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ロバート・テンプル「シリウス・ミステリー」

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 邦題は「知の起源」
 この本は主にドゴン族の神話を、シリウス星系の異星人と接触した名残であると解釈する本である。また、シュメールやエジプトなどの文明がもたらされたのも、異星人によるもの、とされている。
 その手のネタを扱ったサイトは沢山あるので、いまさらこれについて詳しく解説する必要はないだろうから、簡単に説明する。
 肉眼では決して見えないシリウスBの存在を知っていたといわれるドゴン族。一見素朴な神話に見える彼らの伝承を現代の天文学で検証してみると、当時では絶対に知り得ないほどの高度な天文学を有していた。そして彼らは特別に重たいディジタリアと呼ばれる天体を信仰していたが、それは現代天文学では中性子星と一致し、シリウスCの存在を示唆しているという。
 また水かきをもった両生類のような姿をした水の神ノンモを崇める彼らの神話は、そこに高度な文明を持った異星人の存在を想起させた。

 これらのことにより、元々は文化人類学・民俗学的なものにすぎなかったドゴン族の伝承は、一躍、オカルトの地位を手に入れたのである。グリオールの研究成果から盛り上がったのではなく、テンプルの理論によって、オカルト好きの人々の周知するところになったのである。

 誤解のないように書いておくと、ロバート・テンプルのこの理論は、自身でドゴン族についての調査を行った結果ではなく、マルセル・グリオールらの調査をもとに、全て書斎で生み出された研究であり、一切の実地的な証明はなされていない。
 今で言うなら、ブロガーが一切の取材を経ずに、ネットサーフィンだけで記事を書くようなものに似ている。
 従って、ロバート・テンプルの理論しか知らない人物が、グリオールの調査結果に全く触れずにドゴン族の神話を『誰かが入れ知恵しただけ』などと否定することは全くのお門違いである。
 テンプルによってキリハリされたドゴン族の神話に触れると、全くトンデモな神話だと感じられるのだが、グリオールの調査結果を歪曲なしにそのまま読むと、ごくごく素朴な神話としか感じられないし、創世記や、シュメール神話などと較べてそれほどまで特殊ということはない。これに較べれば、日本の神話の方がよっぽど特殊である。
 また、これらの神話は無学な数人の原住民らの手によって捏造するのは、ほぼ不可能な量である。生活に密着した風習の説明など、相当に経験を積んだプロでも手に剰るほどの因果関係が説明されている。白人の誰かが脚本を与えるということも、グリオールが捏造することも難しい(当時グリオールが知らなかったであろう宇宙理論も、テンプルは採り上げている)

 まったく、ロバート・テンプルによる資料の抜き方は都合の良い部分ばかりであるが、以下の一文が添えられているため、悪意があってのことではないと思う。

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 ここで誤解を避けるために名言しておくが、グリオールもディテルランも人類学の研究であり、ドゴン族が地球外生命体と接触した可能性に言及したことは一度としてない。ドゴン族がいかにして知識を得たかという謎についても、「この問題は未解決のままである。いや、問題提起すらされていない」という記述にとどめている。

 着想・論理的思考についてはかなり面白いものがあるが、ややヒステリックな感じを受ける。この本は一種のファンタジーとして読むのが一番適切な気がする。

 この本で最も感心させられるのは、スフィンクスについての解釈。テンプルはヘロドトスの記述を基に、かつてスフィンクスはその胴体を巨大な人工湖の中に沈めていたのだろう、と推測した。
 実際の調査でスフィンクスには水の跡が見られ、大洪水によって水没していたのだという説や、海から運ばれてきた石が材料だという説など、様々あるが、意図的に沈められていたのだというのは、なかなかできない発想である。
 そして、その桁違いのスケールにこそ、当時のファラオならやりかねない、いかにもありそうなことだと思った。


 ところでこの本、高価なものなので図書館を利用したのだが、去年の8月に予約して、今年の1月5日にようやく廻ってきたものである。しかも区内不明でよそから取り寄せてもらったもの。
 最近は、高い本ほどこういうことがよくあるように思える。図書館はマナーよく利用して戴きたいものだ。

サイト内関連:
オゴテメリの語ったドゴン神話はごく普通の神話だった (マルセル・グリオール「水の神」)
「ドゴンの宇宙哲学 青い狐」 著:マルセル・グリオール他(6/13追記)

参考:
無限∞空間;スフィンクスの謎

Posted at 2007/01/26(Fri) 06:42:12

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