日本に正しいマネージメント・システムのコンセプトを普及させる必要あり

 昔お世話になったある監査機関から資料が送られてきた。その中で「ISO9000・QMSについて」と題した内容に強く共鳴した。「共鳴した」と言うより私がいつも主張していることと同じことであると表現した方が正しい。早速紹介しよう。

ISO9000が急激なスピードで日本に導入・普及されたことや、日本の企業文化の流れからISOのマネージメント・システムのコンセプトが理解しにくいこともあり、ISO9000/Quality Management Systemは当初から「品質管理システム」と訳され「工程管理」的な狭義の意味で捉えられてきた。そのため、これまでのQMSを導入してきた企業・組織は、いかに業務プロセスを文書化し、決められた通りに実施するかの管理に焦点を当ててきた。日本の審査機関にも「それはどこに文書化されていますか?」ということを過度に問う傾向があるため、受審組織は次々とシステムの文書量を増やさざるを得なくなり、結局、膨大な文書管理に追われてしまっているといった声や、審査機関が文書や記録に焦点を当てて審査しすぎる傾向があるため、作業現場における審査が希薄になったり、文書や記録等の細かい点にこだわり本質から外れた審査になってしまっているといった声も多く聞かれる。

 これらの例が示す通り、日本ではマネージメント・システムの本質が正しく理解されていないため、これまでいくつかの弊害が生じており、ISO9000は企業経営のメリットにはつながらず、コストと手間(特に文書の作成と管理)のみがかかる厄介なお荷物になるというイメージを持たれているこtもある。

 これは極めて残念なことです。Management Systemとは「管理システム(狭義の意味)」ではなく「経営のための仕組み」すなわち経営のツールを意味するものです。したがって、本来、企業・組織にとって意味のある、すなわちメリットをもたらすものでなければならないはずです。

 世界中に広がるXXXのお客様にはISO9000やISO14001の恩恵を最大に受けている企業・組織が多くおられます。XXXは、日本国内で構築・運営されているマネージメント・システムについて、より戦略的かつフレキシブルな発想で、より効果的に運用できるよう工夫することが必要と考えます。XXXは、お客様のシステムがもっともシンプルで、かつ最大の効果を生む「仕組み」となるよう、本質的な審査をおこなうことによって、お客様をサポートします。」

 

 審査機関名がでてくる後半は省略したかったが、「シンプルなシステム」や「本質的な審査」など重要なことを云っているのでそれができなかった。

 ここでも云っているように、ISO9000の仕組みは経営のツールなのだ。このことを昔講演でいったところ「ISOが経営にまでタッチすることはいかがなものか」と云った人がいる。その人は、日本で相当ISOについては強い影響力をもっている方である。この事実は、残念ながらISO9000を単なる「品質管理」や「品質保証」と捉えている方々が多くいることを示している。2000年版ISO9001やそしてISO9004の規格を見てもまだそれに気づかず、気づいても同意しない人が多くいる。自分の「力量」では咀嚼できないとか、今までの云ってきたこととの整合性がなくなるなどいろいろな事情が背後にはあるのだろう。しかし、自分の知恵や知識を商品として顧客に提供する立場であることに早く気づくべきであろう。もしそれができないならば、この世界から早く退場すべきであると云いたい。 

 最後に、文書化の単純化が2000年版ISO9000では可能だし、いままで「重い文書化」でご苦労されている方は、以下の記事を参考すればよかろう。ISO専門雑誌「あいそす」2月号、ロイド・レジスター・アシュアランス・リミテッド 伊藤祐介氏「審査最前線からの泥臭いレポート:03」からの引用である。

品質マネージメント・システムの設計が、規格ではなく、組織のものである以上、もはや文書化すべき手順は6と限定し、それ以外の、どのような手順を文書化するのかは、組織のオプションとなったと考えます。また、規格の要求事項がパーフォマンスである以上、ISO9001:2000に基づく審査員は、(1)手順書内容がISO9001:2000の要求事項に違反している場合、あるいは(2)手順書の内容の不備が原因で、実務が有効に運用されていないことを発見した場合の二つの場合のみ、手順書の内容に言及できますが、それ以外は、単に、手順書の内容が不十分と言うだけで、不適合であるといえなくなりました。この観点から見ると、ISO9001:2000の改訂は、審査する側に、大きな変換をもたらすものと言えるのではないでしょうか。
 

 2000年版ISO9000のコンセプトをよく理解していただきたいと過去二年間努力してきたが、当初は耳を傾ける人は少なかった。規格は、企業のためにあるのであって、「規格ありき」ではないことを正しく理解していただきたい。


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