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手順書などの文書作成を合理的に行う方法はないのか?はじめに Softech Inc.社によって開発されたThe Stractured Analysis and Design Technique(SADT)を応用してみると複雑なシステムの文書作成に有用であることが分かった。さらにこの手法をISO9000の文書作成のために改良したのが、Documenntation Needs Analysis(DNA)(資料出典:The No-Nonsense guide to achieving ISO9000 Registration,Robert J.Craig,1994)と名付けられた。DNAは、いかなる活動であっても文書と必要な教育訓練を明らかにできるという特徴を持っている。また、DNAは、ある活動のモデルを作り上げることにも用いられる。フローチャートによく似ていて、インプット、アウトプット、管理要素、技能、および何かをなし得る能力を分析する手法である。DNAの基本的な手法は、下図のように表現できる。
DNAを文書化に応用するための手順を以下に示す。 1.モデル化する活動を明らかにし、主要活動ブロックに書き入れる。これは、親ブロックとなり、業務活動に関連する詳細を追加していく基礎となる。 2.主要ブロック活動を実践するために必要となるインプット、たとえばある事柄、情 報、データを決める。これらのインプットは左側から主要ブロックに向けた矢印で示す。 3.主要ブロックの業務活動に望まれる成果アウトプット、たとえばある事柄、情報、データを決める。これらのアウトプットは主要ブロックから出て行く右向けの矢印で示す。 4.第一階層の文書化ニーズ(たとえば、方針、要求事項)を決める。この文書化ニーズは、業務活動に対する期待事項(インプットから生まれる期待されたアウトプット)に相当する。この要求される文書化ニーズは、主要ブロックに向けて下向きの矢印で示す。 5.主要ブロックでの業務活動を効果的に実践するために必要となる望ましい能力(すなわち、教育・訓練ニーズ)を決める。教育・訓練ニーズは、主要ブロックに向けて上向きの矢印で示す。 6.主要ブロックの業務活動を3ないし5の詳細業務に分割する。この分解作業を個人でやるにしても、チームで行うにしても、あまりにも詳細に分割して「泥沼にはまりこむ」ことを避けるために、最大五つの業務活動にとどめるべきである。一方、もし主要ブロックの分解作業が最低三つの業務までどうしても分解できなければ、すでに十分分解はできていると判断する。このように、このステップは、分解作業の詳細さレベルをコントロールし、業務活動の要素分解を非常に合理的に行うことができる。 7.分解されたそれぞれの業務に対して、主要ブロックの時と同じくインプットとアウトプットを決める。新しい業務活動ブロック一つ一つに入っていく矢印と出て行く矢印ができる。 8.分解されたブロックのすべてをリンクさせておのおのの活動の相互関係を明らかにする。 9.それぞれのブロックの業務を行う場合に必要となる管理すべき文書(手順書、作業指示書、フォームなど)を決める。ここで云う文書とは、品質マニュアルの品質方針や要求事項を満たすために必要となるもので、一般的には第二階層以下の文書を指す。これらの文書名をブロックに向けて下向きの矢印で示す。 10.分解された業務活動を行うに必要となる特定された技能や知識を決める。この情報によって、教育・訓練の内容を明らかにできる。ブロックに向かって上の方向の矢印で示す。 11.ここまでの作業で出来上がったダイアグラムが十分に細かい部分まで含まれているかどうかを確かめてみる。もしも決めた文書が業務全体を望ましい方法で行うことができるものになっていれば、この分析作業は完成したことになる。しかし、まだ不十分で、追加しなくてはならない業務があると判断された場合には、その業務の分析をさらに進める。このような場合、その業務が親ブロックとなり、3ないし5の詳細業務に分割する。そして、ステップ7からステップ11までの作業を行うことになる。 以上がDNAの手法手順であるが、さらに理解しやすいように購買業務に用いられる手順書を作成する事例を使って解説を行う。 第一ステップ まず、広義の購買業務を主要な活動としてブロック(親のブロックと言う)の中心に置く。このブロックに対する全体的なインプットは、購買の要求となる。すなわち、ある資材、もしくは役務を社外から購入するように誰かが決めたことである。購買者の要求事項を満たす資材、もしくは役務が購入されることがアウトプットとなる。購買業務の全般に亘る管理すべき要素は、最上位文書である品質マニュアルにある要求事項となる。ISO9000規格では、以下の要求事項がある。すなわち、
