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文学・芸術など創作方面を中心に、国内外の歴史・時事問題も含めた文化評論weblog

第102回文學界新人賞


 木村紅美「風化する女」

 完成度。テクニック。とにかく読んですぐこれらの単語が頭に浮かんだ。ここ最近の文學界新人賞受賞作品の中では一番クォリティが高かった。ただし、受賞のことばはまるで中学生のようでかなり戴けない。小説は巧いが、人間の中身はスカスカなのではないかと、ついつい余計な心配をしてしまう。女性だから許されるだろうが、男性なら叩かれかねない。30歳なのだから、もう少ししっかりしたコメントを残して欲しい、と思う。それは恐らく作家の使命でもある。
 さて、肝心の小説について。テクニックは申し分なく素晴らしい。映像的語りのテクニックとでも言えばいいだろうか、何んでもないプロットなのに、しっかりとした小説として読まされてしまう。
 こういうテクニックは私にとって大の苦手とするところで、私には足許にも及ばないが、残念ながら私が賞賛するスタイルの小説ではない。いかにも日本の純文学にうってつけのスタイル、といえばいいだろうか。要するに器用にそつなくまとまっていて、現代日本の世俗や心理をリアルに描写した小説。星新一が『風俗小説』と呼んで批判していた部類に入る。だから私には巧いとは思えても、特段感心したり心を搏たれたりすることは断じて無い。どちらかといえば、嫌いなタイプに属するだろう。
 これから先、この人が作家として活動していこうと思うなら、きっと巧くやっていけるのではないか、と思う。

 島田雅彦奨励賞受賞の渋谷ヨシユキ「バードメン」まではちょっと読んでいる時間が無かった。――が、ちらっと斜め読みした感じと、選評を見る限りでは、新人賞受賞作とは正反対の作品と見た。ただし、それにタメを張るだけの知識と才能が作者にまだ備わっていなかった――ということだろうか。この作者は要修行である。テクニックは後から幾らでもついてくる。大バケすることだってある。

Posted at 2006/05/13(Sat) 13:21:20

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