リーダーシップの発揮

 品質マネージメントの8つの原則にはリーダーシップの発揮を求め、2000年版ISO9001ではコミットメント、内部コミュニケーション、さらにマネージメント・レビューでトップマネージメントが改善の決定を行うなど強いリーダーシップが要求されている。リーダーシップの発揮についての典型は、日産自動車のカルロス・ゴーン社長である。下請け企業を系列から切り離したり、工場閉鎖など批判もあろうが、予想を上回る利益を計上し、今年の賃上げも率先して組み合いの要求を受け入れた。さらに見逃してはならないことは、部門横断的なプロセス志向で新車を開発し、予想の何倍かの予約を受けている事実である。この成功は、顧客の視点からの価値創造の連鎖がいかに重要かを具現化した。一方、日本政治のリーダーシップの欠如が経済不況を深刻化させている。リーダーが効果的な施策を講じなければ、世界の経済を破局に招くことにもなりかねない状況を作る結果になることも知らしめた。いったいどのようなリーダーが二十一世紀に求められているのだろうか?一橋大学教授 米倉誠一郎氏の意見を日経新聞(2001年3月11日)から引用する。

 

二十一世紀のリーダーに必要な条件は何でしょうか?

 第一に、数字が分かること。資本効率の重要性が分かり、財務戦略が策定できることです。例えば百億円売り上げるのに、コストがいくらかかるか。時価総額をどう高め、株主に何をどう還元できるかという、資本効率をきちんと計算できる能力です。これは世界共通で、グローバルプレーヤーの自覚にもつながる。

 第二に、構想力です。別の言い方をすれば、人々にその組織にいたいとか、そこにいると面白いことが起こると思わせる力です。そこでイノベーションが相次いで起きるとか、思いもよらないアイデアが湧き出るとか、新しい次元を開いてみせる力です。

 第三は社会の中で富を創造する力です。自分たちはこんなソリューション(解決策)を人類に提供しているという信念を社員に与える。実現すれば大きな報酬を得られるビジネスモデルができれば、みな頑張ります。ITはなくても人類は死滅しませんが、食糧、エネルギー、環境などがなければ、二十一世紀はありません。その根本的な問題解決に貢献する事業を創造する力です。

ー日本は組織中心の独特の資本主義で、米国のような個人型のビジネスリーダーは出にくいという見方もありますが。

 リーダーの型は組織型と個人型に分かれると思います。日立製作所や日本電信電話(NTT)などの大企業からゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチやIBMのルイス・ガードナーのような人が出るべきだが、一方、新事業を立ち上げる起業家もどんどん出なくてはいけない。

 リーダーシップは空から降ってはこない。それは時代の動きに興奮した人たちが作り出すものです。幕末にアジアで日本だけが独立できたのも、二百六十年の幕藩体制下でうっ屈していた人々が大きなチャンスが来たと興奮したからです。第二次大戦後の復興も井深大や本田宗一郎などが、これからだと立ち上がったからできたのです。

 しかし単に危機がリーダーを生むわけではありません。今起きていることが本当に面白いと思い、世界で一番興奮する人間たちを集める磁石があり、次々に起業家が出る条件を備えたところだけがリーダーを生み出せます。このプロセスで最大の要素は、挑戦した人間を賞賛し、正当に報いるという国民の意思であり、世界をよくするという高い志だと思います。

ー強いリーダーを出すには、何が大切ですか。

 精神論以外でリーダーに何を求めているか、明確にすることだと思います。それがあれば、日本企業もどんどん良くなってくる。「つつがなく四年を過ごしたい」というのと。「何年何月までにシェア(市場占有率)、資本利益率、時価総額をいくらにする」では全然違います。日産のカルロス・ゴーンのように、出処進退を明確にして公約(米戸注:コミットメント)を打ち出せば、改革も断行できます。危機感の認識程度にもよりますが、企業の改革を量的な数値目標にできる人間こそリーダーです。

 2000年版ISO9001で、コミットメント、品質方針、数値化された品質目標、部門への展開、目標達成のための計画、変革を含む継続的改善などがみなさんの企業でよきリーダーを生み出す結果になるように願う。


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