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品質マネジメントシステムーISO9001:2015
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0.1 序文 一般 |
品質マネジメントシステムの採用は,パフォーマンス全体を改善し,持続可能な発展への取組みのための安定した基盤を提供するのに役立ち得る,組織の戦略上の決定である。
組織は,この規格に基づいて品質マネジメントシステムを実施することで,次のような便益を得る可能性がある。
a) 顧客要求事項及び適用される法令・規制要求事項を満たした製品及びサービスを一貫して提供できる。
b) 顧客満足を向上させる機会を増やす。
c) 組織の状況及び目標に関連したリスク及び機会に取り組む。
d) 規定された品質マネジメントシステム要求事項への適合を実証できる。
内部及び外部の関係者がこの規格を使用することができる。
この規格は,次の事項の必要性を示すことを意図したものではない。
ー異なる品質マネジメントシステムの構造を画一化する。
ー文書化をこの規格の箇条の構造と一致させる。
ーこの規格の特定の用語を組織内で使用する。
この規格で規定する品質マネジメントシステム要求事項は,製品及びサービスに関する要求事項を補完するものである。
この規格は,Plan-Do-Check-Act(PDCA)サイクル及びリスクに基づく考え方を組み込んだ,プロセスアプローチを採用している。組織は,プロセスアプローチによって,組織のプロセス及びそれらの相互作用を計画することができる。
組織は,PDCAサイクルによって,組織のプロセスに適切な資源が与えられ,マネジメントされることを確実にし,かつ,改善の機会が特定され,取り組まれることを確実にすることができる。
組織は,リスクに基づく考え方によって,自身のプロセス及び品質マネジメントシステムで,計画した結果から乖離することを引き起こす可能性のある要因を明確にすることができ,好ましくない影響を最小限に抑えるための予防的管理を実施することができ,機会が生じたときにそれを最大限に利用することができる(A.4参照)。
ますます活動的で複雑になる環境において,一貫して要求事項を満たし,将来のニーズ及び期待に取り組むことは,組織にとって容易ではない。組織は,この目標を達成するために,修正及び継続的改善に加えて,飛躍的な変化,革新,組織再編など様々な改善の形を採用する必要があることを見出すだろう。
この規格では,次のような表現形式を使用している。
ー“しなければならない”(shall)は,要求事項を示し,
ー“することが望ましい”(should)は,推奨を示し,
ー“してもよい”(may)は,許容を示し,
ー“することができる”,“できる”,“し得る”など(can)は,可能性又は実現能力を示す。
“注記”に記載されている情報は,関連する要求事項の内容を理解するための,又は明確にするための手引である。
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解説: |
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規格は序文から読むことと常に語っている。今回の規格改定での重要なポイントがここで明示されている。
組織のパーフォマンスを向上させ、持続可能性を高めることを一義的な目的とした品質マネジメントシステムを構築するための規格であるとしている。そのために、顧客重視のマネジメントに徹することを求めている。内部と外部の利害関係者の要望に耳を傾け、それを満たすことを目的としたマネジメントシステムを提唱している。
ただし、 今回の規格は、品質マネジメントシステムの画一性を求めていないとし、ましてや規格の条項に沿ったシステムは必要など一切ない。組織に使い勝手のよい効果的な品質マネジメントシステムにするには、規格の用語にこだわることなく、組織が日常的に使っている用語を用いる文書を構築することが重要だとしている。
PDCAサイクルを活用することによる継続的改善を実現するためにマネジメント原則の一つであるプロセスアプローチを採用していることを宣言している。さらに、現行規格の予防処置に代わり改善を強化するために”リスクベースの考え方”を導入したことが記述されれいる。グローバリゼーションの進展に伴って厳しくなるばかりの組織を取り巻く環境も”リスクベースの考え方”の導入の背景にある。特に、リスクへの対処はサプライチェーンマネジメントに不可欠であることは、いまや常識となっている。
”継続的改善に加えて,飛躍的な変化,革新,組織再編など様々な改善の形採用する必要がある”とし、さらに高度なマネジメントシステムへの飛躍を示唆している。今回の規格改定に当たって、”今後25年間は有効な規格にしたい”とISO事務局が報道していたが、その強い意図がこの序文に謳われている。
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0.2 品質マネジメント |
本規格は,ISO9000に規定されている品質マネジメントの原則に基づいている。記述内容には,それぞれの原則の記述,組織にとって原則が重要であることの論理的な根拠,原則に関連する便益の例,及び原則を適用するときに組織のパフォーマンスを改善するための典型的な取組みの例が含まれている。
品質マネジメントシステムの原則とは,次の事項をいう。
ー顧客重視
ーリーダーシップ
