製造業の競争力の向上には

     
     資材調達や組み立て、物流など各部門はばらばらに動きがちだ。これを解消するには、本社が前面に出て各部門をコントロールするのが早道になる。NECは四月二日付で、資材調達方法や在庫管理、物流などを現場に指導する全額出資子会社「NEC生産システム」を設立する。収益体質強化のため本社が生産部門の改革を引っ張っていく姿勢を強めている。

     日本企業の生産効率向上は生産現場の自主的な改善提案に支えられてきた。しかし製品サイクルが短縮し、余分な資材調達や作りすぎの無駄を排除しなければならない今は、資材調達から生産、物流、販売という全体にわたってモノの流れを整える必要がある。組織内での改善活動だけでは生産効率向上はままならない。全社的な新しい仕組みを打ち出すなど、本社の役割は重みを増している。

     「仕組み」の刷新が現場の社員を刺激し、予想以上の効果を生む場合もある。キャノンは1998年以降、ベルトコンベヤーを使った流れ作業を順次廃止。プリンター、複写機などの製品一台を一人で組み立てる「セル生産」へ国内の全工場を切り替えた。

     ベルトコンベヤーでの単純作業から解放された社員から数多くの知恵が出てきた。茨城県・取手事業所では組み立て中の複写機の移動にはそれまでクレーンを使っていたが、運搬用の台車に製品を載せる手作りのスロープを開発。製作費は三万円で、設備コストを大幅に削減できた。百三十万円で購入していた製品性能検査用の測定器は余計な機能を落として七万円で内製化。同社はこうしたアイデアを「知恵テクノロジー」、通称「知恵テク」と呼ぶ。

     (途中略)

     本社のあり方を見直し、事業再編案をつくる企画部門に財務・経理部門などを加えてグループ経営の司令塔として再編成、米国流に「コーポレート」と称する動きも広がり始めている。事業の組み替えと同時に重要なのは、コア(中核)と位置づけた事業について足腰となるモノ作りの改革シナリオを描くことだろう。(日経新聞 3/31/2001)

  2000年版ISO9000のプロセス志向を説明する資料がTC176委員会から正式に発表されている。下図は、その一部であり、NECやキャノンでの事例がその理解に役立つ。ISO9000には、本社の企画部や財務部は関係ないと思っているなら大間違いだ。2000年版ISO9000での製品の具現化プロセスとは販売、資材調達、設計、生産、物流が水平的に連結し、しかも部門の壁を取り除き部門横断的に機能させることがまず必要だ。そしてトップマネージメントとして企画部のような部門が全体のプロセスを俯瞰的に見渡し、全体の具現化プロセスのデータを収集・分析する。どこをどのように改善すれば、顧客の満足を向上できるかを見つけだす。顧客満足の三要素は、品質、価格、そして納期である。これらを満足させないと競争力は生まれない。また、支援プロセスには人事部や総務部が関わり、教育プログラムの作成や作業環境の改善に尽くす役割がある。

(出展:日本規格協会ホームページ)

 それにしても、いまごろ「セル生産」ですか。スエーデンの自動車会社は十年ほど前に始めている。米国のコンピュータ会社でもとっくにこれを採用し効果を上げている。大量規格生産方式で「安くてよいモノ」を作ることができたとしても、人間の知恵を生かすことを忘れていたのだろうか。いまごろ本社の人間が現場に出てきてなんだかんだということに現場の人たちは納得できるのだろうか。いったい今まで財務や人事は本当に効率よく仕事をしてきたのだろうか。多くの疑問が残る。


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