コミットメントとマネージメント・システム

 売上高営業利益率4.5%を目標としてきましたが、次の目標は。

 「4.5%は目標ではない。公約だ。何が起こっても実行するのが公約だ。次の目標は6%にしている。今後、投下資本利益率などの目標数値を設定したい。」

 日本経済再生のカギはどこにありますか。

 「三つある。まず、自らの能力を信じ勝者となるんだという自信。次にゲンバ(現場)がしっかりして忠誠心、モチベーションが高いという潜在力を引き出すことだ。世界で多くの現場を見たが、日本の質は世界一。三つ目は実行できる人々に権限を与えること。すべての階層で権限を大胆にいじょうすべきだ」

  (日経新聞 トップに聞く企業戦略 March22/2001)

 

 これは日産自動車のカルゴス・ゴーン社長が記者の質問に答えたことの一部である。彼が「公約」と言ったのはコミットメントのことだ。2000年版ISO9000でのコミットメントを理解できるだろう。そして、日本企業の現場の質が世界一だと云っていることには同じような経験から判断して同意見だ。だから、2000年版ISO9001の製品の実現については、何も追加的なことをする必要はないと強調している。もっと必要なことは、経営者の責任でやらねばならないことが多くなると思う。ただし、京セラ名誉会長 稲森 和夫氏のように欧米の「マネージメント・システム」を明確に判断できている経営者には、それとて必要なかろう。NY経営セミナーでの稲森氏の基調講演の一部を紹介する。

 
欧米では海外でも自国と同様トップダウン方式で「ピラミッド型」の徹底的な支配構造をとる。日本の場合海外で経営トップを変えても、組織運営はマイルド(穏和)で、権限と責任体制も明確でなく、すべての事柄が話し合いや根回しで決める。

 また、欧米では異民族、異文化の中での仕事を標準化するために「マネージメント・システム」を確立した。日本人が海外ビジネスを始めたときに、このシステムを安易に用いようとしたが、平和な農耕民族の日本人が民族や国家衰亡の危機感の中で鍛え抜かれた欧米流のシステムを形だけ取り入れても中途半端なものにしかならない。これが日本企業による「国境を越えた経営」を難しくしている根本原因ではないか。日本的でも欧米流でもないどっちつかずの経営を行ったために海外においてなかなか事業を進められないのだ。

 日本の精神性を表す誠実、正直、真摯、謙虚、感謝、慈愛などの言葉は洋の東西を問わず、人間が最も大切にすべき規範となっている。とすれば、世界のどこでも通用する普遍的な人間のあるべき姿を表すもので、倫理観は現在のビジネス世界でも求められているものだろう。それゆえ、日本人が海外で事業を行うとき、日本文化が培ってきた日本人の精神性、倫理観を自信を持って前面に押し出すべきと思う。現地の実情に即し、学ぶべきものは学び、真の意味での「和魂洋才」を実現できれば、日本人の経営は必ず国境を越えることができるはずだ。

 ところが大抵の日本企業が米国に出てくると、「アメリカ式の経営をしたい」と頭で考えても、結局のところ本社とのコミュニケーションを考えてトップは日本人を持ってくるというような行動をとる。そこからしてもう徹底した米国型経営などできないわけだ。こうしたどっちつかずの態度でうまくいくわけがない。(日経新聞 March 22/2001)

 

 「マネージメント・システム」は広大な大陸で経営を行うために必然的に必要になったと考えていたが、稲村氏の論理にも納得させられる。だがもっと重要なことは、日本人の精神性だ。誠実、正直など日本人の最も誇りにしてきた精神がもろくも失ったように思うのは私一人だろうか。むしろ、アメリカ人やドイツ人の方が誠実さでは優れていると感じている。リタイアしたこんな人間であっても昔からの友人として扱ってもらっているからだ。

 あまり知られていないが、アメリカでいま5S運動を実施している企業がある。日本より「しつけ」がしっかり行われているアメリカで5S運動を取り上げていることにはすこしばかり驚いた。ISO9000なんかに取り組むのではなく、5S運動の方がいま日本企業に必要なのではないだろうかと思うときがある。


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