るよりも、宥和を求めていった方が得策かもしれません。
中国が暴走せずに、もし中国側が譲歩、最終的にチベットが返還された場合、かつて日本が戦時中に満州や韓国に鉄道を造ったのと同じく、鉄道もチベットに譲渡されるはずでしょうし、長期的に見れば悪いことばかりではありません。
しかし、現実的にはなかなか中国はチベットを手放さないでしょうね。
現在、中国の選択肢は二つ。暴走か、宥和(崩壊も含めて)か。前者の可能性については、中国人自身も含め、全世界にとって危惧すべきことですから。
最後、何度も何度も合掌しながら去っていくダライ・ラマの姿が印象的でした。
Posted at 2006/11/17(Fri) 09:49:39
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