プロセスアプローチは要求事項ではない?

 月刊「アイソス」6月号で加藤重信氏(凸版印刷 ISO/TC176/SC2/WG18エキスパート)がISO9000の審査制度が、「非常に危機的状況にある」、「ヘタをすると崩壊するのではないか、こうした危惧まで抱いています」と述べている。審査登録機関がいかにいい加減なことをしているかはもうすでに周知の事実である。そこで「JABにも間違いはあるのだから、間違っていたことは間違っていたと言うようにしますので、その代わり審査登録機関もおかしなところがあれば直すように要求する姿勢を取ることにしました」そうだ。ここでいっているようにこれからはJAB側がきちんと対応することを大いに期待したい。

 さて、加藤氏の発言の中でこんなことが分かっていなくてどうするのだという危惧を持たざるを得ないないようなことがある。ちょっと引用する。

また、2000年版では規格の中に、「プロセスアプローチ」という言葉がでてきます。これが要求事項なのかそうでないのかというところが、実は大きな問題になっています。

 答えから言うとプロセスアプローチは規格の要求ではありません。なぜならば、規格ではプロセスアプローチを採ることを奨励すると書いてあるだけであって、別に要求するとはいっていません。そもそもプロセスアプローチが何であるかということも、明確には書かれていないのです。ISO9000:2000の初めの部分に品質マネジメント・システムの8原則として挙げている中に簡単な概念が示されているだけです。プロセスアプローチという言葉が適当かどうかは今でもよく分かりません。

 プロセスアプローチがどこから出てきたものかは不明です。確か35年ぐらい前にIBMが提唱したコンピュータシステム開発技法にHIPOというのがあり、盛んにプロセスといういうことが言われた時期があります。(中略)

 もう一つは、10-15年ぐらい前に騒がれた「リエンジニアリング」で、ここではプロセスの切り貼りのようなことが議論されていました。ISO9000:2000で採用することが奨励されているプロセスアプローチは、どうもこのあたりから出てきたのではないかと推測しています。しかし、プロセスアプローチが品質マネージメント・システムの構築、運用にとって有効な手段かどうかが検証された訳ではありません。

 

 これを読んで唖然としてしまった。まったく近代的なマネージメント・システムを理解していない。モトローラ社、GE社などでのシックス・シグマでは、以下のようにプロセスアプローチを説明している。すなわち、

  • 数値で自社のプロセスを説明できない企業は、自社のプロセスを理解できない。
  • 自社のプロセスを理解できないならば、それらを管理できない。
  • その会社の根本的な経済状態に関するプロセスを尺度で測定することが、クオリティを改善し、顧客満足を増大させる唯一の方法なのである。

 これが2000年版ISO9000に採用された基本的な概念である。そこでTC176委員会は、プロセスアプローチに関するガイダンスを発刊し、その説明に多くの情報を使っている。(注:日本規格協会の日本語翻訳では肝心なところを省略している。これが恣意的に行われているのかどうかは分からない。)それには、どのようにして規格のもっともむつかしい要求事項を理解し、プロセスの明確化を行い、システムを構築すればよいかの指針が出されている。ガイドラインが要求事項でないことぐらい分かる。しかし、このガイドラインには「ISO9001:2000の中では、組織の目的を達成するために、品質マネージメント・システムに必要なプロセスを洗い出し、実施し、それらの効果を継続的に改善すること、さらにこれらのプロセス間の相互関係を管理すること、を組織に要求している。」となっている。だから、「プロセスアプローチが要求事項でない」ならば、ISO9001:2000の4.1項 「一般的要求事項」を適用除外にするか、あるいは無視してもよいというになる。このように、加藤氏発言の論理性は破綻している。いやもっと言えば、TC176委員会の人が「それを言えばおしまいよ!」

 さらに付け加えると、マルコム・ボルドリッチ賞(日本経営品質賞と同じ)では、プロセスアプローチが主体的に採用されている。そして記憶が正しければ、2000年版ISO9000シリーズを世界中に配布した時に、TC176委員会の議長はCovering letterで大体次のように記述している。「今回の国際規格は、各国の経営品質賞につながりを強めている。だから、各国の経営品質賞に関連する機関との連絡をよく取るようにするとい」。ご存じの通り経営品質賞は、業績面での評価もあり、利益を上げていない企業には与えられない。だから日本の優良企業が取得している。これで分かるように、プロセスアプローチの効果はすでに検証されているのだ。「バランス・スコアーカード」という経営手法は、まさにその典型であり、多くの企業でその効果は実証されている。35年前のIBMの手法を引用したなどとは、いかに何も知らない人であるかをいみじくも露呈させてしまった。このようなことを文字にするのは個人攻撃を目指したのではない。間違いは正すべきであるという単純な気持ちからであるだけでなく、無批判が横行する日本社会にはしたくないという志を表しただけである。

 とはいえ、かくなる人がTC176委員会の日本代表者の一人であること自体に暗澹たる気持ちになる。確かなことは知らないが、TC176委員会のメンバー、もしくはその弟子に相当する人の研修を受けることが監査員の再認定の条件であるという日本の仕組みがつくられたと聞く。自分たちの利権を守ることに汲々とする役人たちの姿そのものが目に浮かぶ。あわれなるや、日本!滅ぶしかない日本か?!!!


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