●指定した要求を満たす能力に基づいて供給者を選択すること。 このように、ISO9000規格の要求事項の要素を単純化させ、業務の文書化が必要な「管理要素」とし、下図に示すように、ブロックの上部に置くことがポイントとなる。これらの要求事項は下向きの矢印で購買業務の主要ブロックに向けられている。 一方、主要ブロックの業務を行うために「必要となる教育、知識、技能」などをブロックの下部にまとめ、ブロックに上向き矢印を付ける。この場合に必要とされるスキルは、購買方針、要求事項、および全般的な購買システムを理解することである。
これが基本コンセプトで、必ずこのルールに従って以下の段階に進む。 第二ステップ 第二ステップは、主要ブロックである購買業務をさらに詳細で特定の業務にブレークダウンする。この事例の場合、下図に示すように、四つの作業にブークダウンした。すなわち、
●要求事項を明確にする業務
当然ではあるが、これらブレークダウンされた業務は、企業の業種や規模などによってさらに多様化する場合もある。そのように複雑な業務の組み合わせであったとしても、全体的なインプット(この場合は購買要求)に始まり、アウトプット(この場合は「購買品」であるが、図では表していない。)は第一ステップと同じになるようにブレークダウンする必要がある。 また、ブレークダウンされたおのおのの業務間での接点となるインプットおよびアウトプットも明確にすることになる。たとえば、図には示していないが、「要求事項の特定」から「供給者の選択」へのインプットは、「要求する」となる。 第三ステップ 第三ステップは、基本コンセプトに基づいて、それぞれブレークダウンされた業務に対して「文書化が必要な管理要因」と「必要となる教育、知識、技能」を明確にする作業である。しかし、その前に行うべき作業がある。それは下図に示すように、「資材受領」という新たなインプットを「品質の検証」ブロックに付け加えることである。このインプットが追加されたことによって、「実績・性能データ」と「返品」という追加的なアウトプットが生まれる。
次に、新たな「文書化が必要な管理要素」をISO9000規格に基づいてブロック上部に追加されなければならない。たとえば、供給者リストが「供給者の選定」ブロックに付け加えられている。このステップの作業を完成すれば、手順書などの作成準備が終わる。 第四ステップ 第三ステップで作成されたフロー図に従って文書化作業を行う。購買業務は、四つの業務にブレークダウンされているので、手順書(管理規定でもよい)は四章立てになることは容易に理解できる。しかも、おのおのの章では、ブロックの上部に表記された「文書化が必要な管理要素」を文章に書き直すことになる。 しかしながら、ここまでのブレークダウンではまだ手順書を書き出すには不十分なものがある。たとえば、「品質の検証」の場合では「実績・性能データ」と「返品」に関する業務内容をどうするのかまだ不明である。また、「供給者の選定」の手順についてももう一段ブレークダウンしなければ、このままでは手順書を書き出すことはやや困難を伴う。 次のステップに移る前に指摘しなければならないことは、ブロック下部に示された項目の使い方である。第一ステップで説明しているように「必要となる教育、知識、技能」などであるから、いろいろな業務に携わる社員の教育・訓練内容を明確にでき、品質システムを全面的に導入する際の教育計画の作成に用いられる。 第五ステップ 第四ステップでのブレークダウンでも不十分な「品質の検証」ブロックに対してさらにブレークダウンを行った事例が下図に示されている。
これ以上のブレークダウンは必要なく、このフロー図から手順書や要領書を書き出すことは非常に簡単になる。ここでもブロックの名称が章の名前になり、それぞれの業務の手順を箇条書きすればよい。実際には、主語を必ず決める。たとえば、資材検査においては「検査担当者は、受領した資材からサンプルを採取し、寸法検査および外観検査を行う。」が一行で、さらに、「検査結果が仕様書に記載された規格値内にある場合は、合格と判定する。」と言うように文書化を行う。 おわりに このDNAの手法をISO9000要求事項の各項目ごとに行えば、自社の品質マニュアルや第二階層以下の文書作成が容易となる。たとえば、各部門の長から構成されたISO9000推進委員会のメンバーが合同でこの手法を用いて、文書体系を作るなどにはその本領を発揮する。 また、この手法を利用すると手順書などの文書化が容易となる利点ばかりでなく、必要となる教育訓練計画を立てることができる。また、上司がこのフロー図を使って社員と話をすれば、現在行っている業務を効果的に見直しができる。場合によっては、配置転換をした方がよいとする判断が必要となる。その際にも社員とのコミュニケーションをこのようなフロー図を使えば、社員の納得も得られやすい。ISO9000規格に準じた品質システムを構築するだけでなく、このような手法を使って、さらに合理的で効率のよい業務の仕組みづくりが伴わないと導入の効果は期待できない。この点を欠落させて構築した品質システムを運営しているがために、『こんなISO9なんかいらい』という企業が出てきているようだ。いらないような品質システムを作らないためには、現在の業務活動がいかに効率的であるか、従業員の教育・訓練には何が必要かをまず分析すべきである。それを命じるのが経営者の責任であることを肝に銘じるべきと指摘してDNA手法の解説を終わる。 |