第二巻 : うつせみと思ひし時に取り持ちて

2006年07月09日(日)更新


原文: 打蝉等 念之時尓 [一云 宇都曽臣等 念之] 取持而 吾二人見之 T出之 堤尓立有 槻木之 己知碁知乃枝之 春葉之 茂之如久 念有之 妹者雖有 憑有之 兒等尓者雖有 世間乎 背之不得者 蜻火之 燎流荒野尓 白妙之 天領巾隠 鳥自物 朝立伊麻之弖 入日成 隠去之鹿齒 吾妹子之 形見尓置有 若兒乃 乞泣毎 取與 物之無者 烏徳自物 腋挟持 吾妹子与 二人吾宿之 枕付 嬬屋之内尓 晝羽裳 浦不樂晩之 夜者裳 氣衝明之 嘆友 世武為便不知尓 戀友 相因乎無見 大鳥乃 羽易乃山尓 吾戀流 妹者伊座等 人云者 石根左久見手 名積来之 吉雲曽無寸 打蝉等 念之妹之 珠蜻 髣髴谷裳 不見思者

作者: 柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)

よみ: うつせみと、思ひし時に[一云(いちにいわく) うつそみと、思ひし]、取り持ちて、我(わ)がふたり見し、走出(はしりで)の、堤(つつみ)に立てる、槻(つき)の木の、こちごちの枝(え)の、春の葉の、茂(しげ)きがごとく、思へりし、妹(いも)にはあれど、
頼(たの)めりし、子らにはあれど、世間(よのなか)を、背(そむ)きしえねば、かぎるひの、燃(も)ゆる荒野(あらの)に、白栲(しろたへ)の、天領巾(あまひれ)隠(がく)り、鳥じもの、朝立(あさだ)ちいまして、入日(いりひ)なす、隠(かく)りにしかば、我妹子(わぎもこ)が、形見(かたみ)に置(お)ける、みどり子の、乞(こ)ひ泣くごとに、取り与(あた)ふ、物しなければ、 男(をとこ)じもの、脇(わき)ばさみ持ち、我妹子(わぎもこ)と、ふたり我(わ)が寝(ね)し、枕(まくら)付(つ)く、妻屋(つまや)のうちに、昼はも、うらさび暮らし、夜はも、息づき明かし、嘆(なげ)けども、
為(せ)むすべ知らに、恋(こ)ふれども、逢(あ)ふよしをなみ、大鳥(おほとり)の、羽(は)がひの山に、我(あ)が恋(こ)ふる、妹(いも)はいますと、人の言(い)へば、岩根(いはね)さくみて、なづみ来(こ)し、よけくもぞなき、うつせみと、思(おも)ひし妹(いも)が、玉(たま)かぎる、ほのかにだにも、見えなく思へば

意味: この世に生きている思っていた時に、手をとって二人で見た走出の堤(つつみ)に立っている槻(つき)の木のあちらこちらの枝の春の葉が茂っているように思っていた妻だったけれど、
世のならいには逆らえないので、かぎろいの燃(も)える荒野に白い布に包まれて鳥のように朝に(あの世に)発ってしまって、隠(かく)れてしまったので、妻が形見に残したおさな子が泣くたびに与える物も無いので、男の身なれど、子を脇にはさんで、妻と二人で寝た離れの家の中で、昼は寂しく暮らして、夜はため息をついて嘆くけれど、

欅(けやき) 撮影(2006.06) by きょう

どうしていいかわからず、妻を恋しがっても会うこともできないので、羽(は)がひの山に、私の妻がいると人が言うので、岩を上ってやっとのことで来た、その甲斐(かい)もないことです。この世に私と一緒に生きていると思っていた妻が、ほのかにさえも見えないのだと思うと。。。

「走出(はしりで)」は山の端が突き出た場所と思われます。「羽(は)がひの山」がどこかはよくわかっていません。


第二巻