ー人々の積極的参加
ープロセスアプローチ
ー改善
ー客観的事実に基づく意思決定
ー関係性管理
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解説: |
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DIS案では、品質マネジメント原則が記述されていたが、FDISではなくなり、ISO9000:2015に移された。残念ながら、ISO9000はしばらくは発表されないので、ここで原則とその論理的な根拠を紹介しておく。”原則に関連する便益の例,及び原則を適用するときに組織のパフォーマンスを改善するための典型的な取組みの例”は、ISO9000の発表を待つしかない。なお、現行規格では八つの原則だったが、一つ減り7つとなり、内容も大幅に変わった。
1-顧客重視
品質マネジメントのもっとも重視している視点は、顧客の要求を満たして顧客の期待を上回ることに努力することである。
その論理的な根拠
組織が、依存している顧客およびその他の利害関係者の信頼を集め、それを維持するときに、持続的な成功が達成される。あらゆる側面での顧客との相互作用が、顧客に対してより多くの価値を生み出すための機会を提供する。顧客およびその他の利害関係者の現在と将来のニーズを理解することは、組織の持続的成功に寄与する。
2-リーダーシップ
すべての階層でのリーダーは、目的と方向性とを一致させ、組織の目標を達成させることに人びとが参画する状況を構築する。
その論理的な根拠
目的、方向性および参画を調和させることで、組織の目的を達成するために、その戦略、方針、プロセスおよび資源を連結させることができるようになる。
3-人々の参画
すべての人々が力量をもち、権限を与えられ、価値の提供に参画することが、組織にとって不可欠である。
組織全体に亘って、人々が能力をもち、権限を与えられ、参画するとき組織の価値創造能力は高まる。
その論理的な根拠
効果的で効率的に組織を運営管理するには、すべての階層においてすべての人々を参画させ、彼らを個人として尊重することが重要である、認識をもち、権限を付与し、技能及び知識を高めることが、組織の目標の達成に向けた人々の参画を促進する。
4-プロセスアプローチ
活動が、首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスが理解され運用されたときに、一貫性があり予測可能な結果が、より効果的で効率的に達成される。
その論理的な根拠
品質マネジメントシステムは、相互に関連するプロセスによって構成されている。すべてのプロセス、資源、管理および相互作用を含め、このシステムによってどのように結果が生み出されるかを理解することによって、組織はそのパーフォマンスを最適化することができる。
5-改善
成功している組織は、継続的に改善を重視している。
その論理的な根拠
改善は、組織が、現在のパーフォマンスのレベルを維持し、内部および外部の条件の変化に反応し、新たな機会を生み出すために不可欠である。
6-証拠に基づく意思決定
データと情報の分析と評価に基づく決定は、望ましい結果を生み出す可能性を高める。
その論理的な根拠
意思決定は、複雑なプロセスとなることがあり、常に、多少の不確実性を伴う。それには、複雑な種類および源泉のインプットが含まれることが多く、またそれらの解釈も主観的なものになることがある。因果関係および潜在的な意図しない結果を理解することが重要である。事実、証拠、およびデータ解析は、客観性および信頼性がより高い意思決定に繋がる。
7-関係のマネジメント
継続的な成功のためには、組織は供給者のような、利害関係者との関係をうまく運営しなければならない。
その論理的な根拠
利害関係者は、組織のパーフォマンスに影響を与える。組織がそのパーフォマンスへの利害関係者の影響を最適化するために、彼らとの関係を運用管理するときに、持続的成功が達成されう可能性が高まる。その供給者およびパートナーネットワークとの関係のマネジメントが特に重要になることが多い。
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0.3 プロセスアプローチ 0.3.1一般 |
この規格は,顧客要求事項を満たすことによって顧客満足を向上させるために,品質マネジメントシステムを構築し,実施し,その品質マネジメントシステムの有効性を改善する際に,プロセスアプローチを採用することを奨励する。プロセスアプローチの採用に不可欠と考えられる特定の要求事項を条項4.4に規定している。
システムとして相互に関連するプロセスを理解し,マネジメントすることは,組織が有効的かつ効率的に意図した結果を達成する上で役立つ。組織は,このアプローチによって,システムのプロセス間の相互関係及び相互依存性を管理することができ,それによって,組織の全体的なパフォーマンスを向上させることができる。
プロセスアプローチは,組織の品質方針及び戦略的な方向性に従って意図した結果を達成するために,プロセス及びその相互作用を体系的に定義し,マネジメントすることに関わる。PDCAサイクル(0.3.2参照)を,機会の利用及び望ましくない結果の防止を目指すリスクに基づく考え方(0.3.3参照)に全体的な焦点を当てて用いることで,プロセス及びシステムを全体としてマネジメントすることができる。
品質マネジメントシステムでプロセスアプローチを適用すると,次の事項が可能になる。
a) 要求事項の理解,及びその一貫した充足
