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品質マネジメントシステムーISO9001:2015
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5リーダーシップ
5.1リーダーシップとコミットメント
5.1.1品質マネジメントシステムに関するリーダーシップとコミットメント |
トップマネジメントは、品質マネジメントシステムに関するリーダーシップとコミットメントを以下のことによって実証しなければならない。
ー品質マネジメントシステムの有効性の責任をとること;
ー品質方針および品質目標が品質マネジメントシステムに対して確立され、それらが戦略的な方向性と組織のコンテキストと両立することを確実にする;
ー品質方針が組織の中に伝達され、理解され、適用されることを確実にする;
ー組織のビジネスプロセスへ品質マネジメントシステムの要求事項を統合させることを確実にする;
ープロセスアプローチに関する意識を向上させる;
ー品質マネジメントシステムに必要な資源が利用可能であることを確実にする;
ー有効な品質マネジメントの重要性と共に、品質マネジメントシステムの要求事項に従うことの重要性を伝達する;
ー品質マネジメントシステムがその意図した結果を達成することを確実にする;
ー品質マネジメントシステムの有効性に付与できるように人びとを団結させ、指揮 し、支援する;
ー継続的改善を促進する;
ーその他の関連する管理層がその責任領域において、リーダーシップを発揮していることを実証できるように管理層の役割を支持する。
注記: 本国際規格において”ビジネス”と引用された場合、組織が公的組織か民間組織か、営利組織か非営利組織かを問わず、組織の存在目的に対して 中核となる活動を意味すると広く解釈することができる。
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解説: |
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品質マネジメントシステムを主体的に指揮し、運用するのはトップマネジメントであることは、現行の規格でも同じだが、その意図がいっそう強化された。
新しい要求事項であり、品質マネジメントを組織の方向性と結びつけるために、トップマネジメントが規格に記載されているいろいろな面での関わりを強めるように求めている。そのために組織を取り巻くリスクを特定し、評価することを行わねばならない。現行規格の5章と同じように、本章は、”リーダーシップとコミットメント”、”品質方針”および”組織の役割、責任と権限”より成り立っている。なお、本章の特徴としては、多くの規格文言が共通規格Annex SLから採用されていることである。従って、他のマネジメントシステムの要求内容が共通しているので、環境など他のマネジメントシステムとの統合が容易になる利点がある。
トップマネジメントの定義(3.05項)では、「最も高い地位で組織を指揮し管理する個人または人々のグループ」であるとし、注記には、「トップマネジメントは、組織の中で権限を委譲し、資源を提供する権力を有している」としている。日本では、通常社長がこれに相当する。ところが、品質マネジメントシステムを企業組織の一部分で構築し運用していることも多々ある。その場合のために、定義の注記では、”マネジメントシステムの適用範囲が組織の一部である場合には、組織の一部を指揮し管理する人がトップマネジメントと称される”となっている。従って、工場長や研究所所長であってもかまわない。
P.F.ドラッカーの「マネジメント 基本と原則」では、”日本企業は強力なリーダーを育てるようには見えない。凡庸なために選ばれ、波風を立てない小心な者を育成する上で理想的に見える。(中略)また最初の25年間はもっはら年功序列によって昇進させられるため、若い者の面倒を見、そだてることこそ、マネジメントの第一の責任とされている”と記述されている。このような日本的なリーダーではなく、品質マネジメントシステムでは、システムの全責任を担い、リスクを評価・選定した上で方針と目標を設定し、品質マネジメントシステムを構成しているプロセスの規範を社員に伝達し、高い品質の製品とサービスを顧客に提供し、顧客の満足度を高めることを率先して挑戦するリーダーが求められている。特に、”品質マネジメントシステムの有効性の責任をとること”は重い要求事項である。早川吉春(編者)「クオリティマネジメントを求めて」(平成9年)には、日本企業がかかえる問題点の一つに”トップマネジメントの責任意識の欠落”をあげている。国際規格を真に理解することの重要性はここにもある。
品質マネジメントシステムとビジネスプロセスとの融合が新たに求められている。ISO9001の認証取得を主な目標である企業のことではあるが、品質マネジメントシステムの導入によってビジネス面での成果が見られないというケースがいくつも報告されている。このような企業では、実際行われているビジネスと切り離して品質マネジメントシステムを維持しているだけの場合が多い。この現状を受けて、品質マネジメントシステムが業績面でよい結果を生み出すように改訂が行われた。その一端がここに見られる。
一般企業での中核となる活動は、組織の業種や規模のみならず、製品とサービスの内容によって大きく異なる。製造業ならば、営業、受注、設計、外注、購買、生産、検査、出荷などとなるだろう。同じような業務はサービス業でもみられるが、中核的な業務として管理しなければならない範疇は広い。品質マネジメントシステムの対象にする業務を何にするかは組織が自由に決めることになる。販売業ならば、人事、仕入れと店舗設計かもしれない。金融業は、人と商品開発、情報通信ならば、専門家の養成と開発のための外部委託先選定かもしれない。いずれにしても、人に関係する業務である点では共通している。
