「顧客志向の徹底」「顧客満足の向上」が叫ばれて久しい。九十年代に入って顧客満足向上の専門組織を設ける動きは急速に広まり、ほとんどのメーカーは消費者の嗜好調査をしている。だが、顧客満足という言葉だけが躍ったり、単にアンケート調査に終わってきた面がなかったか。長引く個人消費の低迷に手をこまねく様子が浮かび上がってくるのは、各企業が依然として供給者側の論理から抜け出せず、顧客志向を追求できていない点だろう。
顧客満足の向上を接客態度の改善や苦情処理の迅速化など、表面的にとらえてきたところに問題があった。本気で消費者の側に立とうとすれば、もっと奥にある部分の改革を迫られる。旭化成の住宅事業部門は、補修用の住宅資材の調達や消費者への情報開示の見直しが課題になっている。
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顧客志向の実践は事業の進め方の見直しや透明度の向上など、企業システムやカルチャーの変革と一体だ。米企業の間では取締役会の内部機関で、社外取締役で構成する監査委員会が、業績や法令順守など企業倫理面に加えて顧客満足の取り組みもチェックする動きが出てきている。顧客志向を経営改革と表裏一体で追求しつつあり、日本企業は競争力でさらに後れを取る恐れもある。
花王は研究員が消費者の家庭を訪問してニーズを探り出すなど顧客志向の努力をしてきたが、洗剤など主力のトイレタリー商品の売り上げは今年度、消費低迷の影響で九六年度実績に対しほぼ一割落ち込んでいる。「わが社は大きな岐路に立っている。抜本的な革新を迫られている」(後藤卓也社長)と危機感を持つ。顧客志向が掛け声に終わってきた企業のなすべきことが山ほどある。(出展:日経新聞 2001年3月11日) |