b) 付加価値の点からの,プロセスの検討
c) 効果的なプロセスパフォーマンスの達成
d) データ及び情報の評価に基づく,プロセスの改善
図1は,プロセスを図示し,その要素の相互作用を示したものである。管理のために必要な,監視及び測定のチェックポイントは,各プロセスに固有なものであり,関連するリスクによって異なる。
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解説: |
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品質マネジメントシステムは、マネジメントのプロセス、営業から納品までの中核となるビジネスプロセス、これらを支援するプロセスなど多数のプロセスから構成される。現行規格でも、採用されているプロセスアプローチを再認識させるために、序文でこのような説明がつけられた。プロセスアプローチの理解には十分な説明であると思うが、”機会の利用及び望ましくない結果の防止を目指すリスクベースの考え方”を組み合わせてPDCAサイクルを運用することで、”組織の品質方針及び戦略的な方向性に従って意図した結果を達成する”ことができるとしていることには留意すべきである。
なお、プロセスの説明に使われている図での、インプットとアウトプットとの関係では誤解されやすいことがある。通常、プロセスとは「インプットをアウトプットに変換する活動」とされる。投入される”物質、エネルギー、情報”のインプットを”製品、サービス、決定の形”のアウトプットに変換する活動がプロセスである。この場合、変換を効果的かつ効率的に行う工程管理が求められる。品質マネジメントシステムISO9001:2015は、顧客満足を満たすことを効果的に行うプロセスが要求事項となっている。効率は要求されていない。効率までも言及しているのは、ISO9004である。ISO9001の認証によって得る恩恵が少ないと批判するのは、規格の理解が十分ではないことを意味する。
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0.3.2 PLan-Do-Chech-Act サイクル |
PDCAサイクルは,あらゆるプロセス及び品質マネジメントシステム全体に適用できる。図2は,条項4ー条項10をPDCAサイクルとの関係でどのように分類できるかを示したものである。
PDCAサイクルは,次のように簡潔に説明できる。
Plan:品質マネジメントシステム及びそのプロセスの目標を設定し,顧客要求事項及び組織の方針に沿った結果を出すために必要な資源を用意する。
Do:Planを実行する。
Check:方針,目標及び要求事項に照らして,プロセス並びにその結果としての製品及びサービスを監視し,(該当する場合には,必ず)測定し,その結果を報告する。
Act:必要に応じて,パフォーマンスを改善するための処置をとる。
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解説: |
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下図は、DIS案で示されていたプロセスモデルである。2000年版ISO9001の発刊以来、「顧客で始まり顧客で終わる」モデルを踏襲していた。しかし、FDISでは、リーダーシップを中心に据えてPDCAサイクルを強調したいために、このように変更している。
今回のモデルでは、”結果重視”の思考が強く反映されている。顧客満足度などパーフオマンスを高めるために組織はPDCAサイクルを回転させることを求めていることを強調したいのだろう。だが、その視点からも、DIS案でのモデルの方が規格を実務的に活用するには好ましいと筆者は考える。
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0.3.3 リスクベースの考え方 |
リスクベースの考え方(A.4参照)は,有効な品質マネジメントシステムをもたらすために必須である。リスクベースの考え方の概念は,例えば,起こり得る不適合を除去するための予防処置を実施する,発生したあらゆる不適合を分析する,及び不適合の影響に対して適切な,再発防止のための取組みを行うということを含めて,以前の版のこの規格に含まれていた。
組織は,この規格の要求事項に適合するために,リスク及び機会への取組みを計画し,実施する必要がある。リスク及び機会の双方への取組みによって,品質マネジメントシステムの有効性の向上,改善された結果の達成,及び好ましくない影響の防止のための基礎が確立する。
機会は,意図した結果を達成するための好ましい状況,例えば,組織が顧客を引き付け,新たな製品及びサービスを開発し,無駄を削減し,又は生産性を向上させることを可能にするような一連の状況の結果として生じることがある。機会への取組みには,関連するリスクを考慮することも含まれ得る。リスクとは,不確かさの影響であり,そうした不確かさは,好ましい影響又は好ましくない影響をもち得る。リスクから生じる,好ましい方向への乖離は,機会を提供し得るが,リスクの好ましい影響の全てが機会をもたらすとは限らない。
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解説: |