これらビジネスプロセスと品質マネジメントシステムを一本化するとは、どういうことだろうか。たとえば、開発部門をとりあげよう。開発のテーマ毎にチームを組んでいることは多くの企業で見受けられる。チームの運用方法は、チームリーダーによって異なることが多い。運用方法が異なれば、成果や開発期間が異なる。これでも経営面で問題が生じないならば、それでよかろう。しかし、もし問題があると認知されているならば、品質マネジメントシステムでの取り決められたステップをすべてのチームが採用することで、チームの開発能力を高めることができる場合もある。同じように、各支店毎に異なった営業活動の運用方法が採用されることがある。価格決定の権限が課長にない支店もあれば、支店長以外は価格の決定権がないというような運用は決して望ましいことではない。このような取り組みを行うことが、品質マネジメントシステムの一本化と言える。
”管理者の役割が、彼らの責任ある領域で彼らがリーダーシップを発揮していることを明らかにできるように支援する”を真摯に受け止めることは重要である。権限委譲が明確にされていない企業が多い日本では、権限委譲と説明責任を明確にすることだけでも、企業業績を向上できると筆者は考える。権限委譲が十分になされていない日本企業の遅い意思決定は、世界規模で展開されている事業の大きな欠点である。
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5.1.2 顧客重視 |
トップマネジメントは、次のことを確実にすることによって、顧客重視についてのリーダーシップとコミットメントを実証しなければならない。
ー 顧客並びに適用される法的及び規制上の要求事項が明らかにされ、満たされていること;
ー 製品とサービスの適合性、および顧客満足を高める能力に影響を及ぼす可能性のあるリスクと機会は明らかにされ、対処されている;
ー顧客並びに適用される法的及び規制上の要求事項を満たす製品とサービスを一貫して提供することを重視することが維持されている;
ー 顧客満足を高めることを重視することが維持されている。
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解説: |
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顧客重視は現行規格でもあったが、「顧客第一主義」とかを品質方針に掲げて単なるスローガンとして取り扱い企業があった。その程度ですまされた曖昧な要求事項だった。今回の改訂により、トップマネジメント自らが行うべき内容が明快になり、リスクと機会の評価や自社の能力を再確認することが求められた。
”リスクと機会”という文言がここで使われた。リスクの定義は、”期待された結果に関しての不確実性の影響”であり、その注記には、”影響は、期待されたいることからの乖離ー正もしくは負”などの説明があるがあまり意味のある内容ではない。もっとも重視したいのは注記4である。”用語リスクは、悪い結果が生まれる可能性があるときのみに使われる場合がある”としていることである。このような誤解が生まれないように、改訂された規格では、負と正の両側面である”リスクと機会”が文言に取り入れられた。
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5.2 品質方針 |
5.2.1 トップマネジメントは、次のような品質方針を策定し、レビューし、維持しなければならない:
ー組織の目的とコンテキストに適切である;
ー品質目標を設定し、レビューするための枠組みを提示する;
ー 適用される要求事項を満たすことへのコミットメントを含む;
ー品質マネジメントシステムの継続的な改善に対するコミットメントを含む。
5.2.2 品質方針は、次であること:
ー 文書化された情報として求めに応じられる;
ー組織内に伝達され、理解され、適用されている;
ー必要に応じて、利害関係者にも入手可能である。
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解説: |
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P.F.ドラッカーは「マネジメント 基本と原則」で、”トップマネジメントには、事業の目的を考えるという役割がある。すなわち、’われわれの事業は何か。何であるべきか’を考えなければならない。この役割から、目標の設定、戦略計画の作成、明日のための意思決定という役割がある”と言っている。上記の”品質方針”がそれに相当する。
組織がある一つの事業活動を開始する前に、トップマネジメントが行動する意図は何かを明らかにすることは賢明なことである。それが方針の表明の基礎となっている。 だからこそ、規格は、トップマネジメント自らが品質方針を策定し表明するべきであることを明瞭に指定している。 規格では、方針の内容について記述しているが、一般論的である。業界によってはこれとは異なった要素の方針を含めることもあり得るだろう。現行規格に加えて、新規格は、これらの品質方針を利害関係者にも入手できることを新しく求めている。ただし、該当する場合であるから、必ずしも公開する必要はない。
一度策定した方針と目標は時間の経過とともにその適切さが失われることが多い。従って、定期的に方針と目標はレビューされねばならない。特に、企業環境に何らかの変化が生じたときやマネジメントレビューで品質方針や組織の目的に欠陥があると認知されたときには変更の必要がある。その鮮度を保つことはトップマネジメントの責務でもある。
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