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顧客重視? ISO9000:2000の日本規格JIS Q 9901では、規格原文の「Customer Focus」を「顧客重視」としている。「顧客に焦点を当てる」ということと「顧客を重くみる」とは違うのではなかろうか。顧客に焦点を当てるためには、「企業での業務プロセスは顧客から始まる」ことをISO9000:2000は明示している。一方、日本語での顧客重視には、「お客様は神様です」を代表例にして表現されているように「供給者は顧客をよくよく見なくてはならない」を意味している。この言葉は今更の感がする。「顧客の目線に合わせて」、「顧客の声を聞く」などは古くから言われてきたことである。しかも、多くの場合は、政治家の公約のごとく口にはするが実行はしない「リップサービス」であった。特に、バブル経済が終わる90年代の終わりまでは、供給者の論理で経営者は物事を決め、進めてきたとしか言えない。規格大量生産に基づく製造業がその代表例である。「やすくてよいモノ」ならば必ず成功するという確信である。 ところが、世の中は一変し、顧客のニーズや期待は多様化し、しかも急速に変化する時代になった。当然ながら、供給者の役割は大きく変った。顧客の求めている製品やサービスは何かを見極めることが仕事の始まりであり、その要求事項に基づいて設計したりまたは開発し、顧客の求めに応じた価格で顧客の指定した時間に納入するのが当たり前となった。これに対応できない企業は、市場からの退場が待っている。 「顧客のニーズと期待」と一言でいうが、顧客自身が理解できていない場合だってある。暗黙のニーズである。これを理解するには、顧客と直接何度もなんども話し合うしかない。顧客の心の中にある期待やニーズだから自然に口や絵に出てくるまで話し合う。聞き役に徹する、または激論を戦わすことも必要となろう。規格の「顧客関連のプロセス」は、事細かくこれらを行うように要求している。しかし、規格の要求事項だけが出来ていたとしても、とてもではないが「顧客のニーズと期待」を明確に出来ない。そこで、「経営者の責任」のひとつ、「顧客重視」が出てくる。世の中の流れにしたがって変わる「顧客のニーズと期待」を適格に捉えることに敏感な経営者が強く望まれている。自社の業務プロセスが「Customer Focus」になっていないならば、彼は果敢に変革に取り組むはずだ。自社の変革なくして将来の発展や成長はないと本当に感じる経営者が日本で少ないことに危機感をおぼえる。 現役時代、経営者がいつも競争相手として選んでいたダウ・ケミカルの社長兼CEOであるマイケル・パーカー氏の講演(NY経営セミナー、2001)の一部を紹介しよう。 第二は「社内改革には強いリーダーシップが必要」という点。企業文化を変えるにあたり、CEOはイメージをわかりやすく伝える義務がある。私は極力、社員と対話するよう心がけてきたが、いつも思うのは、社員に起業家精神を埋め込めるかどうかCEOの腕次第ということだ。 三番目は「持続的成長が可能な組織づくり」だ。当社は「成長センター」という施設を設け、世界のベスト・プラクティスを社員が勉強できる制度をつくった。私はこれを「社内インキュベーター(ふ化機関)」と名づけて社員教育の中枢に位置づけている。 最後は「一度、従業員が成長の意欲に目覚めたら、彼らのアイデアを外に向けて発信させてあげる受け皿」だ。当社のイントラネットに、従業員が事業に関する自分のアイデアを発表できる「フリー・マーケット」というコーナーをつくった。そこに登場したアイデアはこれまで二百五十。そのうちいくつかは、具体的に事業に取り入れた。このほか、お互いのアイデアを共有しあう機運が出て社内の一体感を高める効果もあった。 ISO9000:2000の策定にあたって採用された八つのマネージメント原則の多くがこの講演で紹介されている。プロセス・アプローチ、リーダーシップ、社員の参画の三つは少なくとも取り込まれている。ISO9000:2000を賛美するつもりなど毛頭ない。しかし、「社内改革のツールとして」活用することはできる。
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