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規格でも説明されているように、現行規格でも予防処置として”リスクベースの考え方”に近い概念が採用されていた。だが、是正処置と混同され、ISO9001:2008の予防処置を有効に活用する組織はまれになって不人気な要求事項だった。とは言っても、リスクマネジメントならば簡単だが、”リスクベースの考え方”となると本当の意味することがよくわからない。リスクマネジメントの専門家たちも、聞きなれない用語だそうだ。DIS案では、リスクマネジメントの国際規格ISO31000を参照するように文言に入れていた。にもかかわらず、FDISでは、なぜかその文言も消えている。その背景は明らかにされていないので、真意はいっそう不可解になっている。
いずれにしても、リスクと機会への対処は、次のように多くの要求事項で求められている。
4.4 品質マネジメントシステムおよびそのプロセス f)6.1の要求事項によって決定したリスクと機会に取り組む
5.1.1 リーダーシップおよびコミットメント d)リスクに基づく考え方の利用を促進する
5.1.2 顧客重視 b)顧客満足への影響を与えうるリスクと機会を決定し、取り組む
6.1 リスクおよび機会への取り組みの決定と取り組みの計画
8.1 6.1で決定した(リスクと機会への)取り組みを実施するためのプロセスを計画
9.1.3 分析および評価 e)リスクおよび機会に取り組むためにとった処置の有効性
9.3.2 マネジメントレビューへのインプット e)リスクおよび機会に取り組むためにとった処置の有効性
10.2.1 不適合および是正処置 e)計画策定段階で決定したリスクと機会を更新
条項6.1 リスク及び機会への取組みの要求事項で解説しているように、限りなくリスクマネジメントの取組みと同じような対応をしなくてはならない。組織側だけでなく、審査側も大きな負担を受けることが予想される。”要求事項に適合するために,リスク及び機会への取組みを計画し,実施する必要がある”としているので、なんらかの証拠を見つける努力が審査員に必要になるからである。
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0.4 他のマネジメントシステムとの関係性 |
この規格は,マネジメントシステムに関する規格間の一致性を向上させるために国際標準化機関(ISO)が作成した枠組みを適用する(A.1参照)。
この規格は,組織が,品質マネジメントシステムを他のマネジメントシステム規格の要求事項に合わせたり,又は統合したりするために,PDCAサイクル及びリスクに基づく考え方と併せてプロセスアプローチを使用できるようにしている。
この規格は,次に示すISO 9000及びISO 9004に関係している。
ー ISO 9000 品質管理システム ー 基本及び用語は,この規格を適切に理解し,実施するために不可欠な予備情報を与えている。
ー ISO9004 組織の持続的成功のための運営管理 ー 品質マネジメントアプローチは,この規格の要求事項を超えて進歩していくことを選択する組織のための手引を提供している。
附属書Bは,ISO/TC 176が作成した他の品質マネジメント及び品質マネジメントシステム規格類について詳述している。
この規格には,環境マネジメント,労働安全衛生マネジメント又は財務マネジメントのような他のマネジメントシステムに固有な要求事項は含まれていない。
幾つかの分野について,この規格の要求事項に基づく,分野固有の品質マネジメントシステム規格が作成されている。これらの規格の中には,品質マネジメントシステムの追加的な要求事項を規定しているものもあれば,特定の分野内での規格の適用に関する指針を提供するにとどめているものもある。
この規格が基礎としたISO 9001:2015と旧版(ISO 9001:2008)との間の箇条の相関に関するマトリクスは,ISO/TC 176/SC 2のウェブサイト(www.iso.org/tc176/sc02/public)で公表されている。
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解説: |
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この規格によって受ける最も大きな恩恵は、複数のマネジメントシステムを一つのシステムに統合し易くなったことだと筆者は思っている。
マネジメントシステム国際規格は、品質、環境、労働安全衛生、情報セキュリティ、食品安全など急速に増殖し多様化が進んだ。それだけでなく、自動車や医療業界などのセクター規格が策定され多くの組織が採用し運用している。その結果、組織には複数のマネジメントシステムを運用することによって大きな負担を強いることになった。この問題を察知し問題解決を迫られたISO技術マネジメント協議会(TMB)の下にISOの合同作業委員会(JTCG)を設立した。この委員会がDirectives邦訳は”専門業務用指針”であり、規格の章作成とテンプレートを示すことでマネジメントシステムの両立性を向上させる指針である)を策定した。その付属書の一つがAnnex SLであり、高位の規格構成と称する。以下に示す規格の構成を定め、文言、用語と定義、共通する要求事項の内容を統一させることで規格の合理化を図った。
1.適用範囲
2.参照規格
3.用語と定義
4.組織のコンテキスト
5.リーダーシップ
6.計画
7.サポート
8.運用
9.パーフォマンス評価
10.改善
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