「良い物さえ作っていれば人は理解してくれる」というやり方では生き残れない

 学習院大学経済学部教授、青木幸弘氏を朝日新聞の広告欄から拾ってみた。

店頭で自分の気に入った品を選んで買う。消費者にとってはごく自然なこの行為も、実は潜在的な深い信頼関係が根底にある。だから、企業の不誠実な行状に対する消費者の失望は計り知れないのだと、青木さんは言う。

「賞品や企業への信頼ってコツコツと時間をかけて育てられたもの。森と同じです。育てるのに数十年かけても、伐採によって一瞬に丸裸になる。ブランドや、のれんについた傷も一瞬に取り返しがつかなくなりますね」

 ブランドは大きく二つの要素から成り立っているそうだ。ひとつはバックルームの部分。いい品を安く、正確に作り出す力。足腰の強さにあたる。欠かせない、けれど真似もされてしまう部分。もうひとつはフロントルーム。付加価値を探し、他とは違うことをイメージとして伝えていく。そう整理して教えてもらうと、「良い物さえ作っていれば人は理解してくれる」というやり方では生き残れないことが分かる。

 「この商品を消費者にどう受け取ってほしいか、そのあるべき姿をまずはっきり描き、あらゆる機会を使って現実の溝を埋めていく。ブランドって派手な印象があるけれど、実は根気のいる、地道な積み上げでできているのです」

 その青木さんの話を国や自治体や、自分に当てはめてみると目を開かされる。良質な工業製品を作るニッポン。でも、顔が見えないと言われる。キャラが立っていないということだろうか。

 「今はさまざまな枠組みが大きく変化しています。カードをシャッフルしている状態・でもこの苦しさの中から次のブランドが生まれてくると思います。戦後の混乱の中からソニーやホンダが誕生したようにね」

 大学教授というイメージをはるかに越えて、青木さんはマーケットの現場を動く。数多くの企業へもインタビューする。それほど最前線は、日々刻々と変化していくそうだ。現在、停滞していたり迷っている企業には、「お宝探し」をすすめる。自社がよって立つ価値の源が蔵の中に眠っていないか、と。私たち人も同じだ。

 

 ISO9001:2000規格は、顧客の要求が常に変化しているからいつもその変化を見逃さないように「顧客の暗黙の要求事項を明らかにする」。単に製品やサービスの質だけでなく付加価値を探し出すためにはどうすればよいかが決められている。良質な製品を作る能力はすでに存在しているが、付加価値の創造力はまだ低い。設計や開発に携わる人たちは、まだまだ「供給者の論理」からの発想に頼っている。顧客志向になっていない。製品に付随させる付加価値となるサービスに対価を払う社会的な風土はまだ育っていない。しかし、製品よりもサービスが利益の源になっていく時代に変化している。付加価値を生み出すのは、機械ではない。人しかできない。人に焦点を当てることの重要性はますます高まっている。青木教授のいうバックルームの力を育てる志がなければ、企業は生き残れないだろう。


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